週末公開の映画……2017.12.27

『オール・アイズ・オン・ミー』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)



2017年の個人的な映画TOP3。

1位『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
2位『花戦さ』
3位『彼女がその名を知らない鳥たち』

まず、今年もドキュメンタリーが面白かったです。
その中で、『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』は秀逸。
世界中から賞賛を浴びる才能を持って生まれた人は、その苦悩も想像を絶するものなんだなと。
幸せの在りようのようなものを考えさせられました。
『花戦さ』は、篠原哲雄監督作品。生け花を通して、禅問答のようなやり取りが絶妙で、
サスペンス映画的な側面もあるという。よく出来た1本だと思います。
『彼女がその名を知らない鳥たち』は、究極の愛の映画。
ボクはちょっと近いところがあるので(笑)、なんかたまらなかったです。
もうどれもDVDになってるかも?お正月休みにでも、よかったら見てみて下さい。
さ、今週は1本です!


『オール・アイズ・オン・ミー』は、25歳の若さでこの世を去った人気ラッパー、
2PACの伝記映画。

1990年代のアメリカ。ヒップホップの世界には“東西抗争”なるものがありました。
西海岸のラッパーvs東海岸のラッパー。
ギャングスタのラップがエスカレートし、言葉の応酬が銃撃を生むという、
皮肉な状況を作っていたのです。
2PAC、本名トゥパック・アマル・シャクール。
ブラック・パンサー党員の母を持ち、あちこちを転々としていた幼少期。
母がドラッグ中毒になる中で、ラッパーになることを夢見た若者は、
2PACの名でデビューを果たします。
徐々に頭角を現し、人気のラッパーにのし上がって行く中で、
彼もまた“東西抗争”の渦中へと巻き込まれていきます。
1996年9月6日にラスベガスで銃撃された2PACは、25歳の若さで命を落とすのでした…。

元はストリートから生まれた、ダンス、音楽、アートを総称して“ヒップホップ”だったのですが、
“ストリート”の意味が日本とアメリカとではまったく違っていて、
人を撃ったことのねぇヤツがラップなんかやってんじゃねえよって世界。
余談ですが、下着が半分出るように腰で履く“腰パン”は、
あまりに犯罪者が多くて囚人服が間に合わない。
ならばキングサイズを作っておけば、どんなサイズにも対応できるだろうと、
そのデカいのを体の小さい囚人が履くと、ウエストをヒモでギュッと縛っても下がる。
つまり、あれは“ムショ帰り”をアピールする、ギャングスタのファッションだったんですね。
ボクのNACK5の当時の番組にゲストで来てくれた、アン・ルイスさんが教えてくれました。
銃社会の悲劇は今も無くなりませんが、あの頃も悲報は続き、
翌年、東の大物、ザ・ノトーリアス・B.I.G.も銃殺されます。
FMfanという音楽誌で、ブラック系の音楽を担当し、原稿を書いていた時代。
すごくショックだったのを覚えています。
日本に生まれてよかったなぁと思う1本。90年代の洋楽ファンは必見です。☆4つ。
「オール・アイズ・オン・ミー」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.12.23

『ダンシング・ベートーヴェン』☆☆☆
『フラットライナーズ』☆☆


今年はもう映画が見られないかなぁと思っていたら、ありました!
26日にもう1本。これが本当に今年最後の試写になりそうです。
来週、個人的2017年のトップ3を発表しますねっ。お楽しみに!
さ、今週は2本です!


『ダンシング・ベートーヴェン』は、ベートーヴェンの「第九」とバレエがひとつになった、
一大プロジェクトのドキュメンタリー。

1964年にブリュッセルのシルク・ロワイヤルにて初演され、
20世紀バレエ史上に残る傑作と謳われた伝説のステージ。
それが天才振付家モーリス・ベジャール率いる20世紀バレエ団が踊った、
ベートーヴェン「第九」の舞台。
ところが、1978年にベジャールはこれを封印。
1999年の再演を最後に、2007年にベジャールが亡くなってからは、再演は不可能とされてきました。
ダンサー、オーケストラ、ソロ歌手に合唱団。
それも優秀な才能が多数必要なため、上演されずにきたんですね。
ところが2014年に、東京バレエ団創立50周年記念のひとつとして、
東京バレエ団とモーリス・ベジャール・バレエ団の共同制作で、
「第九」のプロジェクトが動き始めたのです。
途中でメインの女性ダンサーに妊娠が発覚し、降板するなど、順風満帆とは言えない現実。
それでもダンサーたちは、伝説のステージへと挑んでいくのです。
国籍も、肌の色も関係なく、繋がり合う才能たち。
それこそが人類の友愛へと続くことを示した映画だとの評価もありました。
ベートーヴェンの「第九交響曲」といえば、日本でも年末の風物詩になっていますからね。
今年は映画館で体感してはいかがですか?☆3つ。
「ダンシング・ベートーヴェン」公式サイト



『フラットライナーズ』は、サスペンスホラー。

女子医学生のコートニーは、クラスの仲間2人を誰もいない真夜中の病棟へと誘います。
そして、こう言うんですね。
「私の心臓を止めて、1分で蘇生して」。
他の臓器と同じように、心臓が止まっても、脳がギリギリ機能しているから、臨死体験は起こる。
そのデータを取れば、大きな発見につながるかもしれないとコートニーは考えたんですね。
実験は行われます。ところが、1分が過ぎても、コートニーの心臓は止まったまま。
慌てた2人は、友達を呼びに行き、なんとかコートニーの蘇生に成功します。
実験後、コートニーに特殊な能力が見られるようになります。
記憶力が飛躍的に発達したのです。
それを見た仲間たちは、我先にと実験の被験者になるんですね。
それも1分を2分、2分を3分へと延ばし。遂には危険な領域を超えてしまうのでした…。

1990年に公開となった同名映画のリメイク版。
現代版のほうが、医学の進歩もあって、よりリアリティが増したという声もあるよう。
ボクはもっとスピリチュアルな方向へ話が行くのかなぁと、期待してしまいました。
それがいけなかったかなと(笑)。
途中で変な道徳観というか、「オマエたち、もういい大人なんだからさぁ…」
なんて思っちゃうと入り込めなくなるんですよねぇ。
全体的に、個人的な悪いクセが出てしまいました(笑)。☆2つ。
「フラットライナーズ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.12.15

『オレの獲物はビンラディン』☆☆☆
『52Hzのラヴソング』☆☆☆
『はじまりのボーイミーツガール』☆☆☆
『花筐 HANAGATAMI』☆☆☆
『MR.LONG ミスター・ロン』☆☆☆☆


16日から24日まで、おかげさまでビッチリ競馬のお仕事。
従いまして、12月は前半で試写はおしまい。
今年もたくさん映画を見させてもらいました。
人と話をする時に、「そういえばさぁ…」と映画のエピソードを引用させてもらったり、
数多く見たドキュメンタリー映画に、ボクの引き出しの中身を増やしてもらったり。
この恩恵をみなさんに少しでもお返し出来ればと思って書いてるこのコラム。
役に立っていれば幸いです。
さ、今週は5本です!



『オレの獲物はビンラディン』は、実話を元にしたコメディ映画。

コロラド州に住む、中年男性のゲイリー。
何度か刑務所にいたこともあるゲイリーですが、ちょっと変わった気のいいオジサンといった感じ。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロから3年。
ゲイリーは、テロの首謀者と言われるビンラディンを捕まえる夢を見るようになります。
その日も日課の人工透析を受けていると、神が現れ、
「パキスタンに行き、オサマ・ビンラディンを捕まえるのだ」との啓示を受けるんですね。
「アメリカを救えるのはオレしかいない」。
ゲイリーは立ち上がるのでした…。

実話だというのがすごい(笑)。
軍事訓練も何も受けたことのない中年男のゲイリーが、資金もないからとカジノで大儲け!
船やら、ハングライダーやら、あらゆる手段でパキスタンに行きを試みては、
身柄を拘束されたり逮捕されたりで帰国。
それでも懲りることなく、単身パキスタンへ向かうゲイリーのことは、
新聞やニュースにも取り上げられました。
主演はニコラス・ケイジ。ハマり役なのが、なんとも…(笑)。☆3つ。
「オレの獲物はビンラディン」公式サイト



『52Hzのラヴソング』は、台湾のミュージカル映画。

バレンタインデーに湧く台北の街。
花屋を営むシャオシンは大忙し。
幸せそうな恋人たちに素敵な花束を作るけれど、シャオシン自身には彼氏がいませんでした。
パン職人のシャオヤンも、彼女がいません。
気になる女性のレイレイから、スペシャルなチョコレートを注文されてはいますが、
それはレイレイが恋人のダーハーに贈るもの。
そんな寂しいふたりが、配達の途中で接触事故を起こしてしまうんですね。
激しい口論の末、シャオヤンのバイクで、シャオシンの花も運ぶことに。
ふたりの最後の配達先、そこは偶然にも同じ場所。
レイレイとダーハーが予約していた高級レストランだったのです…。

ポップで明るいミュージカル。
タイトルからして、ラジオ絡みの恋愛映画かなと思ってたら、ちょっと違いました(笑)。
“52Hz”とは、世界に1頭だけのクジラが発する周波数なんだそう。
1頭だけということは、他の仲間とコミュニケーションが取れないということ。_
ひとりで大海原を泳いでいるんだとか。
恋人のいないシャオシンとシャオヤンを、そんなクジラに例えたんですね。
バレンタインの作品ですが、恋人たちにしてみればクリスマスと同様の“アニバーサリー”。
今の時期に見たい、見せたい1本ということでしょう。
ボクの周波数も52Hz?届く女性はいるのでしょうか(笑)。☆3つ。
「52Hzのラヴソング」公式サイト



『はじまりのボーイミーツガール』は、フランスの人気小説の映画化。

ヴィクトールは12歳の男の子。
テストは0点の“落ちこぼれ君”のヴィクトールが好きなのは、優等生のマリーでした。
イケメンで秀才のロマンが言い寄っても、素っ気なく断るマリーが、
何とヴィクトールに近づいてくるではありませんか。
数学のテスト中に答えを見せてくれたり、家で勉強を教えてくれたり。
ヴィクトールの友達は、「チャンスだ!」とヴィクトールを煽ります。
マリーはヴィクトールに趣味のチェロの演奏を聞かせ、
「夢はプロのチェリストになること」と語るのですが、マリーには誰にも言えない秘密がありました。
視力が徐々に落ちていく病気にかかっていたんですね。
偶然にそれを知ったヴィクトールは、自分が目の代わりに利用されていたのかと憤ります。
ふたりの関係は、どうなってしまうのでしょうか…。

小さな恋の物語。
微笑ましくもあり、でも絶望的なマリーの将来を思うと、胸が締めつけられる思いもします。
そこに、まさに“一筋の光”となるのがヴィクトールの存在なんですね。
すべてはラストのマリーの表情に表れてるかな。
無邪気に、一生懸命に、好きな人とかかわりたいと頑張る幼い恋人たち。
忘れてしまった純情さを、取り戻したいという向きは是非!☆3つ。
「はじまりのボーイミーツガール」公式サイト



『花筐 HANAGATAMI』は、大林宣彦監督作品。

時は1941年。
17歳の俊彦は、アムステルダムに住む両親の元を離れ、佐賀県唐津の叔母の家で暮らすことに。
学校に行くと、そこには個性的な同級生がたくさん。
肺を病む従妹の美那に心惹かれながらも、他の女友達とも不良なる青春を謳歌する俊彦。
しかし、時代は太平洋戦争へと舵を切り始めます。
自分の命さえ自由に出来ない、そんな戦争へ日本は向かっていったのです…。

原作は、壇一雄の純文学「花筐」。
余命宣告を受けた大林宣彦監督が、『この空の花』、『野のなななのか』に続く
“戦争三部作”の最終章として作った169分の大作。
独自の空気感で映像が流れていきます。
監督の言葉がプレス用の資料にありましたが、その見出しにあった一文こそが、
この映画のすべてかなと。
それは、
「青春が戦争の消耗品だった時代の、先人の断念と覚悟を示す痛みを、未来の為に伝えたい」。
戦争は無慈悲です。人が人でなくなりますから。
感じ入って下さい。☆3つ。
「花筐 HANAGATAMI」公式サイト


『MR.LONG ミスター・ロン』は、日本人監督によるアジア映画。

台湾人の殺し屋、ロン。
依頼された次の仕事は、東京・六本木で幅をきかせ始めた、台湾人マフィアのジャンを消すこと。
ところが暗殺が失敗に終わり、ロンはジャンと組む日本のヤクザに捕らえられてしまうんですね。
始末しようと河川敷に運ばれて来たロンでしたが、間一髪で逃げ出すことに成功。
飛び乗ったトラックが向かったのは、トタン屋根の廃墟のような家が並ぶ、北関東の田舎町でした。
ひとまず傷だらけの体を休めたい。
そんなロンの元に、ひとりの少年がやってきて、いろんなものを差し入れてくれます。
彼の名はジュン。8歳の男の子です。
聞けば、母親は台湾人のシングルマザー。
なんとジュンはお母さんに頼まれて、覚醒剤を買いに行かされていたのです…。

SABU監督の“ハートウォーミングバイオレンスストーリー”。
あ、これはボクが考えたんじゃなくて、もらったチラシにあったキャッチコピーです。
でも、言い得て妙(笑)。
この後、お節介とも言える町の人々が、ロンの正体も知らずに屋台を始めるよう勧め、
ジュンやジュンの母親と台湾牛肉麺の屋台を出すのですが、
美味しいと評判になり、それが追っ手のヤクザたちの耳にも入ってしまうという、
皮肉な結果に。殺し屋に、平穏な日々は長くは続きません。
日本語をしゃべることの出来ない台湾人の殺し屋が主人公ですから、ロンは寡黙。
それがまたいい味付けで。ロンの大立ち回りはエグいですョ。
言ってみれば“残虐スカッと”?
この映画のラストがハッピーエンドかどうかは、見た人の判断でしょうね。☆4つ。
「MR.LONG ミスター・ロン」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.12.8

『ラ・ベア マッチョに恋して』☆☆☆
『ルージュの手紙』☆☆☆


11月末までに見た映画の本数は155本。
12月はあまり伸びないと思うので、2017年は160本台でしょうか。
年末には、個人的なTOP5ぐらいは発表出来るといいなと思ってます(^-^)。お楽しみに!
さ、今週は2本です!



『ラ・ベア マッチョに恋して』は、男性ストリップのドキュメンタリー。

アメリカ・テキサス州ダラスにある、人気のクラブ『ラ・ベア』。
1970年代末にオープンしたこの店は、マッチョなイケメン・ダンサーがストリップを披露する店。
ダンサーたちは実に個性的。
開店以来在籍しているベテランダンサーのランディ“マスターブラスター”を中心に、
プロとしての高い意識を持って女性客を楽しませてきたのです。
単に鍛えた身体で裸になれば女性が喜ぶかと言えば、そうじゃない。
そこには、たゆまぬ努力と奇抜なステージングのアイデアなど、
他には無いオリジナリティがありました。
このことは、“アマチュア・ナイト“なるものがあって、自称ダンサーたちがステージで踊るのですが、
レベルの違いは火を見るよりも明らか。やっぱり、プロはプロなんですよね。
ボクらのしゃべりの仕事も、プロとアマチュアの線引きって難しいというか、
曖昧な部分があるじゃないですか。でも、ボクらのプロ意識って、実はすごいんですョ。
喜怒哀楽、悲喜こもごもの彼らの人生。
プロって何だろう?
そんな目線で見てみると、面白い発見があるかもしれませんね。☆3つ。
「ラ・ベア マッチョに恋して」公式サイト


『ルージュの手紙』は、
フランスを代表する、ふたりのカトリーヌの競演作。

人を助けることを善しとし、助産婦として働くクレールは、大学生の息子と二人暮らし。
そんな彼女のもとに、一本の電話が入ります。
声の主は、30年前に姿を消した、父の元妻ベアトリス。血の繋がらない母親です。
突然の「今すぐに会いたい」という電話に困惑気味のクレールでしたが、
渋々出向くと、ベアトリスは末期のガンで、死ぬ前に父に会いたいと言うのです。
ところが、父はベアトリスの失踪に心を病み、自ら命を絶っていたんですね。
それを知り、号泣するベアトリス。
自由奔放なベアトリスは、真面目なクレールとは真逆のタイプ。
手術が決まり、「不安だから立ち合って」というベアトリスの電話を無視することが出来ず、
病院に向かうクレール。
許せないはずの継母との再会でしたが、ふたりで過ごす時間が、
過去の真実を少しずつ紐解いていくことになるのでした…。

ふたりのカトリーヌとは、大女優カトリーヌ・ドヌーヴと、カトリーヌ・フロ。
フランスを代表する二人の名女優です。
正反対の性格の、それも亡き父を巡る確執もある義理の母子。
ぶつかっては離れ、離れてはまたくっつく。
そうこうしていくうちに、嫌いなはずのベアトリスの女の部分を真似るクレール。
新たな男性との出会いがあったクレールは、ベアトリスのルージュを引き、パフュームを使う。
ベアトリスが言う、「もっと自分のために時間を使いなさい」という言葉を実践するクレール。
もしかすると女性が共感出来る、女性向きの映画かもしれません。
タイトルの意味も、最後は謎解きのように、ストンと落ちると思いますョ。☆3つ。
「ルージュの手紙」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.11.30

『希望のかなた』☆☆☆
『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


いよいよ12月。今年も残すところ、あと1ヶ月となりました。
12月はおかげさまで忙しく、試写の数も減っちゃうと思います。
果たして、2017年はあと何本見られますやら。
さ、今週は2本です!



『希望のかなた』は、フィンランド映画。

フィンランドの首都ヘルシンキの港に着いた貨物船。
山積みの石炭の中から、真っ黒になったひとりの若者が現れます。
彼の名はカーリド。シリア人です。
内戦が激化した故郷アレッポを飛び出し、流れ流れて、ここヘルシンキに辿り着いたのでした。
カーリドは警察に出向き、難民申請をします。
「生き別れになった妹を探し出し、フィンランドに呼んで、一緒に暮らしたい」と面接官に訴えたのです。
一方、この町でシャツを売っていたヴィクストロムは、日々の暮らしに嫌気が差していました。
ある日突然、妻と家を捨て、レストランのオーナーとして新たな人生を送ろうと決意。
手に入れた中古のレストラン“ゴールデン・パイント”には、やる気のない従業員と、やる気のない料理。
ビールだけで長居する常連客しかいませんでした。
それでもヴィクストロムには、新たな居場所が心地よかったのです。
そんなある日のこと、カーリドにトルコへの送還が決まります。
それを拒み、不法滞在者としてヘルシンキに残ることを決意したカーリドが寝泊まりしていた場所、
そこはゴールデン・パイントのゴミ捨て場でした…。

監督のアキ・カウリスマキは、難民に対するヨーロッパの風潮を打ち砕きたくて、
この映画を作ったと言います。
でも、そういう思想を声高に叫んでも人には届かないので、
ユーモアとメランコリックな雰囲気で描いた、という内容のことも話しています。
その後、カーリドはゴールデン・パイントで働くことになり、
一風変わった店の店員やヴィクストロムたちと仲良くなっていくんですね。
多様性を受け入れるか、否か。
我々日本人には正直ピンと来なくても、きっと難民問題を抱える当事国の人には暖かく響くのでしょうね。☆3つ。
「希望のかなた」公式サイト



『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』は、モーツァルト生誕260年記念作品。

1787年。モーツァルト、31歳の時。
プラハの街は、彼の新作オペラ“フィガロの結婚”が大人気。
名士が集まる劇場のパトロンでもあるサロカ男爵は、
邸宅の宴席で、モーツァルトをプラハに招待しようと提案します。
招待を受けたモーツァルトは、プラハ在住のオペラ歌手で、
古くからの友人であるヨゼファ夫人の家で過ごすことに。
ところが、主役のオペラ歌手が突然降板を申し出て、代役を立てなければならなくなります。
サロカ男爵に指名されたのは、市会議員の娘のスザンナでした。
モーツァルトは初めて会った時から、彼女の才能と美貌に魅せられてしまうんですね。
ヨゼファ夫人の家で、レッスンとリハーサルを重ねるうちに惹かれ合うふたり。
しかし、サロカ男爵もスザンナを狙っていたのです。
猟色家との黒い噂の絶えないサロカ男爵は、スザンナとモーツァルトの仲に嫉妬し、
スザンナの父にスザンナとの結婚を申し入れます。
男爵との結婚を喜んだのはスザンナの父だけ。悪評を伝えても、父は貸す耳を持ちません。
そこでスザンナは意を決し、結婚前にモーツァルトと一夜を共にすることにしたのです…。

35歳でこの世を去った、夭逝の天才音楽家モーツァルト。
彼のオペラの代表作“フィガロの結婚”と“ドン・ジョヴァンニ”の登場人物を彷彿とさせるような
キャラクターを登場させ、美しい18世紀のプラハの街並みをも再現した作品です。
中世ヨーロッパの、芸術と恋愛の映画であることはもちろん、
サスペンスの要素も取り入れたところが素晴らしいというか、
クラシック好きじゃなくても楽しめる1本に仕上がってます。
モーツァルトファンには、たまらない映画だと思いますョ。☆3つ。
「プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.11.24

『永遠のジャンゴ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


寒さが本格化してきました。外に出るのがおっくうになる季節。
家の中でゴロゴロしてるのも悪くはないけど、同じ屋内なら、映画館がオススメです。
もしかしたら、心の底からあったかくなれるかもしれませんョ。
さ、今週は1本です!



『永遠のジャンゴ』は、実在の伝説的ギタリストの物語。

第二次世界大戦中のフランス、パリ。街はナチス・ドイツに占領されていました。
そんな中、ジプシー出身のジャズ・ギタリストとして人気を集めていたのが、
ジャンゴ・ラインハルトでした。
彼の演奏に惚れ込んだナチスの官僚が、ドイツでの公演を持ちかけますが、
その頃すでにフランス国内でのジプシーへの迫害が始まっていたのです。
年老いた母、妊娠中の妻など、守るべき家族がいたジャンゴは、スイスへの逃亡を計画。
国境を接する町に移り住み、近くに住むジプシーのキャンプで親戚に囲まれ、国境突破の機を伺います。
ところが、この町もドイツ軍の支配下にあり、計画は遅れに遅れ、
徐々にジプシーへの迫害が厳しさを増してきたのです。
身分を隠して町のBARで演奏をし、生活費に充てていたジャンゴでしたが、それもバレてしまいます。
ナチスの指揮官は言います。
「ドイツで演奏する約束をお忘れか。まさかスイスに逃げるおつもりでは?」…。

幼い頃に火傷を負い、左手の一部が不自由になったにも関わらず、
薬指と小指を使わない3本指での特殊な奏法と、
スウィング・ジャズに伝統的なジプシー音楽を融合させた
ジプシー・ジャズで大人気だった伝説的ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの伝記映画です。
ジャンゴの生き様は、まさにジプシー。
「俺たちジプシーは戦争などしない。俺はミュージシャン。演奏をするだけだ」と。
しかし現実には、強大な力による迫害がジャンゴたちを襲います。
激動の時代を生き抜いたギタリストの話。
多大な影響を受けたギタリストは数知れず。レス・ポール、ジミ・ヘンドリックス、
ジミー・ペイジ、エリック・クラプトンたちのファンだという人、必見です。☆3つ。
「永遠のジャンゴ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.11.18

『エンドレス・ポエトリー』☆☆☆
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』/
『機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影』☆☆☆
『KUBO クボ 二本の弦の秘密』☆☆☆☆
『GODZILLA 怪獣惑星』☆☆☆
『全員死刑』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


風邪を引いてる人が多いですね。
試写室で、近くの人が咳込んでいると、申し訳ないけど席を移ってしまいます。
それでも狭い空間ですから、ウイルスはいっぱい…。
うがいに手洗い。あなたも気をつけて下さいね。
さ、今週は6本です。



『エンドレス・ポエトリー』は、
チリ人監督のアレハンドロ・ホドロフスキーの自伝的映画。

故郷トコピージャから、首都のサンティアゴへと移り住むホドロフスキー一家。
決していい環境とは言えない労働者の町に、父は店を構えます。
万引き犯を容赦なく叩きのめす父は、子どもに対しても抑圧的で、
息子のアレハンドロはそんな父に怯えながら暮らしていたのです。
そんな中、1冊の詩集と出会い、感銘を受けたアレハンドロは、
医者になれと言う父に対し、自分は詩人になると反発します。
すると従兄弟のリカルドが、芸術家の姉妹を紹介してくれることに。
姉妹の家には様々なアーティストが暮らしていて、即興で詩を詠んだアレハンドロは、
その才能を認められ、彼らと一緒に生活するようになるのでした…。

前作『リアリティのダンス』から3年。
まさに前作のラストから始まる、自伝的映画の続編です。
ハリウッドものとは違う、商業的作風ではないので、あまり映画を見ない人には“?”な感じかも。
この先、あと3部あるとか。
クセになったら、全部見ないと気が済まないかもしれませんね(笑)。☆3つ。
「エンドレス・ポエトリー」公式サイト


『機動戦士ガンダム サンダーボルト』と
『機動戦士ガンダム Twillight AXIS 赤き残像』は、
同時上映のガンダム・アニメ。

ストーリーは割愛しますが、前者はビッグコミックスペリオールで連載中の作品のアニメ化。
大ヒット有料配信中の全4話に、新作シーンを加えた特別編。
後者は企画・製作のサンライズが独自にオリジナルコンテンツを発信するウェブサイト
『矢立文庫』で連載中の同名ウェブ小説の映画化。
ガンダムのファンクラブで独占先行配信した全6話のショートアニメに、
新作シーンを加えた特別編。
以前『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』
というのを紹介しましたが、あの時はまったく意味がわからず(笑)。
でも、その後、ガンダムに詳しい友人から説明を受けたら、「なるほど…」と。
どちらが正義で、どちらが悪とか、そういう話じゃないのがガンダムなんですよね。
それを踏まえて見たら、2本共わかりやすかったです。
「ファンにはたまらない映画。公開が楽しみなんですョ」とは、その友人の言葉です。☆3つ。
「機動戦士ガンダム サンダーボルト」公式サイト
「機動戦士ガンダム Twillight AXIS 赤き残像」公式サイト



『KUBO クボ 二本の弦の秘密』は、ストップモーション・アニメーション。

クボは三味線の音色で折り紙に命を吹き込めるという、不思議な能力を持つ、独眼の少年。
クボは幼い頃、母と共に、闇の魔力を持つという月の帝に命を狙われ、片方の眼を失います。
今は追っ手から逃れるように、母とふたりで、村の外れに暮らしていたのです。
父ハンゾウは家族を守るために亡くなったと聞かされたクボ。
でも、実は月の帝はおじいさん。自分の祖父が、なぜ家族を狙うのか。
クボは信じることが出来ずにいたのです。
盆踊りの晩、日が落ちるまでには絶対に帰宅するという約束を初めて破ったクボは、
怪しいふたりの女に追いかけられるんですね。
叔母だというふたりの女。すると病床の母が現れ、
クボに「3つの武具を見つけにいきなさい」と告げ、
自らの命と引き換えにクボを助けたのでした。
気付くとクボは雪原に。母が持たせた木彫りのサルのお守りが、
実物に変わり、クボに話しかけます。
「3つの武具を見つけて、戦うしか道はない」と。
こうしてクボは、武具探しの旅に出るのです…。

ストップモーション・アニメとは、想像を絶するような、
気の遠くなる作業を繰り返して作る映像のこと。
人形を作り、少しずつ動かし、表情を変え…。
1週間で、平均3.31秒分しか作れないそう。
総作業時間は1149015時間!すごいでしょ。
製作スタジオ『ライカ』のCEOで、監督も務めたトラヴィス・ナイトは、
黒澤明、宮崎駿監督をリスペクト。
「ミヤザキがヨーロッパに対してやったことを、
今度はボクが日本に対してやってみたかったんだ」と、
題材を日本の昔話に取り、オリジナルのストーリーながら、
日本古来の文化が描かれた作品になったのです。
クボはサルの他に、クワガタという、折り紙にされてしまったサムライと共に旅をします。
両親を亡くしたクボが、何故祖父である月の帝に追われるのか。それは見てのお楽しみ!
スタッフの親日の気持ちと、膨大な作業に敬意を表して。☆4つ。
「KUBO クボ 二本の弦の秘密」公式サイト


『GODZILLA 怪獣惑星』は、ゴジラ映画のアニメ版。

1999年5月に初めて“怪獣”なるものがNY、マンハッタン島付近に出現。
以来、人類は怪獣の被害に悩まされることに。
ゴジラが現れたのは2030年のこと。
これまでの怪獣とは比べものにならない甚大な被害に、
人類は2048年、遂に地球脱出を計画します。
人工知能により選ばれし人間だけが、11.9光年の彼方にある星を目指して旅立つも、
そこは予想値とは大きく異なり、人間が生存できる環境ではなかったのです。
地球に帰還する移民団たち。
しかし、地球は既に2万年の歳月が経過していて、
ゴジラを頂点とした生態系に生まれ変わっていたのでした…。

最初の映画『ゴジラ』が1954年ですから、あれから63年。
世界的キャラクターとなったゴジラも、かなりの進化を遂げています。
そんな中、今回はアニメです。
もちろんアニメと言っても、現代のアニメですから、それはそれはド迫力の映像。
それもそのはず、手掛けたのは国内最高峰の3DCGスタジオ、ポリゴン・ピクチュアズです。
実写版では描けないけど、アニメなら。
そんなゴジラとの出逢いが待ってます。☆3つ。
「GODZILLA 怪獣惑星」公式サイト



『全員死刑』は、2004年に福岡・大牟田で起きた殺人事件を題材とした映画。

弱小暴力団の組長である父、ヒステリックな母、
そして腹違いのふたりの兄弟からなる首塚一家。
近所に住む貸金業の女性、パトラからの借金を含め、
数千万の負債があるこの家族は、もはや組上層部への上納金も払えない状況にあったのです。
刑務所から戻った次男のタカノリは、姑息な兄サトシにそそのかされ、パトラの家に侵入。
隠し持つと噂される2000万円を探し回るのですが、見つかったのは安価の宝石だけ。
そんな時、偶然帰宅したパトラの息子を、タカノリが殺害してしまうんですね。
「ひとり殺すなら全員殺すも同じこと!」
首塚家の家族全員での連続殺人が始まったのです…。

まだ記憶に新しい残虐な事件。公判でも互いにののしり合うなど、
前代未聞の裁判になったそう。
もちろん劇中では名前も変えてますが、実際の裁判では全員に死刑判決が下されています。
映画化が可能になったのには、次男が獄中で書いた手記が出版されていて、
そこに殺害時の被害者の状況や心境などが、事細かに書かれていたから。
人は心臓を撃たれてもすぐには死なない場合があるとか、
銃を突きつけて「殺すから頭を出せ」と言うと素直に従うなど、
実際に手を下した人間にしかわからない描写があるそうです。
こんなムチャクチャな家族が、
こうして普通に暮らしていたんだと考えると怖くなりますよね。
隣人はどんな人なのか。あなたも確かめたほうがいいかもしれませんョ。☆3つ。
「全員死刑」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.11.11

『一礼して、キス』☆☆
『劇場版 はいからさんが通る 前編〜紅緒、花の17歳〜』☆☆☆☆
『人生はシネマティック!』☆☆☆☆
『マスター』☆☆☆☆
『密偵』☆☆☆☆
『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週はレベルの高い作品が揃ったような気がします。
特に韓国映画は密度が濃かったです。テーマは反日色が強いものもあり、
政治や思想が入っちゃうとどうかと思いますが、作品としては素晴らしい出来にあります。
スポーツもそうですが、芸術や文化で、
負けてられるかと切磋琢磨するのはいいことだと思いませんか?
さ、今週は6本です!



『一礼して、キス』は、人気コミックの映画化。

高校で弓道部の部長を務める岸本杏。
中学から弓道に打ち込んではきましたが、最後と決めた高2の大会で全国大会へは進めず。
次期部長を後輩の三神曜太に託して、部活を引退しようとしていました。
三神はどちらかと言うと天才肌。練習もさほどしないのに、大会ではいとも簡単に優勝してしまう。
そんな三神が、杏に言います。
「俺、先輩のことずっと見てましたよ。もう1年、弓道を続けますよね?」
後輩なのに上から目線で、ストレートに迫ってくる三神に、杏はドギマギしてしまうのでした…。

弓道部の先輩と後輩の恋物語。
原作は小学館「ベツコミフラワーコミックス」の、加賀やっこによる同名コミック。
累計100万部を突破した人気漫画です。
若い恋愛について、オジサンがどうこう言う話じゃないかもしれないけど(笑)、
あまりに言いなりになって振り回されてる杏に少々イライラし、
クールでカッコイイのかもしれないけど、三神の行動がどうにも性に合わなくて。
映画の出来云々じゃないところで評価してるから、許してねって感じです(笑)。☆2つ。
「一礼して、キス」公式サイト



『劇場版 はいからさんが通る 前編〜紅緒、花の17歳〜』は、
シリーズ累計売上部数1200万部を誇る人気コミックの映画版。

大正時代。
陸軍少佐の娘、花村紅緒は女学校に通う17歳。
剣道は滅法強く、じゃじゃ馬だけど、明るく裏表のない性格でクラスの人気者。
学校で教えられる「日本女性とは」という決まり事が大嫌い。
恋も、学園生活も、自分で自由に選び、楽しみたいと思っていたのです。
ところがある日、イケメン陸軍少尉の伊集院忍がやってきて、
紅緒の許婚だというではありませんか。
これに紅緒は猛反発。一応先様へは出向くのですが、
ハチャメチャな行動で三行半を突きつけられようと、騒動ばかりを起こします。
しかし、優しい少尉の振る舞いに、紅緒は少しずつ心惹かれていくのでした…。

1975年から『週刊少女フレンド』で連載された、大和和紀による少女漫画。
前編と後編の二部作で映画化され、後編は来年の公開予定。
さらに映画ではTVアニメでは描かれなかった原作のラストパートまでを描き切るとか。
実は、ボクもタイトルは知っていたけど、物語は知らなかったんですョ。
なるほどこういう話なのかと、今になってわかった次第です。
面白いですね!長く愛されるものにはちゃんと理由があると思ってましたが、やっぱりなと。
一生懸命で、徐々に少尉に心開いていく紅緒が可愛いっ。
大正時代の恋愛がピンとくるのは、やっぱりオジサンの証拠でしょうか(笑)。
早く後編が見たいです!☆4つ。
「劇場版 はいからさんが通る 前編〜紅緒、花の17歳〜」公式サイト



『人生はシネマティック!』は、第二次世界大戦中のイギリスを舞台にした映画人の物語。

1940年のロンドン。
戦況はドイツ軍に押され、
イギリスの映画は国威発揚のプロパガンダ的なものが求められていました。
男性のコピーライターたちも兵隊に駆り出され、
代わりに女性秘書のカトリンが書いた広告のコピーが情報省映画局の上層部に認められ、
なんとカトリンは新作映画の脚本を書くことになります。
内容は“ダンケルクの戦い”でドイツ軍の包囲網から撤退するイギリス兵士を、
父親の舟を漕ぎ出し助けに向かった、勇敢な双子の姉妹を描いたもの。
脚本など書いたことのないカトリン。
それでもスペイン戦争で足を負傷して帰還した夫を支えるためにも、
毎日必死でタイプライターに向かうのでした…。

まだ女性脚本家がいない時代の物語。
カトリンの映画製作チームには、バックリーという優秀な脚本家がいて、
これが人付き合いの下手な皮肉屋さん。お世辞にも職場の環境はいいとは言えません。
さらに、脚本が上がり、キャストが決まるのですが、
これまた過去の栄光を引きずる老俳優だったり、
政府のゴリ押しで出演することになったド素人のアメリカ人空軍大尉だったりで、現場は大変。
公私共に波瀾万丈な中、ロンドンにも爆弾は投下され、周りの知人が亡くなってもいくのです。
それでも前向きに頑張る、カトリンの姿を描いた映画です。
決してハッピーエンドではないかもしれません。
でも、きっとこの時代に生きた人は強かったんだろうなと。
乗り越えていく強さは、平和な今のボクらにはないものだと感じました。☆4つ。
「人生はシネマティック!」公式サイト



『マスター』は、実話をもとに、韓国史上最大の投資詐欺事件を映画化したもの。

チン会長率いる投資会社ワン・ネットワーク。
政府の要人に賄賂を贈り、法の抜け穴を使って投資を募り、
4万人もの会員から多額の金を騙し取ろうと目論んでいたのです。
チン会長を支えるのは、マネジメント・パートナーのキムママと、天才プログラマーのパク。
そんな彼らの悪事を阻止せんと内偵を進めていたのが、
キム刑事をリーダーとする韓国警察の知能犯罪捜査班でした。
まず手始めに、キム刑事は秘密裏にパクに接触。
いつでも逮捕できるけれど、もし警察側に協力するならば、執行猶予を付けてやると持ちかけます。
我が身かわいいパクは、この条件をいとも簡単に飲むのですが…。

これじゃこの作品の魅力は何も伝わらないと思います(笑)。さわりもさわりですから。
とにかく、キレ者vsキレ者の闘いなわけです。
このパクにしても、警察に寝返るけど、ならばチン会長のパソコンをハッキングして、
財産をすべて自分のものにしてしまおうと。
その後で会長が警察に捕まれば、これ幸いな訳ですよね。
ところがチン会長は鋭い嗅覚の持ち主で、内部に裏切り者がいることに気づきます。
するとパクはあっさり自分が裏切ったと認めるのです。
もちろんここにも策略がある。
見てると、キム刑事も含め、いったい誰が本当の正義なのかがわからなくなってきます。
でも、最後にはスッキリと謎解きが出来る仕掛けになっているので、どうぞご安心を。
自身2度目だという、チン会長役のイ・ビョンホン。ハマり役でした。
また、キム刑事役のカン・ドンウォンが、アンジャッシュの渡部にそっくりで(笑)。
それはさておき、143分がちっとも長く感じないほど。面白かったですョ。☆4つ。
「マスター」公式サイト



『密偵』は、日本統治時代の朝鮮半島を舞台に、
独立運動団体“義烈団”と日本警察の攻防を描いた作品。

1920年代始めの京城(現ソウル)。日本が大韓帝国を植民地化。
ここには朝鮮総督府が置かれていました。
そんな中、祖国独立を目指して、数々の反対運動集団が誕生。
爆弾による破壊活動を企てていた義烈団を監視する役目として、
朝鮮人でありながら日本の警察に所属するイ・ジョンチュルに白羽の矢が立てられたのです。
一方で、義烈団もまた、ジョンチュルを味方に引き込もうと画策。
様々な人間関係や、出自、欲望、思惑が渦巻く中、義烈団は上海発の列車に、
日本の主要施設を爆破するだけの大量の爆弾を積み込むことに成功します。
しかし、義烈団の中にもスパイはいたのです。果たして、裏切り者は誰なのか?
爆弾を積んだ列車は国境を越え、京城に向かい、走って行くのでした…。

面白かったです。スパイ映画として見た時、実によく出来ているなと。
こちらにもイ・ビョンホンが義烈団の団長役で出演。日本警察のヒガシ部長には鶴見辰吾が扮しています。
誰が敵で、誰が味方なのか。この混沌とした時代に、それぞれの思惑が交錯するからこそ、わからない。
祖国を解放しようと闘うも生き方。一方で、日本側になびくも、また生き方。
重厚でありながら、ドキドキ感満載の140分。
「抗日運動を扱ってはいるけれど、反日映画ではない」という、
キム・ジウン監督の言葉も素直に納得です。☆4つ。
「密偵」公式サイト



『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』は、“考える人”で知られるフランスの彫刻家、
オーギュスト・ロダンの没後100年記念作品。

1880年、40歳になったロダンは、ようやく国から大きな仕事をもらいます。
それはパリに建設予定の国立装飾美術館の庭に設置されるモニュメントでした。
なかなか構成がまとまらないでいる中、弟子のカミーユは的確な指摘をロダンに示します。
ロダンも、美しく、才能溢れるカミーユの言葉には素直に耳を貸すんですね。
実はこのふたり、師と弟子の関係を超えていたのです。
ところが、ロダンには内縁の妻のローズがいて、
彫刻のようなローズの体を“神からの贈り物”と称し、ロダンはローズとは離れられずにいたのです。
女性としても、彫刻家としても認められないと嘆くカミーユ。
次第に彼女は、精神を病んでいくことになるのです…。

ロダンは38歳で花開いた、遅咲きの彫刻家。
それでも、以前から女性関係はお盛んだったようで。
愚直なまでの芸術家としての信念が、
決して受け入れられやすいとは言えなかったロダンは、世間の評価に悩みます。
ロダンの作品作りにとってカミーユの存在は大きかったのに、ローズとの狭間でこちらもまた悩む。
芸術家とは、“悩む人”なのかもしれませんね。
箱根彫刻の森美術館などで見られる『バルザック像』は、
ある角度から見ると、ある下世話なものに見えるそうです(笑)。
彫刻には明るくありませんが、作者を知ってから見ると、
その作品の内なるものが見えて、面白いのかもしれません。☆3つ。
「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.10.28

『ゴッホ〜最期の手紙〜』☆☆☆☆
『シンクロナイズドモンスター』☆☆☆
『マイティ・ソー バトルロイヤル』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写室での会話。
「この“女優N”って、知ってます?私と同じ年なんですけど」
「あ、なんか性格悪いらしいね」
「そうっ。すっごいイヤな性格で、嫌われ者なんですよ。女優仲間からもホント嫌われてて…」
もちろん、実際は“女優N”は名前で話されてて、この後の上映映画に出て来る女優さん。
余程恨みがあるんですかね。関係者がいっぱいいるところで、大声で言わなくてもねぇ。
登場シーンではその話ばかりが頭に浮かんできちゃって。ちょっと迷惑…。
さ、今週は3本です!



『ゴッホ〜最期の手紙〜』は、天才画家フィンセント・ファン・ゴッホの死の真相を描いた作品。

1981年、夏。郵便配達人の父を持つアルマンは、父から1通の手紙を託されます。
その手紙は、父の友人で、1年前に自殺したオランダ人画家のフィンセント・ファン・ゴッホが、
弟テオに宛てて書いたもの。
ところが出し忘れたらしく、それをパリに住んでいるテオに届けて欲しいというのです。
早速パリに向かったアルマンは、まず画材商のタンギー爺さんを訪ね、
テオの居場所を聞くのですが、テオは兄の死の半年後に亡くなったと言うのです。
タンギー爺さんの話を聞けば聞くほど、アルマンはフィンセントの死の真相が知りたくなります。
そこでアルマンは、フィンセントが最期の10週間を過ごした小さな村へと向かったのです…。

自分で自分の腹を撃って自ら命を絶ったフィンセント・ファン・ゴッホ。享年37歳。
最近では、ゴッホの死の謎に迫ろうという動きが増えているそうで、
動機の解明があちこちでなされているとか。
この映画のすごいのは、全編、動く油絵(回想シーンは水彩画)で作られているということ。
ゴッホの筆致を持つ画家125名がオーディションで選ばれ、
なんと62450枚もの“ゴッホ風”油彩画を描き、それを動かしているんですね。
アニメーションともちょっと異なる“肌ざわり”。
「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」と、
ゴッホはテオに宛てた最期の手紙に記していたと。
ならばゴッホの絵に語らせようと企画が成されたそうです。
すごい発想だ…。
物語は、ひとりの若者が、生前ゴッホの知り合いを訪ね歩き、
ゴッホの人物像を浮き彫りにしていくフィクション。
濃密な96分です。☆4つ。
「ゴッホ〜最期の手紙〜」公式サイト


『シンクロナイズドモンスター』は、アン・ハサウェイが主演、
製作総指揮を務めたバトル・エンターテインメント。

大都会NYでライターとして働いていたグロリアでしたが、リストラの憂き目に遭い、
毎晩飲んでは朝帰りの生活。同棲中の彼にも愛想を尽かされ、家を追い出されることに。
久しぶりに帰った田舎町の故郷で、グロリアは小学校の同級生だったオスカーとバッタリ。
オスカーはずっとこの町に暮らし、父親の跡を継いでバーの経営をしていたのです。
職も無いグロリアは、オスカーの店で働くことになり、新たな一歩を踏み出すのですが、
それでも酒浸りの生活であることには変わりがなかったのです。
そんなある日のこと、TVのニュースが、韓国のソウルに巨大怪獣が現れたと。
壊される街、逃げ惑う人々。
ところがその怪獣、グロリアの癖と同じ仕草をしているではありませんか。
「まさか…」。
食い入るようにTVの画面を見ていたグロリア。
実は彼女には、思い当たるふしがあったのです…。

『プラダを着た悪魔』で大ブレイク、大きな瞳クリクリのアンちゃん。今回は怪獣映画です(笑)。
ソウル市街と、グロリアが酔っ払って通る近所の公園の形が似通っていて、
そこでグロリアが取るポーズや動きが、なぜか怪獣とシンクロ。
オスカーやバーの常連たちと裏取りをしたら、確かにそうで、
怪獣が軍に撃たれるとグロリアもちょっと痛い(笑)。
調子に乗って動き回るグロリアが転んだ時、
ソウルの街は大きく破壊され、犠牲者が出てしまいます。
落ち込み、反省したグロリアは公園を通らないようにするのですが、
今度はソウルにロボットが出現したと。
そう、酔ったオスカーが、ふざけて公園で暴れまくっていたのです。
グロリアはオスカーを止めようと公園へ。
ソウルの街は、怪獣vsロボットの戦いの舞台と化してしまったのです。
って、こちらもすごい発想ですよね(笑)。
グロリアの何かが怪獣と化し、オスカーの何かがロボットとなり、
そして火花を散らして戦う。その互いの“何か”に気付くと面白いかも。
答えはひとつじゃないかもしれません。
見ているあなたも怪獣化する“何か”を抱いているのかもしれませんョ。☆3つ。
「シンクロナイズドモンスター」公式サイト


『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、マーベル・スタジオの最新作。

“聖なる鉄槌”ムジョルニアが武器の、マイティ・ソー。
義弟ロキにより、故郷アスガルドから地球に追放された父オーディンを探しに
NYへとやってきたソーは、父と再会。
父は世界の終わりが近づいていことをソーに告げるのでした。
そこに現れたのが、“死の女神”ヘラ。
ヘラは、ソーたちの姉でありながら、アスガルドと父オーディンを憎んでいたのです。
ソーたちを辺境の惑星へと吹き飛ばし、アスガルドへと乗り込むヘラ。
強大な力を持つヘラに立ち向かうには、ソーひとりではどうにもならず、
反目し合う立場のロキや、アベンジャーズのメンバーであるハルク、
さらにはソーを賞金目当てで売り渡したこともある女戦士ヴァルキリーも加わって、
チームを結成。ヘラと対峙するのですが…。

ヘラがやたら強いんですよ。
登場するや、ソーのトレードマークであるムジョルニアを粉々に壊してしまうんですから。
そんな姉とどう戦うのか。
そこで結成したチームの名が“リベンジャーズ”。
この名前に象徴されるように、ちょいちょいギャグが入ってきます(笑)。
いわゆる高値安定のシリーズ最新作。
来春公開の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に繋がる作品だそう。
ファンは必見です。☆3つ。
「マイティ・ソー バトルロイヤル」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.10.28

『彼女がその名を知らない鳥たち』☆☆☆☆☆
『ゲット・アウト』☆☆☆☆
『はじまりの街』☆☆☆
『被ばく牛と生きる』(評価なし)
『ブレードランナー 2049』☆☆☆☆
『星空』☆☆☆☆
『ポンチョに夜明けの風はらませて』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週は本数が多くて、ガラ携の文字数制限を超えました(笑)。早速いきましょう。
今週は7本です!



『彼女がその名を知らない鳥たち』は、究極の恋愛映画。

お金もなく、不潔でがさつな15歳年上の中年男、陣治と暮らす十和子。
十和子は働きもせず、あちこちにクレームをつけては鬱憤を晴らすような毎日。
実は十和子には、金はあるけどゲスなイケメン、
黒崎と付き合っていた過去があり、まだ黒崎を忘れ切れずにいたのです。
ある日のこと、腕時計の修理で百貨店の時計売り場に文句を言っていた十和子の元を、
売り場の主任、水島が謝罪に訪れます。
水島の誠意になぜか涙が止まらなくなった十和子に、水島はキスをするんですね。
どこか黒崎の雰囲気がある水島。それからふたりは逢瀬を重ねます。
十和子の帰りが遅いことを心配した陣治は、十和子の姉に相談。
姉は十和子が黒崎とヨリを戻したのではと疑いますが、陣治はそれを強く否定します。
そんな時、刑事が十和子の家にやってきて、黒崎が5年前から失踪中であることを告げたのでした…。

原作は沼田まほかるのミステリー小説。
登場人物のすべてが嫌なヤツ。なのに最後はぐっときちゃう。いやいや、究極の恋愛映画です。
陣治、十和子、黒崎、水島を巡るサイドストーリーもまた強烈。
でも美しいボーイ・ミーツ・ガール的な恋愛がある一方で、
どこかにこんな愛が、確かに存在するんじゃないかと思ってしまいます。
ボクは陣治が愛おしくなりました。あなたはどうでしょう?
すごい映画です!満点☆5つ!
「彼女がその名を知らない鳥たち」公式サイト



『ゲット・アウト』は、単なるホラーとは一線を画す“サプライズ・スリラー”。

NYに暮らす黒人男性のクリスは、白人女性のローズと交際中。
この週末は彼女の実家で過ごすことになっているのですが、クリスは気が重い。
なぜなら、ローズは両親に恋人が黒人であることを伝えていないから。
「父も母も差別主義者じゃない」と、クリスを安心させるローズ。
郊外にある豪邸の扉を開くと、確かにローズの両親は温かくクリスを迎えてくれました。
でも、黒人の管理人と家政婦がいる。クリスはちょっぴり違和感を覚えます。
翌日、ローズの亡き祖父を称えるパーティーが開かれたのですが、
金持ちの白人ばかりで気が滅入っていたクリスが、唯一の黒人を発見。
近づいて話しかけたのですが、黒人ならではの話が通じない。
何かがおかしい。
クリスの勘は正しかったのです…。

面白かったです。よく出来てます。
監督を務めたのは、これがデビュー作となるアメリカのお笑いコンビ、
キー&ピールのジョーダン・ピール。彼もまた黒人です。
あんまりストーリーは話さないほうがいいタイプの作品ですが、
車でローズの家に向かう途中、道で野生の鹿をはねてしまうんですね。
家に着いて、挨拶をし、軽く会話を交わす中で、その事故を報告。
そのやり取りは見逃さないようにして下さい。
確かに新しいタイプのスリラーです!☆4つ。
「ゲット・アウト」公式サイト



『はじまりの街』は、再出発の物語。

アンナは13歳の息子ヴァレリオを持つ母。
夫のDVから逃れるため、ふたりでローマから親友カルラの住むトリノへと向かいます。
カルラは陽気なひとり暮らしの女性。
「好きなだけいて」と母子に部屋を提供してくれたのです。
ところが友達もいない街で、ヴァレリオは目的もなく自転車で走り回るばかり。
苛立ちが募り始めていた頃、ヴァレリオに送られてきた父親からの手紙を、
彼が読んでしまうんですね。
「ローマに帰りたい!」。手紙を隠していたアンナに、ヴァレリオは怒りをぶつけます。
愛する息子のために自分を犠牲にし、過保護なまでにヴァレリオを守ってきた、
母アンナの心が揺さぶられた瞬間でした…。

イタリアの美しい街並みが印象的な映画。
それとは対照的に、アンナとヴァレリオの心には穏やかならぬ風が吹き荒れている。
ヴァレリオは、毎日自転車で通る公園に立つストリートガールのラリッサに恋をするのですが、
彼女の現実を見てしまい、ショックのあまり、押さえきれない感情が爆発してしまいます。
アンナも慣れない土地で一生懸命働くのですが、
その分ヴァレリオとの時間は持てなくなり、すれ違う毎日。
そんな時、向かいのビストロのオーナーがそっと手を差し伸べてくれるのですが、
彼もまたフランスからやってきた“ワケあり”の男性。
優しい彼にも消し去りたい過去があったりするのです。
みんな、つらいことも、幸せに感じることも、そのすべてが人生なんだという、前向きな人生讃歌。
大きな感動というよりも、心にぽっと小さな灯りがともるような作品です。☆3つ。
「はじまりの街」公式サイト



『被ばく牛と生きる』は、
福島の原発事故で強制避難を命じられた畜産農家と牛のドキュメンタリー。

2011年、東日本大震災の津波がもたらした福島第一原発事故。
国は20キロ圏内を警戒区域に指定。強制避難を命じます。
その区域には牛を育てる農家があり、約3500頭いた牛は、牛舎に繋がれたまま大半が餓死。
さらに、放射能に汚染された食肉を流通させないようにと、すべての家畜の殺処分が下ります。
それでも大切に育ててきた牛の命を、人間の勝手で奪うことはできないと、
莫大な餌代を自分たちで負担しながらも、牛を生かし続けようという畜産農家がいたのです。
この映画はそんな畜産農家のみなさんの、声なき命を守る戦いのお話です。
懸命に育てても、一銭にもならない牛たち。
でも農家のみなさんは、1頭1頭に名前を付けて、牛の世話をしてきた。
それを見ると、牛をいかに大切に育ててきたのかがわかります。
それでも原発事故から5年も経つと、10数軒あった反対農家は5軒に減少。
国はこうして、農家が音を上げるのを待っているかのよう。
農家のみなさんも、牛も、なんにも悪いことはしていないのに…。
考えさせられます。☆は付けられません。
「被ばく牛と生きる」公式サイト



『ブレードランナー 2049』は、前作『ブレードランナー』の30年後を描いた作品。

2049年のロサンゼルス。
ブレードランナーのKは、独り暮らしの農夫が住む農場へと向かいます。
実はその農夫、“解任”されるべき旧型レプリカント。
ずっと身を潜めていたのですが、Kの突然の来訪によって射殺されるんですね。
任務を終え、帰宅したKに、上司から連絡が入ります。
農場の土の中に不審な箱を発見し、回収したところ、30年前のレプリカントの骨が入っていたと。
そこに人類とレプリカントとの秩序を乱し、社会を崩壊させる危険性があるというのです。
Kはその詳細を調べ、危険分子を探し出して抹殺するよう指令を受けるのですが、
その任務がK自身のアイデンティティを探ることになるとは、知る由もなかったのです…。

1982年の『ブレードランナー』が描いたのは、2019年の世界。
環境破壊で、人類の大半は宇宙へ移住。
人間の知能を持ったレプリカントと呼ばれる人造人間が製造され、
過酷な労働に従事していたのですが、製造から数年経つと感情が芽生え、
その結果、人間に反抗する事件が勃発。
レプリカントを開発したタイレル社が4年限定の生命を“安全装置”にしたのですが、
レプリカントが人間社会に紛れ込もうとするのを防げなくなっていました。
そんな法を犯すレプリカントを“解任”する専任捜査官がブレードランナー。
そんな時、密かに宇宙から地球に戻った4体のレプリカントがいると。
ブレードランナーのデッカードが、開発者のタイレル博士に会って情報をもらうのですが、
博士の秘書のレイチェルも実はレプリカント。彼女はその事実を知って戸惑うんですね。
デッカードは、そんなレイチェルに惹かれていく…というのが前作。
その30年後、タイレル社は従属的かつ制御可能な新型のレプリカントを作ります。
それにより、レプリカント禁止法は解除になる。
ただ、まだ社会に潜む旧型レプリカントを発見し“解任”する必要があり、
Kの任務が30年前にひとりのレプリカントと姿を消したブレードランナーのデッカードに繋がっていくのです。
新作のあらすじは、これ以上書かないほうがいいかも。
2時間43分の長編ですが、まったく飽きません。よく出来たストーリーです。
前作『ブレードランナー』で、リドリー・スコット監督が描いた2019年。
実際には、さすがにそうはならなかったけれど、AIがいよいよ様々な形で実用化。
この先は、現実の世界が、SF映画のストーリーを追いかけることになっても、
何ら不思議ではありません。☆4つ。
「ブレードランナー」公式サイト



『星空』は、2011年に公開となった台湾映画。

13歳の少女、シンメイ。
裕福な家庭に育ちながらも、父と母の関係は上手くいっておらず、
家にも外にも居場所がありません。
そんなシンメイが大好きなのがおじいちゃん。
山の小屋に住んでいたおじいちゃんは、
「寂しくなったら、星空を見上げるのだよ。世界はこんなにも大きい」と、
シンメイを優しく諭してくれたのです。
ある日のこと、シンメイの学級にユージエという転校生がやってきます。
彼もまたどこか陰のある男の子。
ふたりは互いに惹かれるものを感じ、仲良くなっていくんですね。
そんな時、シンメイの両親が、遂に離婚の話をしてきました。
ショックを受けたシンメイは、ユージエと一緒に街を飛び出します。
ふたりが向かったのは、おじいちゃんの山小屋。
あのきれいな星空を見るための、冒険の旅の始まりです…。

原作は台湾の国民的人気絵本作家ジミー・リャオのベストセラー。
映画では、イラストやアニメ、切り絵などを使って、
原作の魅力をそのまま描写することにチャレンジしたのでしょう。
ファンタジックな演出も散りばめられていました。
シンメイの趣味は、大きな絵画のジグゾーパズルを作ること。
ユージエは絵を描くのが好きで、いつもスケッチブックを持ち歩いていました。
クラスに溶け込めずにいたユージエと、シンメイを結びつけたのは絵。
そんなふたりが星空を見に行こうと、おじいちゃんの山小屋へと向かうのですが、
当然いろんな困難が待ち受けているわけです。
シンメイの今を象徴するかのように、大切なジグゾーパズルの1ピースが無い。
これがこの映画のまさに大事な1ピースです。
甘酸っぱい物語。クリスマスに見たいかも。☆4つ。
「星空」公式サイト



『ポンチョに夜明けの風はらませて』は、青春ロードムービー。

高校卒業間近の又八、ジン、ジャンボは、仲良しトリオ。
大学進学を目指すジン、家業のトンカツ屋を継ぐことを決めたジャンボに対し、
又八はまだ進路が定まらずにいました。
ジンの大学合格発表の日、又八とジャンボは、
ジャンボのお父さんの車でジンを迎えに行くのですが、ジンは不合格。
落ち込むジンを励まそうと、そのままドライブに出かけるのですが、
免許を取ったばかりの又八は車をガンガンぶつけちゃう。
このセルシオ、実はジャンボのお父さんが貯金をはたいて買った念願の新車だったのに。
途中、ヤンキーに絡まれている女の子を乗せたら、
さっきまでコンビニで立ち読みしていた雑誌に載っていたグラビアアイドル!
ひょんなきっかけから風俗嬢まで車に同乗して。
若き男女5人のハチャメチャなドライブは続くのでした…。

この手の賑やかな映画は、単なるバカ騒ぎで終わってしまうことも多々あるのですが、
秀逸だったのはセリフのやり取りに不自然さがないこと。
まるで本当の親友同士のように、すごく自然に会話のキャッチボールが出来ていたので、
そこにストレスはまったくありませんでした。
これって、実はなかなかお目にかかれないんですョ。
ストーリーは逆にオジサン世代にはどうかなと(笑)。
そのプラスマイナスで、鑑賞後の評価は別れるのかもしれませんね。
テーマは「逃げたっていいじゃん」だそう(笑)。それもまたどう受け取るかは世代間の違いかなぁ。
こういう映画を、学校の授業の一環として、校外学習なんかで生徒に見せて、
あれこれディスカッションしたらいいのにと思ったりもしました。☆3つ。
「ポンチョに夜明けの風はらませて」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.10.20

『セブン・シスターズ』☆☆☆
『ソニータ』☆☆☆☆
『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』☆☆☆☆
『我は神なり』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写で見られなかった映画『ドリーム』を見てきました。
1960年代初頭の、米ソ宇宙開発戦争時代のNASAが舞台。
優秀な黒人女性たちが、肌の色で差別を受け、その能力を発揮出来ずにいたのですが、
3人の女性がそこに風穴を開けるという、実話に基づいたストーリー。
見ていて、3回ぐらい涙がこぼれたかなぁ。いい映画でしたョ。
☆を付けるなら、満点☆5つ!
現在公開中。ご覧になってみて下さい。
さ、今週は4本です!



『セブン・シスターズ』は、近未来のSFアクションスリラー。

人口増加と地球環境の悪化で、食料不足が深刻な問題となった近未来。
遺伝子組み換え作物の影響で、双子や三つ子などの多生児が急増。
政府は一家族につき、子供ひとりだけとする法律を作り、
二人目以降の子供は「この環境が良くなるまで」と、冷凍保存するとされたのです。
ある日のこと、病院で七つ子が誕生します。母親は出産直後に死亡。
医師を買収し、祖父がすべての赤ちゃんを連れ帰り、それぞれに曜日の名前を付けたのでした。
その目的は、自分の名前の曜日だけ外に出て、カレン・セットマンという名の女性を生きなさいと。
すべてを報告し、すべてを共有し、7人すべてが生き長らえるための、苦肉の策だったのです。
大人になった7人は、エリート銀行員となったカレン・セットマンを生きていたのですが、
ある日突然、“月曜”が出勤したまま行方不明になってしまったのです…。

女優ノオミ・ラパスが、1人7役を演じたこの映画。
月曜から日曜まで、七つ子といえど、それぞれキャラクターが違う、
個性的な姉妹という設定。演じるのも、撮影も、大変だったと思いますョ。
ただやっぱり、ツッコミどころはたくさんあって(笑)。
矛盾点が気になり始めちゃうと冷めちゃうかな。
それでも政府の政策の闇を暴くあたりは、
「えっ、そうだったんだ…」と素直に物語の世界に入っていけました。
☆は迷いましたが、ノオミ・ラパスの女優魂にも敬意を表して。☆3つ。
「セブン・シスターズ」公式サイト


『ソニータ』は、中東のひとりの難民少女を追いかけたドキュメンタリー。

タリバンの迫害から逃れようと、アフガニスタンからイランにやってきたソニータ。
彼女はテヘラン郊外の貧困地域に許可なく住む不法移民ですが、
児童保護施設で、同様の子供たちと教育を受けることは出来ていたのです。
彼女の夢はラッパーになること。
しかし、女性が公の場で歌うことが禁じられているイランでは、到底その夢を叶えることは出来ません。
そんな時、ソニータの母は、ソニータを知らない男性に嫁がせようとしていました。
花嫁は金で買われていくのです。
その金は、今度はソニータの兄の結婚資金として使われていくという。
カメラを回していたテヘラン出身の女性監督ロクサレ・ガエム・マガミは、
16歳で売られていこうとしているソニータを助けるため、
彼女の母親にお金を渡し、縁談を延期させるんですね。
その間に撮影したソニータのビデオクリップが、インターネット上で話題となり、
ソニータの人生を変えていくことになるのですが、被写体と関わりを持つことは、
ドキュメンタリー映画の監督にとってはタブーとも言える行為。
でも、彼女は悩みに悩み抜いた結果、手を差し伸べるんですね。
ソニータのラッパーとしての才能はかなりのもの。
自身の境遇や運命をリリックにするから説得力が出る。
フィクションだと言われても納得してしまうような内容でした。
これがドキュメンタリー映画なのですから…。☆4つ。
「ソニータ」公式サイト


『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』は、アメコミのヒーローと日本のアニメとのコラボ映画。

アメリカン・コミックの代表的ブランドのひとつ、DC(Detective Comic)。
DCの人気キャラクターであるスーパーヒーローたちと敵対する悪役たちが“ヴィラン”。
そのヴィランの中のジョーカーとハーレイ・クインが、なぜか東京のシェアハウスに住んでいる。
そこへやって来たのが、もうひとりの悪役、ペンギンでした。
この“悪の3人”が揃ったのには理由がありました。彼らは鷹の爪団を探していたのです。
天才博士レオナルドが開発した秘密兵器を奪い、金を荒稼ぎするのが目的で、
それを阻止しようと、正義の味方“ジャスティス・リーグ”のスーパーマン、ワンダーウーマン、
フラッシュ、サイボーグ、アクアマンが来日。鷹の爪団と協力して戦うことになったのですが…。

と、ストーリーはどうでもいいっちゃ、どうでもいいかも(笑)。
面白かったです!
『鷹の爪団』は、元々CGクリエーターのFROGMANが監督、
作画、声などのほとんどすべてをひとりでやっていた低予算企画。
なので、お金がない。
スクリーン右端に予算の減りを示す“バジェットゲージ”があって、
ゼロに近づくと画が雑になる。すると、必殺技もパワーが出ず、悪を倒せなくなる。
そんな時は、スポンサー企業の広告が流れて、予算が増え、
バジェットゲージが復旧するという(笑)。
最後の派手なアクションシーンでは、
スポンサー企業の社長さんたちが声の出演をしたりして費用を出し、
あのGONZOがメチャメチャカッコいい2D動画を作成!
笑いのセンスのすごくいい映画に仕上がってました。
おふざけ映画で、腹から笑えたのは久し振りでした。ホント、オススメです。
試写に行って、お土産に鰹節をもらったのは、実はこの映画(笑)。
ヤマキさん、ごちそうさまでした!☆4つ。
「DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団」公式サイト


『我は神なり』は、韓国のアニメーション。

ダム建設でダムの底に沈むことになった、ある小さな村。
そこへ、立ち退きのために出る補償金を狙ったインチキ教壇がやってきて、
村人の弱った心につけ込み、カリスマ牧師のソンを信じ込ませるんですね。
村人はみんなこの教団に洗脳されていきます。
そこへ、村のトラブルメーカーだったミンチョルが帰ってきます。
ミンチョルだけは、この教団が詐欺師の集団だと気付くのですが、
誰もミンチョルの言うことになど耳を貸しません。
逆にミンチョルは、“悪魔に取り憑かれた男”の烙印を押されてしまうのです…。

ミンチョルは、ひとり娘が大学進学のために、
一生懸命働いて稼いだアルバイト代をギャンブルで失くしてしまうような“クソ男”。
妻にも容赦なく手を上げます。
そんな男と優しい詐欺師。
あなたならどちらを信じますか?
究極の矛盾が描かれたアニメーションです。
作画もボクら日本人がホッとする絵というか、平たい顔がそのまま描かれているという。
2013年の作品ですが、いつの時代にもあてはまる、人間の抱く普遍的なテーマだと思います。
いや、こんな時代だからこそ響くものがあるのかもしれませんね。☆3つ。
「我は神なり」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.10.12

『アナベル 死霊人形の誕生』☆☆☆
『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


ボクは先入観を排除するために、
なるべくもらう資料を見ないで映画を見るようにしています。
ただ、歴史ものだったり、伝記映画などの場合は、
少し時代背景や舞台設定を頭の中に入れたほうがいいかなと、
事前に資料に目を通すようにしてるんですね。
今週の2本なんかも、シリーズもの。
こういうのも“これまで”を知っておいたほうが楽しめるかと思います。
今はインターネットで調べたりもできますもんね。
少し知識を入れてから劇場に足を運ぶことをお勧めします。
さ、今週は2本です!



『アナベル 死霊人形の誕生』は、実在する人形アナベルの誕生秘話。

人形職人のサミュエルとエスターのマリンズ夫妻は、事故で愛娘のビーを亡くしてしまいます。
事故から12年後、その寂しさを埋めることもひとつの目的として、
夫妻は閉鎖を余儀なくされた孤児院から、6人の少女と1人のシスターを受け入れるんですね。
新しい生活に胸踊らせる子供たちでしたが、この家は何かがおかしい。
特にポリオという病気で脚の不自由なジャニスは、強くそのことを感じます。
「この部屋には絶対に入ってはいけない」。
鍵が閉まっているはずのその部屋の扉が開いていることに気付いたジャニスは、
禁を破り、中に入ってしまうんですね。
そこは生前のままにされていたビーの部屋。
そこに置かれていた人形、それがアナベルだったのです…。

『死霊館』シリーズの第4弾で、アナベルを取り上げたものとしては3作目。
アナベルは実在の人形で、今も厳重に保管され、月に2回は親父が祈祷しているそう。
物語はそんなアナベルがなぜ生まれたのかを、フィクションとして考えたもの。実話ではないようです。
悲しい事故で、たったひとりの愛娘を亡くしてしまった人形師夫婦。
よからぬものに魂を売ってでも、娘に会いたいと思うのは親心かもしれません。
しかし、その代償は大きかったのです。
効果音で驚かすのではなく、ストーリーで追い詰めていくタイプの怖さ。
きちんと最初の第1弾へと続きます。
人形というのは、洋の東西を問わず、時に不気味な存在にもなるものです。☆3つ。
「アナベル 死霊人形の誕生」公式サイト



『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』は、
21世紀に再起動した新たな『猿の惑星』シリーズの第3弾。

人類への反乱を起こし、猿vs人間の全面戦争から2年。
リーダーのシーザー率いる群は、森の奥深くに砦を築き、滝の裏側で生活をしていました。
ところが人間の軍隊がそこを発見、急襲。シーザーは妻と長男を殺されてしまうんですね。
大佐への憎悪を募らせたシーザーは、仲間数人と共に、復讐の旅へと出ます。
途中、口が不自由な人間の少女と出会い、
ひとりでは生きていけないだろうと一緒に連れていくんですね。
さらに、人間の道具を盗んで生活をしている奇妙なチンパンジーのバッド・エイプと出会うと、
彼が大佐の居場所を知っていたのです。
シーザーたちは大佐のいる巨大要塞に辿り着くのですが、恨みの念が強いシーザーは、
冷静さを欠き、捕らわれの身となってしまいます。
投げ込まれた場所、そこは猿たちが重労働を強いられていた、
まるで強制収容所のような施設だったのです…。

『創世記(ジェネシス)』、『新世紀(ライジング)』に続く、
第3弾が今回の『聖戦記(グレート・ウォー)』。
1968年の最初の『猿の惑星』は、本当にショッキングで、もちろんTVの再放送での記憶だとは思いますが、
ラストシーンは鮮明に覚えています。
それに続くストーリーでもあるこの新シリーズ。『創世記(ジェネシス)』は、よく出来てました。
なるほど、こうして猿は進化し、人間は絶滅の危機にさらされたのかと。
そして『新世紀(ライジング)』から2年という今回の設定。
映像などの技術的な部分は、まさに日進月歩。
文句のつけようもありませんが、ストーリーが今ひとつ…。
「これって、猿vs人間じゃなくても、何でもよくないですか?」
って感じだったんですよね…。
猿が人間の、例えば人種の違いなんかを比喩的に表しているという声もあるかもしれません。
でもこのシリーズは、猿じゃなきゃダメなんですよ。比喩じゃない。猿じゃなきゃ、ね。
いつも言うように、あくまで個人的意見です(笑)。
しっかり作られているので、☆は3つでもいいのですが、
そこはボク自身の観点からシビアにいきたいと思います。☆2つ。
「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.10.6

『アンダー・ハー・マウス』☆☆☆
『ナラタージュ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週紹介する2作品は、どちらも赤裸々な?恋愛映画。
おそらく男性と女性で感じ方や、見る立ち位置が違うと思います。
「大切な人と映画館に行って、鑑賞後に語り合ってみては?」と言いたいところですが、
それをしたら、何組かが破談になるような予感すらします(笑)。
それほどにエッジが利いた恋愛映画だということなんですけどね。
☆の数は、いつもいうように個人的嗜好。
どちらもボクの恋愛観にマッチする登場人物が端っこの人だったからという☆です(笑)。
是非、見てみて下さい!
さ、今週は2本です!



『アンダー・ハー・マウス』は、女性の立場から見た、愛と官能の映画。

大工として働くダラスは、たくましくも美しい“イケメン”女性。
ダラスが愛するのは女性で、毎晩のように違う女性と体を重ねていたのです。
そんなダラスが、仕事現場近くで、ひとりの女性を見かけます。
その瞬間から、彼女のことが気になって仕方がなくなるダラス。
女性の名はジャスミン。ファッション誌の編集者です。
その夜、ジャスミンが飛び込みで入った女性専用のバーで、ふたりは偶然再会。
ダラスはジャスミンとキスを交わすんですね。
ところが、ジャスミンには婚約者の男性がいる。
自分のした過ちに動揺したジャスミンは、慌ててその場を立ち去ります。
それでもジャスミンは、
自分の中に経験したことのない感情が沸き上がっいることに気付いてしまったのです…。

この映画のスタッフはすべて女性。女性による、女性のための、女性の官能映画です。
主演のダラスを演じるエリカ・リンダーは、多くの世界的ファッション誌を飾る人気モデル。
デビュー作にして、このような大胆な演技が出来たのも、撮影環境が大きかったのかもしれませんね。
ジャスミンは同棲中の婚約者が出張で家を空けた際に、ダラスと関係を持ちます。
真の愛に出逢ってしまったふたり。セレブな彼か、それともダラスか。
ジャスミンは人生の選択を迫られることになるわけです。
男性と女性で、恋愛観ってまったく違うじゃないですか。
ボクは男なので、ジャスミンの婚約者目線で見ちゃう。
ダラスとの関係を知ったあと、戸惑いながらもやり直そうと努める彼の目線で。
でもね、女性は違うんだなぁ。ある意味、残酷…(笑)。
勉強にはなるけど、じゃあ、ここから学べるかというと学べないかも。
だって、性の本能の部分だから。
男性目線で見ると、スクリーンに映し出される美しい裸に釘付けです。
それもまた本能…(笑)。☆3つ。
「アンダー・ハー・マウス」公式サイト



『ナラタージュ』は、行定勲監督最新作。

泉は大学2年生。 ある日のこと、彼女の携帯に、
高校時代の演劇部の顧問だった葉山先生から電話が入ります。
後輩の卒業公演に参加してもらえないだろうかという、依頼の電話でした。
葉山先生は、孤独だった高校時代の泉に、演劇という居場所を与えてくれた大切な恩師で、
互いに特別な感情を抱く存在でもありました。
卒業以来、久し振りの再会を果たした泉と葉山先生。
忘れようとしていた先生への思いが、泉の中に、再び湧き出してきたのでした…。

葉山先生に松本潤、泉に有村架純。
原作は2006年の「この恋愛小説がすごい!」で1位に輝いた、島本理生の同名小説です。
ちなみにタイトルは“ナレーション+モンタージュ”の造語だとか。
映画は、泉が就職した映画宣伝会社での残業シーンから始まり、泉の回想で物語が進んでいきます。
葉山先生には妻がいる。でもその妻はとはワケあって、別居生活を送っている。
高校時代の泉は先生の研究室へ行くのが楽しみで、葉山先生も泉が来るのを心待ちにする毎日。
互いに共通の思いがある。でも口には出せない。そして、卒業式のキス…。
女子大生になった泉に、平静を装い接する葉山先生。
再び交錯するふたりの気持ち。
もどかしいほどにすれ違い、時にわざと交わらないようにする関係。
またも葉山先生を諦めた泉が、卒業公演をきっかけに知り合った大学生と付き合い始める。
でも、彼の嫉妬が泉を戸惑わせ、運命の悪戯か、
先生の元に泉が向かわざるを得ない事件が起きます。

あ、説明が長いな…(笑)。
とにかく行定勲監督は、男子と女子が出会ってどうのこうのなんていう、
恋愛コミック的恋愛ものじゃなく、人を好きになるっていうのはこんなにドロドロして、
自分や相手の嫌な部分も出て、
見た若者が「こんなに面倒臭いなら、恋愛なんてしないほうがマシ」
ぐらい感じるような作品を撮りたかったと。
なんかわかります(笑)。ボクは坂口健太郎扮する小野くんという、
泉とちょっとだけ付き合う大学生の気持ちがわからなくはないから(笑)。
あ、ボクは好きな人のピンチには、何があろうと駆けつけますけど。
好きになったらグソグソなんですよ。何もかも自分のものにしたいし、束縛もしたい。
でも、それじゃダメだと次第にわかってくる。だって、小学生の時にやった“集合”の図でね、
交わるところが一致する部分だとしたら、そうじゃない、
交わらないところが必ず人間にはある。
そこも重ねようったって無理だし、それはエゴだから。
大人になるって、そこを理解し、我慢することかな。
でも、恋愛で大人になるって、難しいんだよね。
自分を制御するって、無理をするってことだから。
小野くんはまだ子供でした(笑)。
でも、愛し方は、きっとこれからも変わらないよ。自分を押さえる術は学ぶんだろうけどね。
なんて、たくさん語りたくなる1本です。この映画は、ひとりで見てもいいかもしれないなぁ。
冒頭に書いたような理由で(笑)、☆3つ。
「ナラタージュ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.9.28

『パーフェクト・レボリューション』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』という映画の試写会に行ったら、
なんとヤマキのかつお節パックをもらいました(笑)。
「なんで?」と思ってたら、答えは映画の中にありました(笑)。
いや、面白かったですョ。公開時にまた改めて!
さ、今週は1本です!


『パーフェクト・レボリューション』は、実話に基づくストーリー。

幼少期に患った脳性麻痺のため、重度の身体障害を持ち、車椅子生活を送っているクマ。
それでもクマは根っから明るく、いきいきと生きていました。
「身体障害者だって、恋もするし、セックスもしたい!」
クマは、障害者の性に対する理解を深めてもらうための活動をしていて、執筆や講演会を開催。
ある日の講演会に、派手なピンク色の髪の女性が客席に。彼女の名はミツ。
終了後、「私、クマピーのことが好き!」と猛アタック。
風俗嬢として働くミツは、車椅子に跨がってクマにこう言います。
「あなたと私みたいな不完全なもの同士が幸せになれたら、
それってすごいことだと思わない?」。
実はミツには人格障害があり、これまで不幸な人生を送ってきたのです。
長年、クマの介助をしてきたヘルパーの恵理も、ふたりの恋を後押し。
クマとミツは交際をスタートさせるのですが、時間が経つに連れ、
現実という様々な問題やハードルが立ちはだかります。
そして、ミツの心は少しずつバランスを崩し始めていくのでした…。

クマピーこと熊篠慶彦さんは、特定非営利活動法人ノアールの理事長を務め、
身体障害者のセクシュアリティに関する支援や啓発のための活動をしています。
出生時より、脳性麻痺による四肢の痙性麻痺があるとプロフィールにありました。
企画、脚本はこの熊篠慶彦さん。劇中でクマピーを演じるのはリリー・フランキー。
実はふたりはお友達なんだとか。
“実話に基づく”としたけれど、キャラ設定なんかは、かなりポップでエンタメ路線。
「障害者と向き合う時はどうしてもかしこまらないといけないような風潮がありますけど、
そんな必要は全然ないんだよって」と熊篠氏。
クマピーがミツを連れて実家に帰る法事のシーンなんかは、
見ていてツラくなりましたが、恋愛には、障害の有無なんかに関係なく、
みーんな何かしら越えなきゃならないハードルがある。
それは時に理不尽だったりもする訳で。
リリーさんが「主人公は障害者でも、この映画はすべての人々が持つ障害と愛の物語です」と。
その通りだなと感じました。☆3つ。
「パーフェクト・レボリューション」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.9.23

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』☆☆☆
『プラネタリウム』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


時に気温は30度近くに上がっても、吹く風には秋を感じる今日この頃。
“芸術の秋”です。劇場に足を運んで、感性に刺激を与えてあげて下さいね。
さ、今週は2本です!


『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、東野圭吾のベストセラーを映画化したもの。

2012年のとある夜。
児童養護施設で育った、敦也と翔太、幸平の3人は、とある理由から、
女性実業家の家に忍び込み、バッグを強奪。
逃走用の車が壊れ、今は空き家になっている“ナミヤ雑貨店”に逃げ込みます。
そこは以前、主人の浪矢雄治が営んでいた雑貨店で、お悩み相談所でもありました。
入口のシャッターから投函された悩みに、簡単なものは店頭に答えを貼り出し、
深刻なものは脇の牛乳箱に入れるという。町のみんなの駆け込み寺的存在でした。
一時しのぎで逃げ込んだ3人が、改めて逃げようとしても、不思議とこの場所へ戻って来てしまう。
古い雑誌の切り抜きで、この雑貨店のことを知った3人。
すると、シャッターの郵便受けから、相談の紙が投函され、彼らは面白半分で返事を書くのですが、
どうやら現在と過去がねじれて繋がっているようで、相談の中身には、
彼らの“今”に思い当たることがたくさんあったのです…。

あまり書くと、ネタばらしになっちゃうタイプの映画(笑)。
なので書きませんが、いろんな出来事が繋がっていて、
これは時空を超えたある種のファンタジーですが、実際ボクらの人生も、
知らないところで起こった出来事の波が、
きっとこんなふうに時間を掛けて辿り着いたりもしてるんだろうなと思わされたりします。
浪矢雄治に西田敏行。もうこれだけで、期待は膨らんでしまいます。
でも、物語の比重は3人の若者にあったようです。
惜しむらくはそこですかね。期待に胸を膨らませ過ぎたかな(笑)。☆3つ。
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」公式サイト



『プラネタリウム』は、不思議な力を持つ美人姉妹を巡る物語。

1930年代のパリ。
アメリカ人スピリチュアリストの、ローラとケイトのバーロウ姉妹は、
ヨーロッパツアーでパリを訪れていました。
姉のローラはショーを仕切り、ケイトは自分の世界にこもるタイプ。
対照的なふたりが降霊術を操り、ショーでは死者を呼び寄せて、話題を呼んでいたのです。
それを見たフランス人映画プロデューサーのコルベンは、この姉妹で映画を撮りたいと。
それもまったく新しい発想の映画で、呼び寄せた霊をフィルムに写し出そうというのです。
姉妹はその話を受け、姉のローラは演技も上手く、女優としての才能に目覚めるのですが、
妹のケイトは演技が苦手。
しかし、スピリチュアリストとしての才能はケイトにあると見抜いたコルベンは、
ケイトに有害な電磁波を使った実験を繰り返します。
危険と知りながら協力を惜しまないケイトに、
コルベンとの強い絆を感じたローラは、嫉妬に狂うんですね。
ところが、ケイトの身体に異変が起きます。
無理な降霊術が原因で、白血病になってしまったのです…。

スピリチュアルな世界。
ボクは個人的にすごいスピリチュアル・カウンセラーの先生を知っているので、
こういう世界は信じるほうなんですが、それを題材にこういう映画を作るのか、
と着眼点の斬新さには感心してしまいました。
科学で実証されていないものを、信じるのか、信じないのか。
目に見えないものは存在しないのか、否か。
テレビの心霊番組を見るように、誰もが興味本位ではあってもそこまでが普通で、
踏み込み過ぎると宗教になっちゃう。あ、善し悪しは別ですョ。
このコルベンは入り込み過ぎちゃうんですね。ゆえに、周りは変人扱いし、人は去っていく。
バーロウ姉妹の能力が本当であるか、
まやかしであるかは置いておいてもストーリーに現実味があるところが、
この映画の魅力かなと思います。
仮に聖なるスピリチュアルな世界があると信じていても、その一方でエゴや欲望、煩悩は捨てきれない。
それが人間なんだよと皮肉ってるような気もして面白かったです。☆4つ。
「プラネタリウム」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.9.15

『エイリアン:コヴェナント』☆☆☆☆
『オン・ザ・ミルキー・ロード』☆☆☆
『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』☆☆☆
『サーミの血』☆☆☆
『ひかりのたび』☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


夏8月までに見させてもらった試写の本数は107本。月平均で13〜14本。
中にはあまりいい感想が書けなくて、
マイナス・プロモーションじゃないかと自分でも思う時がありますが、
本当にいいと感じた映画をいいと言うためには、きちんとした物差しを置かないとと思ってます。
“きちんとした”とは言っても、“きちんとした自分の好み”の物差しですけどね。
さ、今週は5本です!



『エイリアン:コヴェナント』は、エイリアン誕生の秘密を描いた作品。

2104年、人類初の大規模宇宙移住計画を遂行するため、
オリエガ6という惑星へ向かって地球を旅立ったコヴェナント号。
中には、船長と妻ダニエルズを始めとする14名の乗組員と、最新型アンドロイドのウォルター、
コールドスリープ状態にある2000人の男女と、1140体の胎芽が乗っていました。
しかし、航行中に予期せぬ衝撃波を受け、船体は大きく破損。
この事故で船長を含む数十人が命を落としてしまいます。
哀しみの中、修復作業をしていると、なんと20世紀の名曲“カントリー・ロード”を受信したのです。
その電波は近くの惑星から送られているよう。
船長代理に昇格したオラムは、その星に降りることを決意するのですが、
綿密に練った計画を変更するのかとダニエルズは猛反発。
しかし、聞き入れられず、ダニエルズ、オラム、
ウォルターら十数人は小型船に乗り込み、謎の惑星へと着陸します。
豊かな水も、緑もあり、小麦らしきも生えている。ただひとつ不思議なことが。
動物の姿がまったくなかったのです…。

監督はリドリー・スコット。79年の『エイリアン』の監督です。
エイリアンの創造主が、エイリアンの誕生秘話を描く。つまらないはずがないでしょう(笑)。
この後、謎の惑星を探索する船員が、ある植物を踏んでしまう。
すると中から胞子のようなものが飛び出し、船員の耳から体内に入り込む。
中で異生物が育ち、体を突き破って出てくる。エイリアンの誕生です。
右も左もわからない未知の惑星で、パニック状態に陥っていた時、
最新型アンドロイドであるウォルターの、前の型のアンドロイドのデヴィッドが、みんなを導きます。
このデヴィッドこそが、この物語のカギを握るという…。
エイリアンもシリーズ4まで行って、お腹いっぱいかと思いましたが、いやいやなんのなんの。
エイリアン・ファンも、ファンじゃなくても楽しめると思いますョ。面白かったです。☆4つ。
「エイリアン:コヴェナント」公式サイト



『オン・ザ・ミルキー・ロード』は、セルビア映画。

隣り合わせの国と戦争中の、とある国。
コスタは右肩にハヤブサを乗せ、毎日ロバに乗って、前線まで兵士にミルクを届けていました。
コスタは、村一番の美人と言われるミルク売りの娘ミレナの家で働いていて、
ミレナはコスタと結婚したいのに、コスタははぐらかしてばかり。
戦争が終われば、村の英雄であるミレナの兄が帰ってくる。
そしたら兄は結婚する予定なので、兄妹揃って同時に式を挙げたいと、ミレナは考えていたのです。
そんな中、兄の花嫁がミレナの家にやってきます。一瞬で惹かれ合うものを感じたコスタと花嫁。
突然の休戦協定で兄が戻り、村人が陽気に楽しんでいたのも束の間、
今度は花嫁を追って、英国将校が村に特殊舞台を送り込んできたのでした…。

監督で主役も務めたエミール・クストリッツァは、サラエボの出身。
動物がたくさん出てくるのはこの人の個性のようで、戦時中にもかかわらず、
「当たったら仕方あるめぇ」ぐらいな感じで、村人があまり砲弾を気せず生活してるのは、
やはり出自に関係があるのかもしれません。
初のラブストーリーとのことですが、ラストもまた、監督の生まれ育った環境が作らせたラストシーンかと。
いつもボクらが見ている映画とは、確かにひと味もふた味も違うと思いますョ。☆3つ。
「オン・ザ・ミルキー・ロード」公式サイト



『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』は、人気アニメのシリーズ最新作。

かつて人類を存亡の危機に陥れた情報生命体との戦い“サマー・オブ・ラブ”。
その時、自らの命を投げうって人類を救ったことから英雄となったのが、
科学者でレントンの父アドロックでした。
“サマー・オブ・ラブ”から10年。
レントンはビームス夫妻の養子として暮らしていたのですが、14歳の時に家を飛び出し、
ファシリティ・ガードに入隊。しかし、そこもわずかな時間で飛び出してしまったのです。
あてもなくさまようレントンの前に現れたのは、ビームス夫妻でした。
ふたりの、自分への愛情の深さを知り、再び一緒に生活を始めるレントン。
ところがビームス夫妻には、レントンに伝えなくてはならない重大な話があったのです…。

アニメは詳しくないので、間違えた書き方をしてたらごめんなさい(笑)。
レントンの心の中には、常にエウレカという人型コーラリアンの少女がいて、
それがこのシリーズの中心に据えられているよう。
劇中で激しく時代や時間が前後するので、
初めてこの作品に触れる人には目が回るかもしれませんが(笑)、
でも最後にはストーリーを把握出来るはず。途中で投げ出さないで下さいね。
ちなみに“ハイエボリューション”は、劇場3部作。まずは最初の今作を見逃さないように。☆3つ。
「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」公式サイト



『サーミの血』は、北欧ラップランドに暮らす先住民族の物語。

1930年代、スウェーデン北部のラップランド。
ここに暮らす先住民族のサーミ人は、トナカイを飼育して生活を営んでいました。
エレ・マリャとニェンナの姉妹は、親元を離れ、サーミ語禁止の寄宿学校に通うことに。
成績の良かったエレ・マリャが進学を望むと、スウェーデン人の教師から、
「あなたたちの脳は文明に適応出来ないの」と言われてしまいます。
周りの人間の対応から、サーミ人が差別的扱いを受けていたことを現実として知る少女たち。
そんなある日のこと、民族衣装を脱ぎ、
スウェーデン人のふりをして祭りの会場へと忍び込んだエレ・マリャは、
都会的な少年ニクラスに惹かれ、自分からアタック。
名前を聞かれた彼女は、「クリスティーナ」と名乗ります。
自分の人生を自分で切り開けない現実から抜け出したい。
クリスティーナとなったエレ・マリャは、ニクラスを頼って列車に飛び乗るのですが…。

アマンダ・シェーネル監督も、主演のレーネ=セシリア・スパルロクも、サーミ人の血を引く女性。
映画はエレ・マリャが妹の葬儀に行くシーンから始まります。
それすなわち、クリスティーナからエレ・マリャに戻る。
捨てた全てを、再び身に纏うということ。葛藤のシーンからのスタートなんですね。
解説によると、舞台となる寄宿学校は“移牧学校”といって、偏見や差別から、
一般の公立校に入れさせないための施策だったとか。
スウェーデン語以外は使わせないとしながらも、同化ではなく分離政策をとっていたそうなんですね。
しかし、今ではその政策も改革が行われ、権利や保障、福祉などは、
他の先住民族の環境と比較しても、類を見ないほど充実したものになっているそう。
エレ・マリャの息子や孫が葬儀で親戚に会うわけですが、サーミの衣装に初めて袖を通し喜ぶ孫や、
トナカイの放牧に行くのを頑なに拒むエレ・マリャを、
何とか説得しようとする息子の姿からは、サーミの血を引くことへの温度差を感じましたから。
監督と主演のスパルロクのインタビューを読んでも、
「親族の中に、アイデンティティを変えた者と、留まった者との対立がまだある」とありました。
クリスティーナになったエレ・マリャが、自らエレ・マリャに戻る瞬間があります。
胸が締めつけられる思いです。☆3つ。
「サーミの血」公式サイト



『ひかりのたび』は、不動産ブローカーの父と娘の物語。

地方都市を回っては、土地を外国人に転売し、巨額の金を儲けてきた不動産ブローカーの植田。
この町にも、4年前に娘の奈々とやって来ました。
奈々は高校3年生。父の仕事の関係で転校の繰り返し。
故郷と呼べる場所がなく、今までで一番長く住んだこの町に愛着を持っていたのです。
しかし、通学用の自転車を壊されたり、嫌がらせが父を快く思っていない人間の仕業であることは明らか。
「金の心配はするな」と、娘を東京へやりたい父。
それでも奈々は高校を卒業したらこの町に残り、保母として働いていこうと心に決めていたのです…。

水源も含め、日本の土地を買い漁る外国人。不動産ブローカーはそこに目をつけて商売をするわけです。
故郷を荒らす父と、故郷を欲しがる娘。地上げに反対しながらも、
先祖伝来の土地を売らなければ生きていけない地方の実情など、
様々な現代日本の問題を描いているんだと思います。
小さな視点から大きなものを映し出そうとしてるのでしょうが、
逆にポイントが曖昧になってしまった感が否めなかったかなぁと。
広がりきらない、けど個々のキャラクターに深い感情移入をするまでには至らないみたいな。
ネクストブレイクな人材による作品とのこと。頑張って欲しいですね。☆2つ。
「ひかりのたび」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.9.8

『おクジラさま ふたつの正義の物語』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


夏の終わりの試写会場。
大御所みたいなおじさんが大きな声で、「外は涼しいかもしれないけど、中は暑いから冷房入れてね」。
いやいや、冷房はすでに入っていて、十分に涼しいですから。
これ以上温度下げたら、冷蔵庫みたいになっちゃう。
それでも宣伝会社の若いスタッフは、それをそのまま聞いて、冷房を下げちゃうんだなぁ…。
みんな鞄から一斉にカーディガンとか出してました(-_-;)。
若いスタッフさんへ。
暑い、寒いは個人差があるんだから、「暑いというお声がありますが、皆さんはいかがですか?」
と聞くのが正解。気の利く宣伝マンの先輩は、昔ちゃんとそうしてトラブルも避けてましたョ。
さ、今週は1本です!



『おクジラさま ふたつの正義』は、日本の捕鯨を巡るドキュメンタリー。

舞台は和歌山県のほぼ南端にある太地町。ここは“日本の古式捕鯨発祥の地”。
ところが、近年、クジラやイルカが環境保護の旗印となり、
太地の町が江戸時代から行っている“追い込み漁”が批判され、
それを描いたドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が09年に公開されると、
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。
世界中の捕鯨に極めて批判的な人々が、人口わずか3000人の町に、大量に押し寄せて来たのです。
この映画は、佐々木芽生監督が、10年4月から、東日本大震災の影響で一度中断したものの、
16年7月までの歳月をかけて取材、撮影したもの。
太地町の漁師、住民、町長はもちろんのこと、
世界で最も過激と言われる環境保護団体シーシェパードのスコット・ウエスト代表とその家族、
地元右翼団体の代表、60年代のアメリカのTVシリーズ『わんぱくフリッパー』の元イルカの調教師、
太地町に住み込み、独立して取材を進めた元AP通信の記者など、
様々な立場からの声を取り上げています。
太地町というのは、地形的に作物が育たず、たまたま鯨類の通り道にあったため、
祖先がクジラを穫って生活の糧にしてきたと。
「鯨一頭、七浦潤す」という言葉があり、欧米諸国が17〜19世紀に行っていた捕鯨では、
鯨油だけ取って、あとはすべて棄ててきたけれど、日本ではあらゆる部位を有効に使い、
鯨への感謝の念を持って生きていると、太地町の三軒町長は語ります。
町のあちらこちらにクジラのオブジェがあり、クジラのデザインがあしらわれている太地町は、
クジラと共に生きてきた、まさに“クジラの町”。
生きていくための手段としての捕鯨。犬を食べる国もある。
そもそも牛や豚や鳥ならいいのか?という声も挙がりそうですよね。
宗教、人種、イデオロギー。みんな違う。その集合体がこの地球です。
「和歌山県の小さな町で起きている紛争を見ながら、戦争とはこうして始まるのだと思った」
とは佐々木芽生監督のコラムにあった言葉。
「(様々な考えや価値観の)違いを排除しようとした途端に、争いや戦争に発展する」と、
佐々木監督は続けます。
さらに試写会場に来ていた監督が上映語に語ったのが、
「みなさん、“正義”の反対語は何だと思います?“悪”じゃないんです。
 “もうひとつ別の正義”なんです」。深い…。
結論は出ないかもしれません。
でも、今のこの時代、クジラ以外のものに置き換えても、
見て、考えておく必要がある映画かもしれません。☆4つ。
「おクジラさま ふたつの正義」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.8.31

『機動戦士ガンダム ジ・オリジン 激突 ルウム会戦』評価なし
『スキップ・トレース』☆☆☆
『二度めの夏、二度と会えない君』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写会で、評判の映画は試写室が満杯。逆に今イチのものは空席が目立つもの。
ところが、たまにあるんですョ。話題作なのに試写室がガラガラな時が。
話題先行で面白くないのか…と思って見たら、いやいやすごく面白い。
たまたま来場者が少なかっただけだったんですね。
期待していなかった分、何か得した気分になるものです(笑)。
さ、今週は3本です!



『機動戦士ガンダム ジ・オリジン 激突 ルウム会戦』は、
ガンダムの世界が出来るまでの流れを描いた1本。

宇宙世紀0079年、人類は宇宙ですら戦場に変えてしまった。
世界の人口の半数を死に至らしめたブリディッシュ作戦・コロニー落としを実行し、
突き進むジオン公国軍。
それに対し、劣勢を挽回すべく圧倒的な戦力で挑む地球連邦軍。
交錯するザビ家の陰謀、変えがたい運命に翻弄されるセイラ・マス、
ジオン軍のパイロットとなってしまったランバ・ラルやハモン、
サイド7で平穏に暮らすアムロやフラウの日常にも、暗い影が訪れようとしていた。
そして、復讐に駆られたジオン軍のエース、
シャア・アズナブルの“赤い彗星”としての伝説が誕生する…。

すみません。
チラシの裏側の文章を、丸々写しました(笑)。
ガンダム、知らないんですよ…。全然わからなくて(笑)。
知人は、「なんでシャアが誕生したかが描かれてるはず。
息子(中1)と見に行く約束してるんです」と。
さらに公開日の9月2日(土)19時からは、
『戦場の絆』というゲーセンのゲームがこの映画とタイアップして、
ストーリーが『ジ・オリジン』になるから、息子さんと行くんですって。
それほどガンダム・ファンには楽しみな作品なんだと思います。
アムロにもシャアにも、それぞれに戦う大義がある。
だから、永遠のライバルであるこのふたりを、ガンダムファンはそれぞれに応援するらしいです。
正義がどっちで、悪がどっちというのじゃないからハマるんだとも、その友人は言ってました。
ごめんなさい。いいとか、悪いとかじゃなくて、評価のしようがありません(笑)。
ガンダム・ファンは楽しんできて下さい!
「機動戦士ガンダム ジ・オリジン 激突 ルウム会戦」公式サイト



『スキップ・トレース』は、ジャッキー・チェン最新作。

香港警察の刑事、ベニー・チャン。
香港の巨悪と思しきヴィクターを捜査中に同僚の刑事を失い、
彼からひとり娘を託されます。
そのサマンサも今は大人になり、マカオのカジノで働いているのですが、
アメリカ人詐欺師のコナーが、サマンサのカジノに侵入。
サマンサも巻き込んでのイカサマで、大金を奪って逃げてしまったのです。
上司から何としても金を取り返せと命じられたサマンサは、
ベニーに助けを求め、コナーの行方を追います。
コナーがロシアにいることを突き止めたベニーでしたが、コナーを捕まえると、
なぜかベニーまでもが何者かに追われることに。
実はコナーという詐欺師、ロシアンマフィア、香港マフィアを始め、
世界中の組織から狙われている、とんでもない男だったのです…。

ジャッキー・チェンは、1954年生まれの63歳!
正直、多少の衰えは否めないと感じるシーンもありましたが(失礼!)、63歳ですからねっ。
あのアクションは凄いの一言です。
どんでん返しのあるストーリーや、エンドロールに流れるNGシーンまで、
すべてがジャッキー・チェン。
『水戸黄門』的“偉大なるマンネリ”とでもいうのでしょうか(笑)。
彼のファンにとっては、安心、安定の1本だと思いますョ。☆3つ。
「スキップ・トレース」公式サイト



『二度めの夏、二度と会えない君』は、青春音楽映画。

篠原智は高校3年生。彼の通う高校に、森山燐という女子が転校してきます。
それもバンドを組んで、最後の文化祭でライブをやるためだけに。
実は燐の大好きなバンド、Animato Animatoが、この高校の出身だったんですね。
念願叶い、ライブを終えた文化祭の帰り道、燐は突然倒れて入院してしまいます。
病床で、智に秘密にしていた様々なことを語る燐。
それを聞いた智は、心に秘めていた思いを燐に伝えます。
しかし、燐は悲しげな瞳で、「なんでそんなことを言うの」と言ったのです。
それが智と燐の最後の会話になってしまいました。
燐の死を受け入れられず、後悔の日々を過ごす智。そんな智が、燐の遺した手紙を受け取ります。
初めてふたりが出会った場所でその手紙を読んでいると、燐の鼻歌が聞こえてきたのです。
驚いた智は土手を転がり落ち、気付くと季節は冬から夏に。
智が燐と出会った“あの日”に戻っていたのです…。

赤城大空の同名小説の映画化です。
“あの日”に戻った智は、燐に悲しい思いをさせないために、
バンドは絶対にやらないと決めるのですが、なぜかやる方向へと行ってしまう。
それが運命ならば、あの言葉だけは決して口にすまいと誓うのです。
いわゆるタイムスリップもの。最近結構多いですね、この手の恋愛映画。
“やり直したい願望”を満たすのは、いつの時代にもある普遍的な手法です。
でもね、戻れないのが人生。ゲームと違って、リセットは効かないのだから。
失敗を糧に次を頑張るしかありません。
真新しさという点ではどうかな。
ただ、こんなきな臭い時代ですからね。
いつ何があってもいいように、悔いのない毎日を過ごしたいものです。☆3つ。
「二度めの夏、二度と会えない君」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.8.26

『エル』☆☆☆☆
『幼な子われらに生まれ』☆☆☆☆
『きみの声をとどけたい』☆☆☆
『パターソン』☆☆☆
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写の会場で、後ろの席から、こんな声が聞こえてきました。
「1週間に4本紹介しなくちゃいけないんだよ。
月16本は最低でも見なくちゃいけないんだから。もう嫌になっちゃうよ」。
そんなこと言うならやめたらいいのに。映画に対して失礼でしょ。
いつか見たくても見られない日が来るんですから。
その時にそんな台詞を吐いたこと、きっと後悔しますよ。
さ、今週は5本です!



『エル』は、フランスの“大人の”サスペンス映画。

ミシェルは、ゲーム会社の女性ワンマン社長。
そんなミシェルが、自宅の豪邸で、覆面の男に襲われてしまうんですね。
警察に通報するでもなく、訪ねて来た息子を平然と迎え、翌日もふだん通りに出社するミシェル。
しかし、行動も、洋服の色も、まるで彼女を監視してるかのようなメールが届きます。
犯人は誰?間違いなく近くにいる。
ミシェルの傲慢さを憎む会社の部下、元夫、母親の財産目当ての若い恋人、向かいの家の主人。
危険をかえりみず、ミシェルは自ら犯人を捜し出そうとするのですが…。

面白かったです。
登場人物が、みんなひとクセも、ふたクセもある。
それでいて、存在としての違和感がないというか。
「いるよね、こんな人」って思えるギリギリのラインだから、設定が上手い。
ミシェル自身にも“過去”があったりして。
セレブリティの犯罪劇ですから、スタイリッシュにまとまっています。
確かに、犯人がわかった時は衝撃でした。
去りゆく夏に、スリルとサスペンス(笑)。☆4つ。
「エル」公式サイト



『幼な子われらに生まれ』は、重松清の同名小説の映画化。

田中信は商社の営業マン。仕事重視の友佳と結婚、沙織という娘を授かるも離婚。
今は奈苗と再婚し、奈苗のふたりの娘、
薫と恵理子と4人で郊外のニュータウンに暮らしています。
友佳の方も再婚し、沙織と新しい夫との3人暮らし。
小学6年生の沙織は、信と定期的に会っていました。
一方、奈苗の前夫は沢田という男で、離婚の原因はひどいDVだったのです。
仕事より家庭を選び、帰りにはお土産を買い、
よき父親として振る舞ってきた信でしたが、奈苗が妊娠。
それを奈苗が何気なくふたりの娘に話してしまったことで、空気が一変。
母の妊娠に、難しい年頃の薫は、信に対し、嫌悪感を抱き始めたのです。
そして、あからさまに反抗的な態度を取り始めます。
「このうちイヤだ。こんな人、家族じゃない!」。
そんな時、友佳の再婚相手で、
沙織の義理の父にあたる江崎が末期のガンで危篤状態にあると知らされます。
沙織もまた、ふたりの父親の間で揺れていたのです…。

重松清の1996年発表の小説が、20年以上の時を経て、映画化されました。
血の繋がっていない家族と、血の繋がっている“他人”と。
友佳は自立したキャリアウーマンで、奈苗は男に寄り添ってしか生きられない専業主婦。
様々なタイプの人々が見せる人間模様…。
薫は本当のお父さんに会いたいと言う。
でも、奈苗はあんな暴力夫に薫が本気で会いたいはずがないと言う。
ギクシャクし、ピリピリし、トゲトゲとしたそんな中、新しい命が生まれ出てきます。
「この家族はいったいどうなってしまうんだろう?」
そう思いながら見ていて、当然それなりの結論に着地します。
でも、その着地点に正解はないのかもしれませんよね。
きっとその正解とやらは、さらに何十年後かに、家族ひとりひとりの心の中に出来るんだと思います。
それは家族であっても同じじゃない。
だから、ボクらの中に芽生えた感想もまた、個々のものであっていいんだと思います。☆4つ。
「幼な子われらに生まれ」公式サイト



『きみの声をとどけたい』は、
コミュニティーFMのKamakuraFMとコラボしたアニメ映画。

海辺の町に暮らす16歳の少女、なぎさ。
なぎさは、偶然、今は営業していない街角の喫茶アクアマリンに飛び込みます。
そこにはラジオの放送機材があり、なぎさはお遊びでスイッチをON。
即席のDJとして何気ないトークを始めるのですが、
アクアマリンのミニFMの電波はまだ飛んでいたのです。
その放送をキャッチした1台のラジオがありました。
放送をやめているはずのミニFMから声が届いたことに驚くラジオの持ち主。
それは、同年代の女子、紫音でした。
実は、紫音のお母さんが喫茶アクアマリンの元経営者で、今は意識不明のまま、
施設のベッドで寝たきりの状態になっていたのです。
小さな電波で繋がった女子高生たち。
紫音のお母さんに届けと、FMアクアマリンをもう一度立ち上げるのでした…。

湘南にあるコミュニティーFMのKamakuraFMが、
『コトダマラジオ』という番組をやっていて、その“言霊”がテーマの物語。
ボクもDJデビューは、ニッポン放送が1990年に湘南は江ノ島に作った
“SURF90FM”というイベント放送局ですから、
なんとなく初心に帰らせてもらったというか(笑)。
しゃべり手は、しゃべりたいことの熱量が大事で、それがないと絶対に伝わらない。
上手くしゃべるとかじゃないんですョ。その“熱量=言霊”じゃないかなって思ってます。
マイクに向かってしゃべって、ラジオの向こうのリスナーに届く。
もしかしたら、知らない人の人生に影響を与えちゃうかもしれないのですから、
ラジオのパーソナリティってすっごいお仕事なんですョ。責任も重大!
なんて、映画とは離れた話になっちゃったけど、でも、そんな映画です(笑)。
なぎさたちの放送はまだまだっ。なんて、先輩だから言ってもいいでしょう(笑)。☆3つ。
「きみの声をとどけたい」公式サイト



『パターソン』は、ジム・ジャームッシュ監督の4年振りとなる最新作。

ニュージャージーでバスの運転手として働くパターソン。
彼の1日は、妻のローラにキスをし、朝食をとり、歩いて車庫まで行き、
バスを運転、街の景色や乗客の会話から詩を作り、帰宅してローラと夕食、
愛犬マーヴィンの散歩、バーで一杯飲んで、ローラと就寝。
変わり映えのない、それでいて心豊かな日々を過ごしていたのです。
その1週間も、そんな毎日。でもいろんなことがありました。
バーでは常連のカップルが痴話喧嘩。
週末のバザーに向けて、ローラはカップケーキ作りに勤しみます。
ギターを買いました。
書きためていた詩のノートを、なんとマーヴィンが噛みちぎってしまいます。
散歩に出た先で日本人に出会い、白紙のノートをプレゼントされます。
こうして、また次の月曜日がやってくるのです…。

ジム・ジャームッシュ監督は、「『パターソン』はひっそりとした物語で、
主人公たちにドラマチックな出来事は一切ない」と語っています。
「ただ過ぎ去っていくのを眺める映画でもある」とも。
確かに、ちっちゃな波は立つけれど、決して大きな波は押し寄せません。
でも、いつも思うんですよ。波の大きさは人それぞれ。
幸せも不幸も、その人の物差しでどう感じるかだから、
他人が「そんなちっぽけな…」とは絶対に言えないんだと。
この映画を見ていると、パターソンとローラとマーヴィンの毎日は、
彼らにとってはすごく幸せで、辛い出来事は辛いんだろうなってこと。
それを共有できる大切な人がいる幸せを、ボクらは俯瞰で見て感じてるって感じ。
伝わりづらいですかね(笑)。
文明社会に生きてる人が、未開の地に生きる人を「かわいそう」と思うのが
まったくの間違いであるように。
都会に生きる人が、田舎暮らしの人を「不便だろうに」と思うのが大いなる勘違いであるように。
小さな幸せ。いいなぁ。憧れちゃいます。☆3つ。
「パターソン」公式サイト



『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』は、実話に基づくストーリー。

ジェームズは、ホームレスのストリート・ミュージシャン。
ドラッグの更正プログラム中にもかかわらず、仲間の甘い誘惑に負け、
再びドラッグに手を出してしまいます。
見かねた更正担当の女性が、ジェームズに支援の家を与えるんですね。
そこに現れた1匹の猫。人懐っこいけど、お金もないジェームズに飼うことはできません。
外に放ったところ、翌日ケガを負って、また家の前に。
近所に住む個性的な女性ベティから、
「この猫の居場所はあなたの隣りで、名前はボブと決まってるの」と言われます。
ボブのおかげでベティと仲良くなるジェームズでしたが、
ベティにはドラッグの更正プログラム中であることは言えません。
日々の生活費を稼ぐために、
雑誌『ビッグイシュー』の販売を始めるジェームズの肩の上には、ボブがいました。
街行く人々が写真を撮っていくのですが、
このボブの写真がSNSで大人気になろうとは、まだ誰も思っていなかったのです…。

茶トラのボブと出会い、ひとりと一匹の物語が大きな話題となりました。
それを本にしたところ、30を超える国と地域で500万部を超える大ベストセラーに。
それが、『ボブという名のストリート・キャット』。
続編を併せると1000万部を超える売上というから驚きですよね。
ジェームズ・ボーエンにとっては、まさに“幸運の招き猫”となりました。
セカンド・チャンスの物語。猫好きだけでなく、ちょっとつまずいちゃった人も、
見れば癒やされながら、背中を押されるかも?
でも、要は自分で頑張る、勇気を持って一歩踏み出すってことだと思うんですけどね。☆3つ。
「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.8.17

『いつも心にジャイアント』☆☆☆
『ベイビー・ドライバー』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


雨の多い8月。
デニムの裾をビチャビチャにしながら、ようやく辿り着いた試写室。
「すみません。満席になってしまって…」。
が〜ん…。
悲しい。悲し過ぎる。
そこから約2時間、ぽっかり時間が空いちゃうんですよね。
人気の作品にはこういうことがあります。
そうなると、ますます見たくなるものです。次は早く行かなくちゃ。
さ、今週は2本です!



『いつも心にジャイアント』は、スウェーデン映画。

もうすぐ30歳になるリカルドは、狭頭症という難病を抱えて生まれてきました。
頭蓋骨が大きく変形して、右半分は視界がありません。
その外見のせいで、差別や偏見も受けてきたリカルドでしたが、
そんな彼にはすべてを忘れて打ち込めるものがありました。
それがペタンクという球技です。
鉄の球を投げて、得点を競い合う競技なんですが、相棒のローランドとは息もぴったり。
ところが、地元のクラブで事故が起きます。
リカルドは練習中に飛んできた鉄球を、頭部に受けてしまうんですね。
クラブの役員はこれを問題視。視野が狭いリカルドを、
クラブの一員として北欧選手権に出すには危険が高過ぎると言うのです。
生きがいを奪われたリカルドは、彼以上に怒ったローランドと共にクラブを脱退。
新たにチームを結成し、大会に挑むのでした…。

事実に基づくものかと思いましたが、完全なフィクションでした。
リカルドは父を知らず、母も精神を病んで施設に暮らしています。
周りの優しさに守られながらここまで生きてきたリカルドですが、
彼の心の中に、あるものがいるんですね。それがジャイアント。
空想の中で、彼は巨大なジャイアントに変身できるのです。
フィクションで描くのには難しいテーマだと思います。感じ方もきっと様々。
それでも、スウェーデン・アカデミー賞で3つの賞に輝いた作品。
気になる方はご覧になってみて下さい。☆3つ。
「いつも心にジャイアント」公式サイト



『ベイビー・ドライバー』は、
カーアクションとミュージカルが融合したアクション・エンタテインメント。

常にiPodで音楽を聴いている青年ベイビー。
まだあどけない顔の若者だけど、ドライビングテクニックは抜群。
犯罪グループの大ボス、ドクの逃走専門ドライバーとして、強盗計画に加わっていたのです。
ベイビーは両親を交通事故で亡くし、その事故の後遺症で耳鳴りが止みません。
それを緩和するために音楽は必要不可欠。
実はベイビーは昔、ドクに大損をさせたことがあり、
その借金の返済のためにドライバーを買って出ていたのですが、
それもいよいよあとひと仕事で完済。
両親に代わりベイビーを育ててくれた、耳が不自由なジョーを楽にしてあげたい。
念願叶って、ベイビーは最後の仕事を無事に終わらせたのでした。
すると、行きつけのダイナーでウェイトレスのデボラに一目惚れ。
ふたりの仲も急接近。
幸せな日々が目の前と思ったのも束の間、再びドクからベイビーに仕事の電話が入ったのです…。

もらったプレスには“カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』”なんて表記もありましたが、
とにかく小気味いい。
動きが、カットが、バックに流れる曲のリズムにすべてシンクロしているんです。
もちろん、そうじゃない場面もありますョ。
でもドライビングの時もそう、メチャメチャ気持ちよくスクリーンの中の世界に入り込めます。
ストーリーもよく練れていて面白かったです。
あまりアクションものを誉めないボクですが(笑)、これはよく出来ていました。
普段あまり映画を見ないという人にも、映画の入門編としてオススメ!こういうのを見て、
映画にハマって下さい。あ、デートにはもってこいかも!☆5つ。
「ベイビー・ドライバー」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.8.12

『少女ファニーと運命の旅』☆☆☆
『スパイダーマン ホームカミング』☆☆☆
『フェリシーと夢のトウシューズ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


ボクはこの原稿もガラ携で打ってます。
「よく打てますね。パソコンのほうが全然楽じゃないですか」と言われます。
いやいや、パソコンは大変…。ガラ携のほうが指が慣れてます(笑)。
ただ、たまに五十音順の下のタイトル作品から文章作って行くことがあるんです。
そうすれば、途中で止めても一番下までスクロールせずに、
上に文章を乗せられるじゃないですか。わかります?
で、やっちゃうんですよ、長押し消去。
例えば、5本映画があって、5、4本目と書き終えて、3本目を打ってる時、
「この言い方はなぁ」と数行を消そうとした時、
下に大量の文章が出来上がってるのを忘れて、長押ししちゃう。
そう、全部消えちゃうのです(笑)。
「えぇ〜。また最初からか…」。パソコンでもガラ携でも、落とし穴はあるということですね。
さ、今週は3本です!



『少女ファニーと運命の旅』は、実話に基づく物語。

1943年のフランス。当時のフランスは、ナチスドイツの支配下にありました。
ユダヤ人に迫害の手が伸びる中、子供だけはと支援組織の施設に預けられ、13歳のファニーも、
ジョルジェット、エリカの2人の妹と共に施設で生活をしていました。
しかし、心ない密告者がいて、施設は閉鎖。イタリアが管轄する別の町へと移動します。
ところが、この町もドイツ軍に占領されると聞いた責任者のマダム・フォーマンは、
子供たちをスイスに逃がそうと決めるんですね。
料理番を務めていた青年エリーをリーダーに、9人の子供が命がけの旅に出ます。
しかし、エリーがドイツ軍に捕まってしまったのです。
隙を見てエリーがファニーに手渡した一通の手紙。
「中は見ないで。必ず届けてくれ」と、ファニーに託します。
エリーの代わりにリーダーとなったファニーと子供たちは、
無事スイスに辿り着くことが出来るのでしょうか…。

捕まったら最後、子供といえども、情け容赦ないナチスのユダヤ人政策。
言うことを聞かない、というよりも
言うことなど聞けない幼な子たちの行動にヒヤヒヤの逃走劇は続きます。
最後の最後まで、緊張が続く1本。
エリーが託した手紙の中身がまた…。
もらった資料には、モデルになった実在のファニー・ベン=アミさんのインタビューも載っています。
実話ですからね。戦争は人間をおかしくします。
絶対に行ってはいけない蛮行だと、こういう映画から学ぶべきではないでしょうか。☆3つ。
「少女ファニーと運命の旅」公式サイト



『スパイダーマン ホームカミング』は、マーベル・コミックの人気キャラクター作品。

ミッドタウン科学技術高校に通うピーター・パーカー。
彼は、アイアンマンである大富豪のトニー・スタークからもらったスーツを着て
スパイダーマンに変身すると、NYクイーンズの街をパトロール。
ところが、若さゆえの暴走もあり、なかなかトニーから、
アベンジャーズの正式メンバーとしては認めてもらえません。
そんなある日のこと、地球外物質を手に入れたトゥームスという男が、それを使ってハイテク武器を開発。
トゥームスの悪事を知ったピーターは、それを阻止しようと、トゥームスに近づくのですが…。

15歳の高校生がスパイダーマンで、クラスメートにそれがバレたり、
正義の味方が部活との間で板挟みになったり(笑)、恋をしたりと、
ヒーロー映画というよりも、一風変わった青春映画といった趣きも。
ところが、この“青さ”が、個人的には頂けない(笑)。
あまりにワキが甘く、考えなく行動するものだから、その時点で入り込めなくなっちゃう。
あんまりいい映画の見方じゃないのは自覚してるんですけどね…。
でも、スパイダーマン好きの人には新たな切り口。迫力の映像だし、楽しめると思いますョ。☆3つ。
「スパイダーマン ホームカミング」公式サイト



『フェリシーと夢のトウシューズ』は、フランスのアニメ映画。

孤児院に暮らすフェリシーは、踊ることが大好き。
夢はバレリーナになること。でも今の状況で、そんな望みが叶うはずもありません。
孤児院の親友が、発明家を目指すヴィクター。彼もまた、今のままでは夢を叶えられないのは知ってました。
ふたりは孤児院を脱走し、パリを目指すんですね。
なんとかパリに到着したフェリシーとヴィクターでしたが、着いた途端に離れ離れになってしまいます。
右も左もわからないフェリシーが辿り着いたのは、オペラ座。
引き寄せられるように中へ入っていくと、舞台で踊るバレリーナが。
あまりの美しさに見とれていたところを女性掃除係のオデットに見つかってしまいます。
頼み込んでオデットの手伝いをさせてもらうフェリシー。
オデットは、オペラ座以外に、ル・オー夫人の家に住み込みで働いており、
フェリシーもそこに住ませてもらうことに。
ル・オー夫人には娘のカミーユがいて、カミーユの夢もオペラ座で踊ること。
ル・オー夫人もカミーユも性格がキツく、
母との唯一の思い出であるフェリシーの大事なオルゴールを、カミーユは壊してしまいます。
すると、カミーユ宛てに郵便が届きます。
いけないことと知りながら、フェリシーが封を開けて見ると、オペラ座入学への招待状でした。
オルゴールを壊された腹いせもあり、フェリシーはカミーユになりすまし、
オペラ座へと入学するのですが…。

『カンフー・パンダ』や『マダガスカル』のアニメーターが手掛けた作品。
正直、フェリシーの行動に眉をひそめてしまったのと、
ダンスが好きなだけでバレエはそう簡単には踊れないということと…。
ちょっとリアリティに欠けてましたかね。
ファンタジーだし、リアリティのないものがダメだと言うんじゃないんですョ。
だとしたら、ドキュメンタリーしか認められませんから。
ただ、ここにはリアリティがあって欲しいっていう、大前提は大切っていうのかなぁ…。
夢に向かって頑張る少女の物語。
家族と一緒に、ことの善し悪しを教えながら、夢を語り合うにはいいかもしれません。☆3つ。
「フェリシーと夢のトウシューズ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.8.3

『俺たちポップスター』☆☆☆☆
『きっと、いい日が待っている』☆☆☆
『夜明けの祈り』☆☆☆☆
『リベリアの白い血』☆☆
『ロスト・イン・パリ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先日、ジャッキー・チェン主演作の試写に行ったら、ジャッキーちゃんが。に、似てる…(笑)。
やっぱり写真を撮っておけばよかったですね。言い出せませんでした(笑)。
さ、今週は5本です!



『俺たちポップスター』は、音楽業界を描いたコメディ映画。

幼なじみの3人で作ったバンド“スタイル・ボーイズ”が大ヒット。
中でも“俺、オレ”的なボーカルのコナーは、自分の力で売れたと勘違い。
大ゲンカをして、バンドは解散してしまいます。
コナーはソロ・アーティスト“コナー4リアル”としてソロ・デビュー。
DJのオーエンはコナーの専属になって活動を共にしたものの、
キャッチーなリリックを生み出していたローレンスは、
音楽界を引退して、農場を経営することに。
今やセレブの一員となったコナーの、ソロ1stアルバムはヒットしたものの、
2ndアルバムは大コケ。
悪いことは重なるもので、様々なトラブルにも巻き込まれると、
取り巻きたちは蜘蛛の子を散らすように彼の周りからいなくなるんですね。
心底心配してくれているオーエンの進言にも、耳を貸さないコナー。
このピンチを救うのはローレンスしかいないと、オーエンは仲直りのチャンスを伺うのですが…。

まるでMTVなどのミュージックTVを見ているかのようで、
新作プロモーションのための“密着”という、ドキュメンタリー風にした作りがハマりました。
何より、そこにたくさんの実在アーティストが登場!
「えっ、こんな人まで?」という大物も、多数出てきます。
世代を超えて、ニヤリと出来る映画です。
特に最後の登場人物に、ボクは驚かされました。「うっそー。まじか」。
表現はイマふうですが(笑)、90年代の洋楽ファン、笑えますョ。
いや、逆にこの人の姿に感動して泣くかも。是非、劇場で確かめてみて下さい!☆4つ。
「俺たちポップスター」公式サイト



『きっと、いい日が待っている』は、デンマークで起きた実際の話を映画化した作品。

1967年のデンマーク、コペンハーゲン。
13歳のエリックと10歳のエルマーは、シングルマザーの母親との3人暮らし。
貧しいこともあって、盗みを働いては警察に捕まっていたのです。
その頃、母親の病気が悪化、入院。
役所の担当が下した判断は、母親に彼らの面倒を見ることは無理。
ゆえにふたりは、男子児童向けの養護施設に入ることになります。
弟のエルマーは足がやや不自由で、それをからかわれて、
施設では上級生からイジメにあいます。
それどころか、施設の校長も、先生たちも、子供への虐待は日常茶飯事。
役所の査察の時だけ、うまくやり過ごすという、ここは悪夢のような施設だったのです。
ただひとり、新任の女性教師のハマーショイ先生を除いては。
しかし、そのハマーショイ先生も耐えかねて施設を辞めてしまったのです。
ふたりの兄弟にとって、唯一の希望は、15歳になったら施設を出られること。
その日まで、何があっても耐える生き方を選ぶのですが…。

弟のエルマーは宇宙が大好き。アメリカのアポロ計画に夢と希望を抱いている少年。
兄のエリックも弟を守ろうとする、強い兄でした。
小児性愛者による暴行や、目を覆いたくなるような虐待の数々。これが実話だと言うのですから…。
エルマーは頭のいい子で、機転を利かせて、なんとかこの現状を打開しようと考えます。
この映画のタイトルのように、いつか、いい日が来ていて欲しい。
逆に、ろくでもない大人たちには天罰が下っていて欲しい。
だって、究極の弱い者イジメですから。あなたもそう思うと思いますよ。☆3つ。
「きっと、いい日が待っている」公式サイト



『夜明けの祈り』は、第二次世界大戦直後のポーランドで起きた、実話に基づくストーリー。

フランス人女性医師のマチルドは、傷ついた兵士たちを母国に帰国させるため、
ポーランドの赤十字で働いていました。
そんなマチルドの元に、ひとりの修道女が駆け込んできます。
ポーランド語で一生懸命に何かを訴える彼女でしたが、
「ここではあなたたちを救えない。別の施設へ」と追い返すしかなかったのです。
ところが、雪の中、何時間も神に祈りを捧げているではありませんか。
見かねたマチルドは、軍用のジープで、遠く離れたカトリックの修道院へ向かったのです。
そこで見たのは、お腹の大きなシスターが、苦痛に顔を歪める姿でした。
信仰からはあり得ないシスターの妊娠。
聞けばソ連軍がやってきて、数日間に渡り、暴行を加えていったというのです。
他にも妊娠したシスターが何人もいて。
彼女たちを見捨てるわけにはいかないと、マチルドは赤十字には内緒で、
何度も修道院を訪れるのでした…。

実在の人物は、マドレーヌ・ポーリアックというフランス人女性。
彼女は戦時下で、医療に尽力。数多くの人々を救ってきました。
その中にこの物語の修道院もあったようです。
信仰上の理由から、決して望まれない妊娠。
でも母になったことで、生き方を改めようとするシスターもいました。
ところがです。そこに修道院長のとある行為が。絶対にいけないこと。
でも、単に責められるかどうか…。
戦争、暴力、信仰、命、女性の生き方。
実にいろいろなことを考えさせられるはずの1本です。☆4つ。
「夜明けの祈り」公式サイト



『リベリアの白い血』は、日本人監督によるアフリカ系移民の物語。

西アフリカのリベリア共和国に暮らすシスコ。
家族のために、少しでも収入を良くしたいと、ゴム農園で懸命に働いていたのですが、
一向に生活は楽になりません。
そんな時、アメリカに行った従兄弟のマーヴィンから、NYの話を聞くんですね。
愛する家族をリベリアに残し、シスコは単身アメリカに渡ることを決意します。
NYではタクシードライバーとして働くシスコ。
しかし、環境に慣れてきた頃、会いたくなかった元兵士仲間のジェイコブと、まさかの再会。
シスコはジェイコブに執拗につきまとわれるようになるのです…。

日本人監督の福永壮志監督作品。
ただ、シスコはNYでタクシードライバーとして働くといっても、
免許は?道は詳しいの?など、細部のリアリティに疑問点が付いた時点で、
説得力がなくなっちゃった気がするんですよね。
テーマが、“アメリカに生きるアフリカ系移民の日常”となると、特に軽くはない話ですから。
アフリカとアメリカで、ロケも大変だったと思います。
ちょっと厳しい評価ですが、あくまで個人的感想として。☆2つ。
「リベリアの白い血」公式サイト



『ロスト・イン・パリ』は、現役道化師夫婦のアベル&ゴードンが監督、
脚本、主演を務めた作品。

辺り一面、雪に覆われたカナダの村で、図書館司書として働くフィオナの元に、
パリに住むマーサおばさんから「助けて!」と書かれた手紙が届きます。
どうやら、無理矢理、老人ホームに入れられそうな様子。
村を出たことのないフィオナでしたが、一念発起、フランスに向かいます。
なんとかパリに着いたフィオナでしたが、住まいを訪ねても、マーサおばさんはいません。
途方に暮れながら、セーヌ川沿いを歩いていたフィオナは、誤って川に転落。
持っていた荷物をすべて流されてしまうんですね。
その荷物を拾ったのが、川沿いに住むホームレスのドムでした。
財布の中から頂戴したお金で、豪勢にレストランで食事をしていると、
カナダ大使館でもらった食事券で夕食を食べに、フィオナがやってきます。
落ち込んでいるフィオナに高価なお酒をご馳走するドム。
この出会いがふたりを結びつけることになるとは、思いもよらなかったのです…。

色彩はカラフルで、動きはコミカルに。
もらった資料に“サプライズとユーモアが詰まった飛び出す絵本”とありましたが、
まさにそんな感じ。
ストーカーまがいのホームレスの男性と付き合いますか?
なんて疑問もあるけれど、スクリーンのこちらまでは臭いは届きませんから(笑)。
さすが現役道化師カップル。息もぴったりで、オリジナリティは十分に出ていると思います。
全体のトーンとして、アコーディオンの音色が聞こえてきそうなイメージです。☆3つ。
「ロスト・イン・パリ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.7.27

『ブランカとギター弾き』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先日、ようやく見つけた袋菓子を大量購入。
それを持って試写室へ。あ、“キャベツ太郎”です(笑)。
もちろん、飲食禁止ですから、それを試写中に食べる気はさらさら無いのですが、
周りの人の目につかないように、ささっとイスの下へ。
最寄り駅のコインロッカーに入れるのもねぇ。
上映後もそそくさと帰りましたとさ(笑)。
さ、今週は1本です!



『ブランカとギター弾き』は、日本人監督がフィリピンを舞台に撮影した映画。

孤児である少女ブランカは路上生活者。
盗みや物乞いをしながら、何とか毎日を生きていました。 ある日のこと、TVで有名な女優が孤児をたくさん養子に取っていることを知り、
自分もお金を貯めて、お母さんを買おうと思いつきます。
盗んだお金を隠し貯めるブランカ。
そんな時、公園で見かけたのが、年老いた盲目のギター弾きのピーターでした。
足元の缶に入っていた投げ銭を、そっと盗もうとするブランカに、
ピーターは「お金を持っていってもいいが、ご飯代だけは残しておいておくれ」と、
優しく語りかけるんですね。
人の愛情を知らずに育ったブランカでしたが、そんなピーターとは意気投合。
仲間にダンボールの家を壊されてしまったブランカは、ピーターと一緒に旅に出ます。
辿り着いた街で、『3万ペソで母親を買います』と書いたビラを貼るブランカ。
相変わらず盗みを働くブランカに、ピーターは歌でお金を稼ぐ方法を教えるのでした…。

日本人の長谷井宏紀監督作品。
お金で何でも買えてしまう現代。でもお金で買えないものもあるんだよと。
ブランカとピーターはスカウトされて、パブで歌い、人気を博すのですが、
売上を盗んだ従業員の濡れ衣を着せられ、クビになってしまいます。
さらに貼ったビラが原因で、身の危険にも晒されます。
それでも、ピーターを始め、人の優しさに救われたブランカは、
厳しい現実の中でも笑顔を取り戻すんですね。
ピーター役のピーター・ミラリは、この映画が完成した直後に、
突然の病でこの世を去ったとか。
おそらくセリフも誰かに読んでもらったのを覚えるとか、苦労もあったはず。
いい作品を遺しました。合掌…。☆3つ。
「ブランカとギター弾き」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.7.22

『台湾萬歳』☆☆☆
『ダイ・ビューティフル』☆☆☆
『十年』☆☆☆
『ビニー/信じる男』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写に足を運べば運ぶほど、映画宣伝会社の横のつながりなんでしょうか、
新しい宣伝会社さんからの試写状が増えていきます。
新たな映画は単館ものが多いのですが、
なかなか興味深い作品も多く、見るのが楽しみだったりします。
当たりハズレが多いのも単館ものですが(笑)、それはそれ。
いつも言うように、自分の中の“目盛り”作りですから。
さ、今週は4本です!



『台湾萬歳』は、ドキュメンタリー。

台湾に住む80歳以上のお年寄りは、日本の統治時代に青少年期を過ごした人々。
片言であっても日本語が話せ、日本語の歌も歌えるお年寄りたち。
日本に対する思いも複雑なものがあるはずなのに、
東日本大震災の時には200億円を超える義援金が台湾から届いたと。
そんな台湾の皆さんを追い、映像に収めてきた酒井充子監督の“台湾三部作”の最終作が今作。
台湾南東部の小さな港町、台東縣成功鎮で、日本語を話せる元船長とその家族、
その他いくつかの家族の日常にカメラは迫ります。
大きな感動があるとか、新しい発見があるとか、そういう作品ではありませんが、
リアルな台湾の一部が切り取られています。☆3つ。
「台湾萬歳」公式サイト



『ダイ・ビューティフル』は、フィリピン映画。

トリシャ・エチェバリアは、ミス・ゲイ・フィリピーナ。本名はパトリック。
幼い頃から女装に興味があり、男の子が好き。
でも、厳格な父はそんな息子を認めなかったのです。
高校生になると、バスケ部のイケメンに恋をするのですが、
興味本位に仲間に回されてしまうパトリック。
それが父にバレてしまい外出禁止に。
それでも女装をしてミスコンに出場する息子を、父は遂に勘当してしまうんですね。
ゲイ友達の家に転がり込み、賞金を稼ぐためにミスコンへ。
産まれたばかりの知人の娘を引き取って母になると、恋もして、
家族を作る夢も一瞬でしたが、叶えます。
そんな波乱万丈の人生を送ってきたトリシャが、突然亡くなってしまうんですね。
待望のミス・ゲイ・フィリピーナに輝いた後、急に倒れて帰らぬ人になったのです。
彼女が常々言っていたこと。
それは、死後、葬儀までの7日間、毎日メイクを変えて、セレブメイクで旅立ちたいと。
ビヨンセ、ケイティ・ペリー、アンジェリーナ・ジョリーetc。
仲間が死化粧を施すと、その写真がFacebookでフィリピン中に拡散されて大きな話題となり、
ホンモノのセレブや、大物ファッション関係者が、トリシャの弔いにやってきます。
トリシャは死後、一躍有名人となったのでした…。

自分らしく生きること。逆に、自分らしく生きられないことの窮屈さ。
それがこの映画のテーマだとか。
最初、試写状が届いた時にはドキュメンタリーかと思い、
いくらメイクをしてるからといっても、亡くなった人の顔を何度も見るのは…と思ったのですが(笑)、
実際にはさにあらず。
コメディ映画の括りでいい。そんな感じの作品です。
ただ、多様性が言われる現代社会においては、“笑ってお終い”というだけではないはず。
そんなテーマを肩肘張らずに見られる1本です。興味のある人は是非。☆3つ。
「ダイ・ビューティフル」公式サイト



『十年』は、5本のオムニバスからなる香港映画。

1997年7月、イギリスから中国に返還された香港。
ヨーロッパの民主主義、自由経済が、中国の共産主義に内包されたことで、
様々な歪み、軋みが生まれているのは周知の通り。
この『十年』という映画は、制作された2015年から“十年後”の香港をテーマに、
5人の監督が作った5本の作品からなるオムニバス。
政治的な観点から当局に対する皮肉もたっぷりと、時に失われていく記憶を描き、
香港に暮らす人々の日常の不安や思い、あるいは一筋の光が映し出されています。
制作費750万円、1館からスタートしたインディーズ映画が、
9200万円もの興行収入を叩き出し、強い規制の中、
香港のアカデミー賞を受賞するまでに至ったのには、テーマは十年後でも、
香港の“今”がリアルにあるからだと思います。
香港の皆さんはみんな見ると涙を流すとか。
日本人のボクに、正直それはありませんでしたが、いろんな意味で隣人を知る。
そんな1本じゃないかと思いますョ。☆3つ。
「十年」公式サイト



『ビニー/信じる男』は、実話に基づくストーリー。

プロボクサーのビニー・パジェンサ。
世界タイトルマッチに挑むも大敗。
プロモーターから引退を示唆されるのですが、
新たなトレーナーのケビン・ルーニーとタッグを組み、2つ階級を上げて世界に挑戦。
それが奏功し、ビニーは世界ジュニアミドル級の王者に輝いたのです。
しかし、歓喜は束の間。
なんとビニーは車で正面衝突の事故を起こし、首を骨折する重傷を負ってしまいます。
医師からは歩くことすら困難になるかもという、非情の告知を受けるんですね。
ここでビニーは選択を迫られます。
脊椎を固定する手術を受ければ、体を動かすことは出来る。
でもボクサーとしての再起の可能性は0になる。
もうひとつは、頭蓋骨に穴を開け、装具を固定。
半年間も、折れた首をネジで留めて支えるという方法。
ボクシングを捨て切れないビニーは、後者を選びます。
しかし、彼を待っていたのは、想像以上に壮絶な日々だったのです…。

実話ですから、結論から言うと、1年後にビニーは再起。
再び世界チャンピオンに輝くのです。すごい話でしょ。
トレーナーのケビンというのも、実力があるのに酒に溺れてくすぶっていた男。
マイナスとマイナスでプラスになった訳でもないのでしょうが、
絶対安静の中、隠れてトレーニングをしたりと、ビニーを支えます。
金にならない、将来がないとなったら次々去っていく周りの人間たち…。
嫌なものですが、それも現実。
それらのすべてをバネにして再び立ち上がった、不屈の男の物語です。
「これは本物の『ロッキー』なんだ」と言うビニーの言葉にも納得です。☆3つ。
「ビニー/信じる男」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.7.15

『カーズ/クロスロード』☆☆☆
『彼女の人生は間違いじゃない』☆☆☆
『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


7、8月はJRAの競馬がローカルに行ってしまうこともあり、
比較的時間が出来るんですね。
試写会にたくさん足を運ぶチャンスかなと思ってます。
最近はいい作品が多いですからね!
さ、今週は3本です!


『カーズ/クロスロード』は、ディズニー/ピクサーの人気シリーズ3作目。

天才レーサーのライトニング・マックィーン。
ただ強いだけでなく、楽しみながら走る彼の姿を一目見ようと、
サーキットは今日もたくさんのファンで溢れていました。
ところが、です。ゴール直前、猛スピードでマックィーンを抜き去る車が1台。
新人のジャクソン・ストームでした。
ストームは最新のテクノロジーを駆使した、ハイテクカー。
この“新世代”の登場により、同期のみんなが引退に追いやられ、
レース界に革命と大きな変化をもたらすことになるのでした。
焦ったマックィーンは、シーズン最後のレース中に大クラッシュ。
大怪我を負ってしまうんですね。
怪我から回復したマックィーンでしたが、自信は失くしたまま。
すると、新たなスポンサーが、
最新のハイテク・トレーニング施設でマックィーンの“再生”を計ります。
トレーナーは、元々はレーサー志望だったクルーズ・ラミレスという女の子。
マックィーンの再起を懸けた日々がスタートしたのですが…。

ディズニー・アニメを取り上げる時に、いつも書くことですが、
またまた技術は進化していて、実写と見紛うばかりの素晴らしい映像に、
ただただ感心してしまいます。
ストーリーは、世代交代をテーマに、それでも頑張るマックィーンの姿を描いたもの。
老兵去るべし?時代の変化についていけないマックィーンに、
ボクは自分を投影して、ちょっぴり悲しくなっちゃいましたが(笑)、
そんな中でマックィーンが、前向きに将来を生きようとするという物語。
でもどうなんでしょ。この先、続編は作れるのかなぁ。これがある意味完結編?
「えぇ〜!」とソワソワしているファンは、劇場で確かめてみて下さい。
ボクはまだまだ頑張りますョ!あ、この意味も一緒に確かめて(笑)。☆3つ。
「カーズ/クロスロード」公式サイト



『彼女の人生は間違いじゃない』は、“居場所探し”の物語。

福島の仮設住宅に暮らす、みゆきと父の修。
農地は汚染され、生業としていた農業は出来ず、修は補償金での酒とパチンコの日々。
口を突くのは、震災で亡くなった妻の思い出話ばかり。
そんな父親の姿に辟易としていたみゆきでしたが、
みゆき自身も人生の目標を見失っていたのです。
平日は市役所に勤めるみゆきでしたが、週末になると、
いわき駅前から東京行きの高速バスに乗る。
父親には英会話教室に通っていると言っていますが、それは真っ赤な嘘。
東京へ行く目的、それはデリヘルで働くためだったのです…。

渋谷のデリヘル嬢の時はYUKIと名乗っているみゆき。
週末だけは、行き詰まった福島での自分とは、
また別の人格を生きるということなのでしょうか。
タイトルにあるように、人の人生を正しいとか、正しくないとか、
そんなことを言えるボクではありません(笑)。
ただひとつだけ思うことがあります。
ことの善し悪しは、未来の自分が今の自分に対し、
ちゃんと胸を張れるかどうかじゃないですかね。
つまり、やったことをずっと後悔すると思うならやらなければいい。
逆に、あの時の自分を誉めてあげたいと、ツラい道をよく選んだねと、
そう思う自信があるならやればいい。
身体を売るのはどうかなぁ。
いろいろと考えさせられる映画です。光も差すので、ご安心を。☆3つ。
「彼女の人生は間違いじゃない」公式サイト



『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』は、
ウクライナ出身の天才男性ダンサーのドキュメンタリー。

1989年、ウクライナはヘルソンの貧しい家庭に生まれたセルゲイ・ポルーニン。
幼い頃からバレエの才能を発揮。両親の献身的な援助を受けながら、
キエフ国立バレエ学校に入学。
さらに13歳で英国ロイヤル・バレエスクールに入学します。
19歳の時に、英国ロイヤル・バレエ団の
史上最年少男性プリンシパルとなったポルーニンでしたが、
人気もピークの22歳の時、突如退団してしまうんですね。
バレエ界のしきたり、人気の重圧、家族の崩壊。
天才ゆえの葛藤が彼にのしかかります。
何のために踊るのか…。
全身に入れた無数のタトゥーも、そんな彼の心の深淵を表しているかのようで。
紆余曲折。それでもやっぱり自分は踊ることが好きなんだと気付きます。
自滅から再生へ。
ひとりの天才ダンサーの半生記です。
ラストで流れるホージアの「Take Me To Church」に乗せて踊るポルーニンの姿は、
その詞の中身と共に、見る者の心を打ちます。
この映画を見るか、見ないかは、YouTubeでも見ることのできる
そのミュージックビデオを見てから決めてもいいかと思います。
いや、絶対に映画館に足を運びたくなると思いますョ。☆5つ。
「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.7.6

『歓びのトスカーナ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


“スメハラ”なんて言葉がありますが、試写の常連の人の中に、
お風呂に入らない人がいて。もう臭い、臭い。
早めに会場に行って、自分の好きな席に座っても、
その人が横に来ると席を移動せざるを得ない。
だって、まったく映画の世界に入れなくなっちゃうんだもの。
これから夏になって、ますます汗をかく季節に。
どうなっちゃうんだろうかと、かなり心配です。誰かが言わないといけないのかなぁ…。
さ、今週は1本です!


『歓びのトスカーナ』は、自国イタリアのアカデミー賞5部門を受賞した作品。

トスカーナ州にある精神診療施設。
緑豊かな丘の上に立つこの施設では、心にいろいろな問題を持つ女性たちが、
診療スタッフと共に生活していました。
ベアトリーチェは自称“伯爵夫人”。
まるでこの施設の主であるかのように振る舞っていたのです。
そこに新たな入居者が。やせ細った身体にタトゥーの入った、ドナテッラです。
彼女のことが気になって仕方ないベアトリーチェは、なんとか気をひこうとしますが、
ドナテッラは心を開こうとはしません。
そんなある日のこと。2人は施設外の作業でお金を得、
本来乗るべきバスとは違うバスに飛び乗り、施設とは別の方向へ。
そこから2人の気ままな旅が始まったのでした…。

イタリアは、法律で精神病院を持たない国になったんですって。
それに代わって作られたのがコムニタと呼ばれる精神科ケア付きのグループホームで、
物語の舞台になるのはこの施設だということ。
だから、イタリアには心に問題を抱える人が、普通に街中にいるんだそう。
プレス資料のコラムには“精神病院を捨てた国ならではの、狂人喜劇の傑作”とありました。
日本だとなかなか描きづらいテーマかもしれませんね。
後半は、車を盗んだり、無銭飲食をしたり、元夫のところへ行ったり、
心を病む原因の場所を訪れたりと、ちょっとやんちゃなロードムービーに。
ホロッとさせられるシーンもあります。
前述のコラムに、“狂気は万人の心に宿っている”と。確かにその通り。
ボクらだって、普段は隠しているだけで、
その実、狂気は持ち合わせているんですよね。
常人とされている人のほうがおかしいんじゃないかと思わされるシーンに、
考えさせられたりもするはずです。☆3つ。
「歓びのトスカーナ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.7.1

『クロス』☆☆☆
『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週末は7月です。2017年も半分が過ぎたことになります。早いですね。
上半期は75本。いいペースで試写を見させてもらってます。
今年後半も、どんな作品と出会えるのやら。楽しみです!
さ、今週は2本です!



今週末は7月です。2017年も半分が過ぎたことになります。早いですね。
上半期は75本。いいペースで試写を見させてもらってます。
今年後半も、どんな作品と出会えるのやら。楽しみです!
さ、今週は2本です!


『クロス』は、人間心理サスペンス。

ひっそりと、地味に、アパートで一人暮らしをしている真理子。
歯科医院の受付で働いて生計を立てている彼女でしたが、実は昔、
不倫殺人の犯人として逮捕、服役していた過去があり、
贖罪の日々を送っていたのです。
ある日のこと、真理子は犬の里親募集の広告を見つけます。
ペット禁止のアパートに引っ越すため、
犬を手放さなくてはならなくなった平山家は、夫と妻と娘の3人暮らし。
実は夫の孝史の会社が倒産。狭いアパートへの引っ越しを余儀なくされていたのです。
真理子は犬を引き取りに平山家へ。
その後、孝史が偶然、真理子の姿を歯科医院で発見。
娘が寂しがってるから、休みの日に犬と会わせてもらえないかと依頼。
真理子もそれを了承し、平山家の家族と真理子が公園で一緒に休日を過ごします。
しかし、妻の知佳は、夫の真理子への視線に、別の思いを感じ取っていたのです。
それからも、犬を理由に真理子と接触する孝史。
そんな中、知佳は、真理子が昔起きた
“赤羽不倫殺人事件”の犯人に似ていることに気付くんですね。
しかし、知佳にも“過去”がありました。
同じ頃に起きた“集団リンチ殺人事件”の加害者のひとりだったのです…。

欲望、嫉妬、贖罪。
罪を犯した人の心の奥底に、スポットライトを当てた1本です。
“エロティック・サスペンス”なんて文字も、マスコミ向けの資料にはありました。
ここに斎藤工演じる、フリーのジャーナリスト・柳田の存在があって、
過去の殺人事件の犯人のその後を追うという企画記事の中で知佳が対象となり、
取材を受けた知佳が真理子を告発。柳田のペンは真実を書く。
苛立つ知佳が本性をあらわにしていくという…。
なかなかよく出来ていたと思います。
全体を覆う、重く暗いトーン。
こういうのがたまらなく好きという人にはオススメです。☆3つ。
「クロス」公式サイト



『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』は、人気シリーズの最新作。

今や落ちぶれた海賊に成り下がっていたジャック・スパロウ。
一文無しのジャックも酒は飲みたい。
そこで、“望むものへと導いてくれる”大切なコンパスを、
ラム酒と交換に手放してしまうんですね。
このコンパス、持ち主に裏切られると、持ち主の最大の恐怖を解き放つのです。
ジャックにとっての最大の恐怖。
それは最恐の敵、海の死神・サラザールの復活でした。
一方、かつてのジャックの冒険仲間だったウィル・ターナー。
彼は呪いをかけられて、幽霊船の船長として幽閉されています。
しかし、その息子のヘンリーが立派に成長。
父の呪いを唯一解けるのは、伝説の秘宝“ポセイドンの槍”だと知ります。
また、科学者ゆえに魔女の疑いで捕らえられそうになっている、
天文学者のカリーナも、
生き別れた父の残したガリレオ・ガリレイの日記の謎を解くために、
“ポセイドンの槍”が必要だと。
蘇ったサラザールは海を支配するために、ジャック・スパロウはそれを阻止するために、
ジャックの宿敵・バルボッサも、みんな“ポセイドンの槍”を探し求めます。
果たして、この秘宝を手にするのは誰なのでしょうか…。

ジョニー・デップの代表作。
2003年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』から5作目が、
いよいよ公開となります。
この作品では、これまで決して明かされることのなかった、
海賊ジャック・スパロウ誕生の謎が明らかになります。
「で、どうしてこの船に乗れたのか。途中は端折るのね」
なんてツッコミは不要(笑)。
ファンが見るのは、そんな細かい部分じゃありませんから。
「問答無用の海賊ジャック・スパロウ」とでも表現しておきましょうか。
最強の様式美は、ファンの心をわしづかみです。☆3つ。
「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.6.24

『結婚』☆☆
『ジーサンズ はじめての強盗』☆☆☆
『ハクソー・リッジ』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先週は出張もあり、試写を1本も見られず。
6月の終盤は精力的に足を運ぼうと思ってます。
さ、今週は3本です!



『結婚』は、ディーン・フジオカ主演作。

古海健児は、すべてが完璧な、超イケメンの結婚詐欺師。
かつての被害者だった、るり子と手を組み、次々と女性を騙していたのです。
その一方で、古海は妻の初音と“幸せな結婚生活”を送っていました。
初音には営業の仕事をしていると嘘をつきながら。
家具店に勤める麻美、キャリア志向の強い真奈、市役所勤務の鳩子。
みんな魅力的な古海に騙されていきます。
ところが、鳩子が古海に会いたい一心で、探偵に捜査を依頼。
そして、被害者が一堂に会することに。
古海の正体とは、また彼の背負ってきた運命とは…。

原作は、直木賞作家・井上荒野の同名小説。
そんな意味では、ディーン・フジオカの起用はハマり役だったと言えるでしょう。
ただ、おそらく原作にあるであろう、登場人物のそれぞれが持つ心理の深みの部分が、
あまり上手く出ていないような気がしてしまいました。
主演のディーン・フジオカに、スポットライトが当たり過ぎたからかなと。
彼のファンのための作品になってしまったように思います。
もしそれが制作サイドの狙いなら満点だと思いますが。☆2つ。
「結婚」公式サイト



『ジーサンズ はじめての強盗』は、
アカデミー賞受賞の3人のシルバー俳優によるコメディ映画。

ジョー、ウィリー、アルの3人は、同じ会社に40年も勤める大親友。
定年後は、年金で悠々自適な生活を送るはずだったのですが、
会社のオーナーが替わったことで、積み立ててきた年金が消滅!
さらに悪いことに、ジョーの住宅ローンの金利が一気に上がって返済が3倍に跳ね上がり、
家を差し押さえられることに。
銀行に直訴に行くも、聞く耳すら持たない担当者にイラ立っていると、
そこにマスクを着けた3人組の銀行強盗がやってきて、
わずか数分で誰も傷付けることなく大金を奪っていったのです。
これを見たジョーは、ウィリーとアルに言うんですね。
「わしらの年金を取り戻そう!」。
こうしてジーサンたちによる銀行強盗が計画されたのでした…。

モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキン、
みんな実年齢80歳オーバーのジーサンズ(笑)。
年金、住宅ローン、健康問題と、どこの国でも悩みは一緒。
あり得ない設定でも、なんとなくリアリティすら感じてしまうから面白い。
近所のスーパーで、リハーサル代わりの万引きをするのですが、いとも簡単に捕まっちゃう。
平気かいなと心配になるんですが、本番ではすっごい味方が現れるんですよ。
笑えて、泣けちゃうかも。
世知辛い世の中だからこそ誕生したコメディ作品。
こんな映画が出来なくて済む時代の到来は、夢のまた夢でしょうか。☆3つ。
「ジーサンズ はじめての強盗」公式サイト



『ハクソー・リッジ』は、実話に基づくストーリー。

緑豊かなヴァージニア州の田舎町で生まれ育ったデズモンド・ドス。
第2次世界大戦が激化し始めた頃、デズモンドの友人も、弟も、出征を決意。
しかし、第1次世界大戦で心を病み、酒に溺れる父の姿を、
デズモンドはずっと見てきたのです。
「汝、殺すことなかれ」。
この教えを大事にしてきたデズモンドは考
えます。衛生兵なら自分も国に尽くすことができるのではないかと。
そうして陸軍に志願し、配属先の部隊でも、ほとんどの訓練は隊の仲間に先んじるのに、
狙撃の訓練が始まると、デズモンドは断固として銃に触ることを拒否したのです。
命令拒否で軍法会議にかけられるデズモンドでしたが、
意外な人物の救いの手で、デズモンドの主張は認められたのです。
そして、いよいよ戦場へ。1945年5月の沖縄、
通称“ハクソー・リッジ”に到着したデズモンドたちの部隊は、
先発隊が6度登って、6度壊滅させられた断崖絶壁へと向かいます。
デズモンドは自分の信念から、銃を持たずに壁へと挑むのでした…。

“ハクソー”はノコギリ、“リッジ”は崖。死者が多数出た、
沖縄戦の戦場となったギザギザの断崖絶壁のことをこう呼んだそうです。
「みんなは殺すが、ボクは助けたい」。
デズモンドは銃を持たずに、仲間の兵士を救うために奔走します。
弾が当たらないのが奇跡とも言える激しい戦場で、
自らの命をかえりみず、とにかく仲間を、時に敵をも救うのです。
初めは臆病者のレッテルを貼られていたデズモンドですが、
一番勇気がある男だったんだと、後で上官や仲間たちは口を揃えます。
これが実話だというのですから、すごい…。
自分の信念に生きたデズモンド。陰で支えた、恋人で妻のドロシーの存在もありました。
でも、本当の勇気は戦争をしない勇気。
こればかりは、人類が絶対に持ち得ないものなのかもしれませんね。☆4つ。
「ハクソー・リッジ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.6.17

『心に吹く風』☆☆☆☆☆
『こどもつかい』☆☆
『世界にひとつの金メダル』☆☆☆☆
『ドッグ・イート・ドッグ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


篠原哲雄監督の『花戦さ』の興行成績が気になって(笑)。
その後、話題の作品が続々公開となり、初登場で上位に飛び込んだ来ているのを考えると、
トップ5にとどまっているのはさすがだなと。
初登場でのランキングは“話題先行”でもあり、つまらなければ保てずに下がっていきますからね。
そんな意味では再浮上の余地もあるのかなと。
まだ見てない方、是非ご覧になってみて下さい!
さ、今週は4本です!



『心に吹く風』は、韓流ドラマ『冬のソナタ』のユン・ソクホ監督が、
劇場版映画として初めて手掛けた作品です。

ビデオアーティストのリョウスケは、友人の住む北海道・富良野の郊外で作品を撮っていたところ、
乗っていた車が故障。
携帯を持って来なかったリョウスケは、電話を借りようと、ポツンと立つ家の扉をノックします。
すると、中から出て来たのは、高校時代の初恋の人・春香でした。
23年前、嫌いになったわけでもないのに別れてしまい、
そのままになってしまった最愛の女性との思わぬ再会。
リョウスケは、春香が結婚していることに気づきますが、撮影に付き合って欲しいと誘います。
「リョウスケくんは、なんで結婚しないの?」という春香の問いに、
「春香が俺の理想を思いっ切り高くしたんだよ」と笑うリョウスケ。
春香の夫は出張で家を留守にしており、高校時代に戻ったふたりは、
リョウスケに残された富良野での2日間を、一緒に過ごすことにしたのです…。

登場人物が少なく、それゆえ主人公のふたりの心情が、痛いほどに伝わってくる。
大人の切ない恋物語です。
主演の真田真垂美さんは、篠原哲雄監督作品、
山崎まさよし主演の『月とキャベツ』のヒロインで、
しばらくの女優業をお休みしていたのですが、これが久々の女優復帰作。
実はボクも『月とキャベツ』では“声の出演”をしていて、
冒頭から流れるカーステレオのDJの声が、それ。
ちゃんとエンドロールで、クレジットも流れるんですョ。
その声を録ったのがNACK5のサテライトスタジオということもあり、
真田真垂美さんと篠原哲雄監督が、当時のボクの電リクにゲスト出演してくれたんですね。
で、『心に吹く風』の試写の会場に、真田真垂美さんが挨拶に来ていて、
上映後に「あのぉ…」と声を掛けたら、「覚えてますよ!」と。
ゲスト出演のことを真田さんから語ってくれて。ちょっと、いやかなり感激でした!
映画は23年振りですが、ボクらも20年振りぐらいの再会ですから。
あんまりネタバレもなんですから書けませんが、旦那が留守でも“純愛”です(笑)。
さすが『冬ソナ』の監督だなって感じの仕上がりです。
人生って、戻れないから切ない。でも、だからこそ“今を生きる”大切さを痛感します。
北海道の大自然が、素晴らしい舞台を演出しています。
ホント、素敵な映画でしたョ。満点!☆5つ!
「心に吹く風」公式サイト



『こどもつかい』は、“タッキー”こと滝沢秀明主演のホラー映画。

とある郊外の街で、連続不審死事件が起きます。
この事件を追っていた新人記者の駿也は、とある共通点を発見するんですね。
それは、小さなこどもが失踪した3日後に、その周りの大人が死んでいるということ。
いずれも、死んだ大人とこどもの関係は悪く、失踪したこどもたちは戻ってくると、
皆、同じ歌を口ずさんでいたのです。
これは“こどもの呪い”じゃないのか。噂は街中に広がります。
駿也の恋人で保育士の尚美は、
ちょっとした誤解から担当する男の子の蓮の怨みを買ってしまうんですね。
蓮は失踪。そして、戻ってきたのですが、蓮が“あの歌”を口ずさんでいたのです…。

オリジナル脚本によるホラー映画で、監督は『呪怨』などで知られる清水崇監督。
ただ、どちらかというと、タッキーファンのための映画かなと。
タッキーは“こどもつかい”の役なんですが、その衣装もカラスを思わせる斬新なもの。
「滝沢歌舞伎」に代表される、
一連の活動の一部として、この作品があるんだろうなと感じました。
ちなみにこれが映画初主演だそうです。
清水崇監督ですから、クオリティも低くはないのですが、
タッキーファンなら☆を5つ付けるだろう分、客観的に差を付けさせて下さい(笑)。☆2つ。
「こどもつかい」公式サイト



『世界にひとつの金メダル』は、実話に基づいたフランスの馬術の物語。

ピエール・デュランは、幼い頃から父の指導で障害飛越競技を続けてきました。
そんなピエールも、大人になって選んだのは、弁護士の道。
子供の頃に馬術競技で共に戦ったナディアと再会し、結婚。
都会で将来有望な弁護士として活躍します。
ところが、ピエールの心は、馬術を捨てられずにいたんですね。
そして、エリート弁護士の道を断ち、実家に戻ったピエールが出会った1頭の馬。
それがジャップルーでした。
ジャップルーは小柄で気性が荒く、とても競技には向かない馬。
それでも高い跳躍力には、無限の可能性を秘めていたのです。
ピエールは決めます。困難は待ち構えているはず。
それでもジャップルーをパートナーに、障害飛越の頂点を目指そうと…。

1988年のソウルオリンピックで金メダルを獲得する、
フランスのピエール・デュランとジャップルーの感動の物語。
ヨーロッパにおける馬術というのは、日本の競馬以上に人気が高く、
馬術で億を稼ぐ人がいるほどなんですね。
そのあたりのことは、馬術のフランス代表の記者会見に、
日本では考えられない数の記者が集まっているシーンなんかでわかるかと思います。
決められた馬場で、馬がふだん自らやらないようなことを、鞍上が操作してるんですが、
あたかも馬が進んで自らやっているかのように見せるのが“馬場馬術”。
馬のフィギュアスケートみたいな感じでしょうか。
一方で、ハードルを飛越していくのが障害飛越競技なんですが、
実はあれも人が単に馬に捕まっているのではなく、ちゃんと馬を踏み切り地点に導くのが役目。
それもコースデザイナーは意地悪?で、完歩を合わせづらい距離、
位置にあえて障害を置いていくのです。わかると本当に面白いですョ。
2020年の東京オリンピックは、馬事公苑が馬術の競技場。
今からこういう映画で、馬術に興味を持っておいて欲しいと思います。☆4つ。
「世界にひとつの金メダル」公式サイト



『ドッグ・イート・ドッグ』は、
ニコラス・ケイジ主演のハードボイルド&バイオレンス作品。

コカイン所持の罪で捕まっていたトロイが出所。迎えてくれたのは、
先にシャバに出ていたコカイン中毒のマット・ドッグと、取り立て屋のディーゼル。
どちらもかなり“ヤバい”連中で、マット・ドッグは3日前に、
居候していた家の女と娘を射殺したばかり。
ストリップバーで再会した3人は、まずは金を稼ごうと、
やはりムショ仲間だった地元のギャングのボス、エル・グレコに相談。
指示に従い、イケイケの麻薬密売人を襲撃。
コカインと9000ドルを手に入れたのですが、これが一晩でカジノと女に消えてしまいます。
再びエルの元を訪ねたトロイは、とあるメキシコ人の息子の誘拐を持ちかけられます。
簡単な仕事のはずだったのですが、事態はとんでもない方向へと向かっていったのでした…。

タイトルの意味は、「食うか、食われるか」。
なんともハチャメチャな映画です。
コカイン吸引後のサイケな映像も、まだ10代の女の子の顔に枕を押し付け、
トリガーを弾く残酷さも。まさに“超バイオレンス”です。
B級感も逆にファンにはたまらないのかも?
昔の“東京12チャンネル”で放送されそうな1本です。☆3つ。
「ドッグ・イート・ドッグ」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.6.8

『残像』☆☆☆
『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


梅雨の時期ですね。湿気も避けられる映画館は、雨宿りには絶好の場所。
そうは言っても、涙で頬を濡らすことばかりは、避けられないかもしれませんが(笑)。
さ、今週は2本です!



『残像』は、昨年90歳でこの世を去ったポーランドの巨匠、
アンジェイ・ワイダ監督の遺作。

第二次世界大戦後のポーランド。
ソ連の影響下に置かれ、スターリン主義を掲げる当局の管理体制のもと、
芸術もまた厳しい規制を受けていました。
そんな中、大学教授で画家でもあるヴワディスワフ・ストゥシェミンスキは、
党規制に反する独自の芸術を押し進めます。
そんな彼を全体主義権力が許すはずもなく、締めつけは強化され、
画材はもちろん、食料配給まで手に入れられなくなったのです。
それまで得てきた芸術家としての名声も、人としての尊厳も、
ことごとく踏みにじられていく中にあっても、ストゥシェミンスキは、
決して芸術に希望を失うことはなかったのです…。

ポーランドの実在の芸術家を描いた作品。
アンジェイ・ワイダ監督は、社会主義化の時代に翻弄され続けた祖国ポーランドを描き、
遺作となった今作でも、「人々の生活のあらゆる面を支配しようと目論む全体主義国家と、
一人の威厳ある人間との闘いを描きたかった」と。
そして、「これらは過去の問題と思われていましたが、
今もゆっくりと私たちを苦しめ始めている。
どのような答えを出すべきか、私たちは既に知っている。
そのことを忘れてはならない」としています。☆3つ。
「残像」公式サイト



『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』は、
北朝鮮からの脱北女性を追ったドキュメンタリー。

マダム・ベーの“ベー”は、“B”のこと。
ひとりの名もなき脱北女性に密着したドキュメンタリー映画ですが、
この作品、かなりの衝撃でした。
まず、彼女は脱北目的で北朝鮮から中国に渡ったんじゃないということ。
夫に職がなく、あまりに貧しいので、
外貨を稼ぎに1年だけ中国で働こうとブローカーに掛け合った。
すると、北朝鮮女性は、騙されて、貧しい中国の農家に嫁として売られてしまうんですね。
若ければ高値で。高齢ならば安値で。彼女にはふたりの子供もいる。
中国人家族も、それを承知でBを嫁として迎え入れるのです。
ここで哀しいのは、中国人家族がいい人たちで。そこにBも気持ちが揺らぐのです。
正式に妻になるには、韓国に亡命して、韓国籍を取って、国際結婚をするしかないと。
そこでBは韓国に入り、北朝鮮から息子ふたりと夫も呼び寄せます。
ここでまた驚いたのは、家族団らんの中、北朝鮮の夫の前で、
Bは中国の夫とテレビ電話で堂々と話をしているのです。
「いつ帰ってくるんだ。まだ時間は掛かるのか?」。そんな会話をです。
「私を受け入れてくれた恩人を裏切れない」と語るB。
我々には考えられない生き方が、現実としてあるんですね。
自身がブローカーとして、脱北者の手助けをするようになったBの衝撃のドキュメンタリー映像。
他にも驚きの事実がいっぱいです。ご覧になってみて下さい。☆4つ。
「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.6.1

『生きとし生けるもの』☆☆☆
『花戦さ』☆☆☆☆☆
『武曲 MUKOKU』☆☆☆☆
『ローマ法王になる日まで』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


最近、作品評価に☆が多い気がします。
個人的嗜好とはいえ、いい作品が続々公開ということだと思います。
今週もそんな感じ。是非、映画館へ。お見逃しなく!
さ、今週は4本です!



「生きとし生けるもの」は、北海道を舞台にした大自然のドキュメンタリー。

旭川動物園の公式ポスターを長年手掛けてきた、
カメラマンの今津秀邦が5年の歳月を費やして制作した作品。
北海道の様々な地域で撮影され、最初と最後に“誘い人”津川雅彦のナレーションが入る。
それ以外にセリフはありません。
最後のクレジットに登場するのは、マガン、エゾナキウサギ、キタキツネ、タンチョウ、
エゾヒグマ、イトウ、クマゲラ、エゾユキウサギ、アオダイショウ、エゾシカ、そしてヒト。
ここが日本かと目を疑うかも。自分も大自然の一部になった感じでご覧あれ。☆3つ。
「生きとし生けるもの」公式サイト



『花戦さ』は、篠原哲雄監督の最新作。

時は1573年。織田信長の岐阜城に集まりし家臣たちの前に、昇り龍を思わせる巨大な松と、
菖蒲の花が生けられた見たこともないような“生け花”がありました。
生けたのは池坊専好という花僧。もし信長のお気に召さなければ、どんなお咎めが待つのやら。
すると信長は「見事なり!池坊!」。
そう言って、膝を扇で叩いた瞬間、松の枝がポキッ。
縁起でもない、この出来事を救ったのは、豊臣秀吉でした。
「さすが殿!扇ひとつで松の枝を落とすとは!」。
これが花僧・専好と後の天下人・秀吉との出会いでした。
それから10数年。秀吉の治世で世は安泰。しかし、秀吉のわがままが徐々に顔を覗かせます。
茶と花で交流のあった千利休を自死に追い込み、利休を支持する町衆をも粛清。
専好の友達たちも、その多くが犠牲となったのです。
専好は決意します。秀吉に対し、花で天下人を諫めんと…。

篠原哲雄監督とボクが中高の同級生であることは抜きにしても、本当に面白かったです!
池坊専好に野村萬斎、豊臣秀吉に市川猿之助、千利休に佐藤浩市。
他にも、中井貴一、佐々木蔵之介、高橋克実、吉田栄作、竹下景子などなど、役者陣も実に豪華。
以前、仲良しの歌舞伎役者の市川弘太郎くんから、
「歌舞伎の舞台に松が描かれているのを“松ばめ”と言います。
これは、題材を能か狂言から取った時に使うんです」と教えてもらいました。
野村萬斎は狂言、市川猿之助は歌舞伎。
そこで題材は松ですから、そこまで考えての配役なら深いなぁ…と。
篠原くんに聞いたら、このキャスティングはプロデューサーの意向だったそう。
プロデューサー氏の腹づもりが知りたいところです(笑)。
野村萬斎は狂言の役者だけあって、表情が実に豊か。見事なまでの表現です。
また篠原監督が、今回、目でモノを語らせるシーンが何度かあって。見どころのひとつだと思います。
実は、ひとりの少女が登場して、彼女の存在がきちんと“オチ”として使われたりもしています。
花の世界、恐るべしです(笑)。
ホント、つまらなかったらボクがチケット代を返却したいぐらい(笑)。
是非ご覧になって下さい!満点!☆5つ。
「花戦さ」公式サイト



『武曲 MUKOKU』は、綾野剛主演作。

厳格な警察官の父から、日本刀を向けられるような稽古で剣を学んでいた研吾。
高校の剣道部のコーチとして活躍していたのですが、今は酒浸りの毎日。
それには父親とのある事件が関わっていたのです。
今ドキ高校生の融が、同じ学校の剣道部員と揉め、剣で勝負をつけることに。
一部始終をそっと見ていた、師範で僧侶の光邑は、融の剣の素質を見抜くんですね。
イヤイヤながら、光邑のもとで剣を学ぶことになった融は、
光邑の使いで研吾の家に手紙を届けます。
昼間から酒に酔い、女と戯れる研吾。実は光邑は、研吾の師匠でもあったのです。
白紙の手紙に怒り、道場にやってきた研吾は、光邑の指示で融と剣を交えることに。
しかし、光邑の言葉通り、研吾は融に1本取られてしまうのでした…。

一言で“凄まじい”映画でした。
綾野剛の役者魂が“凄まじい”。
レオナルド・ディカプリオが『レヴェナント 蘇えりし者』で、念願のオスカーを穫った。
あの演技に匹敵すると言っても過言ではない、壮絶な演技なんですよ。
実は、父の頭に木刀を振り下ろし、父は意識不明の植物人間に。
それが研吾が堕ちていくきっかけ。
ラップのリリックを考えることぐらいしか楽しみがなかった融が、
命を賭けたヒリヒリ感を初めて味わう。
剣の魅力から抜けられなくなるといったお話なんですが、
ストーリー云々より、とにかく綾野剛です(笑)。ご覧になればわかります。☆4つ。
「武曲 MUKOKU」公式サイト



『ローマ法王になる日まで』は、アメリカ大陸出身で初のカトリック教会長になった、
第266代ローマ法王の半生を描いた映画。

1938年、イタリア移民の子として、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに生まれたベルゴリオ。
大学で化学を学んでいた20歳の時、神に仕えようと決め、
周りの説得を振り切ってイエズス会に入会。神の道を歩み始めます。
1976年にビデラ政権による軍事独裁政治がスタート。
反政府的行動を取れば、神父であろうと“失踪”となる暗黒時代。
ベルゴリオは仲間や市民を助けようと陰に日なたに奔走しますが、
多くの仲間を失い、もちろん自分の身にも危険が及びます。
それでも「僕が逆らえないのは良心の命令だけだ」と、
厳しすぎる現実の中を神と共に生きていったのです…。

2013年3月13日にローマ法王に就任。
それまでの過酷な半生を、綿密なリサーチをもって描いた作品です。
取材にあたり、グレゴリオを知っているという人々は、
ありもしないような“都市伝説”を語っていたそうで、
真偽を見極めるのが大変だったとのこと。確かに“奇跡”はつきものですからね。
キリスト教を信じる人にとって、神父さんは究極の“滅私奉公”なんだと思います。
でも、中には生臭いヤツもいて。「神様は見てるぞ」と言いたくなってしまいます(笑)。
逆もまた真なりで、やはりいい行いもまた、神様は見てるのでしょう。
だからこそ、アルゼンチンの片田舎で教えを説いていたグレゴリオが、
バチカンから呼ばれることになったのだと思います。
宗教的な話じゃなく、ボクらの日常においても大切なこと。
「誰もわかってくれない」じゃなくて、「きっと誰かが見てくれている」と思って
頑張ったほうがいいってことじゃないでしょうか。☆4つ。
「『ローマ法王になる日まで」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.5.25

『美しい星』☆☆☆
『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』☆☆☆☆☆
『光』☆☆☆☆☆
『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写の最中にあくびをする人がいて、それが声に出るあくびなんですよ。「ぐふあぁ〜」ってやつ。
その声で、一瞬にして映画の世界から、現実に引き戻されてしまいます。みんな、そうだと思いますよ。
自覚がないのかなぁ。やめて欲しいものです。
さ、今週は4本です!



『美しい星』は、三島由紀夫唯一のSF小説を原作に、舞台を現代に置き換えて映画化した作品。

気象予報士の大杉重一郎は53歳。夕方のニュース番組で人気のお天気キャスターです。
重一郎には妻・伊余子、息子の一雄、娘の暁子がいます。
ある日のこと、重一郎が愛人とドライブをしていると、
突然の閃光と金属音に襲われ、気付くと広い田んぼの中に。
超常現象に詳しいADによれば、UFOに連れ去られたのだと言うのです。
同じ頃、家族のみんなにも不思議な出来事が起こっていました。
その出来事がきっかけで、大杉家はみんなそれぞれが火星人、金星人、
水星人であることに目覚めたのです…。

重一郎はTVのニュース番組で、お天気そっちのけで、地球環境問題を話し出す。
その時に見せる変てこなポーズが話題となり、逆に人気が出る。
家族のそれぞれが、それぞれの星の使命に目覚めるのですが、
次第に疎ましがられて、大杉家の人々は孤立していってしまいます。
もちろん、この説明だけじゃ、何のことやら、まったくわからないと思います(笑)。
三島由紀夫がこの小説を発表したのは1962年。
人類は東西冷戦による、核戦争の危機に直面していました。
そんな時代の、世界への問題提起が、三島由紀夫のこの小説には描かれていたんですね。
ちょっと変わったSF映画。好きな人は、たまらなく好きだと思いますョ。☆3つ。
「美しい星」公式サイト



『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』は、
映画をこよなく愛した一組の夫婦のドキュメンタリー。

1920年生まれのハロルド・マイケルソンは、第2次世界大戦終戦後、
ハリウッドに渡り、イラストレーターとして働きます。
一方、フロリダの孤児院で育ったリリアンは、アメリカ映画協会の映画学校で学び、
友達のお兄さんだったハロルドと出会い、恋に落ちるんですね。
ところが、ハロルドの両親は、孤児だったリリアンとの交際に猛反対。
ふたりは駆け落ち同然の状態で、結婚生活を始めます。
ハロルドは、コロムビア、パラマウントといった大手の映画スタジオで絵コンテ作家として働き、
その才能が業界で話題となります。
リリアンは、子育てが一段落した後、映画のためのリサーチ図書館で働き、
映画リサーチャーとしての職に就きます。
ふたりのコンビが生み出した名シーンの数々。
「えっ?あの映画のあのシーンも、実はハロルドとリリアンの発案なの?」
なんていうのがたくさんあります。
そのせいか、監督たちは、ふたりの名前をあまりクレジットに入れたくなかった、なんてエピソードも(笑)。
それでもハロルドとリリアンの存在は、ハリウッド映画にとって欠かせないものであったことは間違いなく、
例えばドリームワークスのスピルバーグ監督は、ふたりに尊敬と感謝の意を表し、
『シュレック2』の、国王と王妃の名を“ハロルド国王とリリアン王妃”にしたんですね。
これには試写の会場内からも、「お〜」と声が上がっていました。
愛するパートナーと、大好きな仕事を共に出来る幸せ。
理想の夫婦像だと思います。満点!☆5つ!
「ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー」公式サイト



『光』は、河瀬直美監督最新作。

ずっと生き甲斐を見つけられずにいた美佐子でしたが、
視覚障がい者のために映画を言葉で表現する“音声ガイド”の資格を取ろうと頑張っていました。
視覚障がい者の皆さんからアドバイスをもらって、
1本の映画を何度も何度もやり直し、言葉を考える毎日。
その中に、弱視の天才カメラマン、雅哉がいました。
雅哉は美佐子に対し、歯に衣着せず、ものを言う。
美佐子もキレて、言ってはいけない言葉をぶつけてしまう。
美佐子はチームリーダーの女性にたしなめられ、雅哉が撮った写真集を渡されるんですね。
そこに写っていた夕日の写真があまりに美しくて、
いつかそこに連れて行って欲しいと美佐子は雅哉にお願いをします。
徐々に徐々に、ふたりの間は近づいていきます。
しかし、同時に、雅哉の視力は落ち、ついに失明の時を迎えたのでした…。

カメラマンにとって、命と同じぐらい大切な視力を失うことになった雅哉。
でも、強い。本当に強い。
雅哉にとっての“光”は、ボクにとっては“声”かも。
強くいられたのは、もしかしたら、同じくらい大切なものを手に入れられたからかもしれません。
美佐子も強い。光を失う雅哉を支えようと心に決めるのですから。
雅哉に永瀬正敏、美佐子に水崎綾女。
河瀬直美監督の感性の鋭さが出た、素晴らしい作品だと思います。満点!☆5つ!
「光」公式サイト



『ママは日本へ嫁に行っちゃダメだと言うけれど。』は、実話に基づいたラブ・ストーリー。

2011年、未曾有の大災害となった東日本大震災に襲われた日本。
Facebookにひとりの台湾人女性から「頑張れ!日本!」のメッセージが入り、
それに「ありがとう!台湾!」と答えた日本人男性がひとり。
これがリンちゃんとモギさんとの出会いでした。
リンちゃんは大学で日本語を勉強していて、モギさんとメールのやり取りをする中で、
リンちゃんが案内をしてくれるというので、モギさんは友人たちと台湾に行くことに。
リンちゃんの明るいガイドで、初めての台湾を楽しむモギさんたち。
そんな中、ふたりの間にはほのかな恋心が。日本と台湾。遠距離恋愛のスタートです…。

ジエン・マンシュー扮する、リンちゃんがメチャメチャ可愛いっ。
タイトルにもあるように、ふたりの交際は一筋縄ではいかなくて。
でも、ママだけじゃない。離れているが故の誤解もあったりする。
それでも、メールのやり取り、電話、直接の訪台などで、互いの仲を深めていくんですね。
なんか、恋愛の始まりの時のくちゅくちゅ〜っとした気持ちが(わかります?)詰まってて、
50オヤジの言うセリフじゃないけれど、いやぁ恋がしたくなりました(笑)。
正直、ちょっと中だるみ感もなくはないけど、リンちゃんの可愛らしさで許しちゃう(笑)。☆4つ。
「ママは日本へ嫁に行っちゃダメだと言うけれど。」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.5.18

『あの日、兄貴が灯した光』☆☆☆
『たたら侍』☆☆
『夜明け告げるルーのうた』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写を見る前に食事をするかしないか、結構迷うことがあって。
小腹が空いた時、食べないで我慢すると、上映中にお腹がぐぅ〜と鳴る。
でも、食べちゃうと眠くなったりもする。
ガチャガチャ賑やかな映画ならいいけど、静かな作品でお腹が鳴ると困るんですよねぇ(笑)。
スティックとかの小腹満たし用のものを鞄に忍ばせておく必要があるのかなぁと思いつつ、
それで1食減らすのはもったいないし。食いしん坊としては、悩むところです(笑)。
さ、今週は3本です!


『あの日、兄貴が灯した光』は、韓国映画。

柔道の韓国代表として活躍していたドゥヨン。
ところが、試合中の事故で神経を損傷。失明してしまうんですね。
ドゥヨンは早くに両親を亡くしていて、縁切り同然の異母兄弟の兄ドゥシクがいるんですが、
そのドゥシクは詐欺で服役中。
ドゥシクは弟の事故を塀の中で知り、弟の介護を理由に、仮釈放を申し出ます。
面談で流した涙は、もちろん芝居。ドゥシクは仮釈放を勝ち得ます。
久々に家に帰ると、カーテンは閉めっぱなし。
床にはゴミが散らばり、ドゥヨンは食事もほとんど取らず、部屋に引きこもり状態。
久々の再会にもかかわらず、2人はいきなりぶつかりますが、
家にいることが条件で認められた仮釈放。
ドゥシクはドゥヨンの食事の面倒を見るなど、最低限のことはするようになります。
トラブルだらけの生活でも、時間を共有することで、互いの誤解も徐々に解け始めていたある日、
今度はドゥシクに思わぬ悲劇が起こるのでした…。

韓国映画らしい韓国映画です。
儒教の国ですから、年上は敬うというのが、日本以上にあるんでしょうね。
ドゥシクは悪い兄ですが、芯から腐った人間ではないところに救いがある。
見る側にも感情移入の余地が残されているって感じ。
ドゥヨンにパラリンピック出場という目標が出来、みんな一丸となるのですが、
そんな時に今度はドゥシクに、ねぇ。
定番ですが、泣けますよ。それもまた、いかにも韓国映画。ハンカチをお忘れなく。☆3つ。
「あの日、兄貴が灯した光」公式サイト



『たたら侍』は、EXILEのHIROがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた作品。

1000年錆びない鉄を作る幻の村が、出雲の山奥にありました。
その技術は“たたら吹き”と呼ばれ、一子相伝、門外不出。
名刀を作るためにと、多くの商人たちがその鋼を手に入れたがっていたのです。
たたらの技を次に継ぐのは、若い伍
介。鋼を狙う悪者に村が襲われる度に、「強くなりたい」と思っていた伍介。
村に来た惣兵衛という商人から「農民でも侍になれる時代がやってきた」と聞き、
「俺は侍になる」と掟を破って伍介は村を出るんですね。
惣兵衛に紹介された大商人の与平の口利きにより、
織田軍に仕えることになった伍介でしたが、戦場は怖ろしく、
無惨な死を間近で見て、村へと舞い戻ったのでした。
しばらくして、村に与平がやってきます。
与平は、村を守るには日本刀ではなく鉄砲を作ることだと主張。
確かに戦場でそんな光景を見ていた伍介は、周りの反対を押し切り、
与平の言うがままに、鉄砲作りを始めるんですね。
これが与平の策略だとは、知るよしもなかったのです…。

EXILEファミリーが出演する時代劇。海外でも評価が高かったと報じられてましたよね。
伍介は愚直なほどに真っ直ぐで、村を思えばこその行動が裏目に出る。
与平は村の用心棒にと子飼いの傭兵を入れ、村の景色が一変します。
“たたら吹き”を我がものにしようと画策していた与平は、反対勢力を粛清。
結果、伍介の親友も命を落とし、伍介はようやく自分の過ちに気付きます。
そこから村を守るための戦いが始まるというストーリー。
出雲のロケ地も美しく、HIROが見せたかったという日本人の心、
日本の美は描けていたかもしれません。
ただ、この手の映画が陥りがちなところに、残念ながら陥ってしまったかなと。
それは、伝統芸能などを折り込んでくること。
その“古き良き”が、意外や映画を退屈なものにしてしまうんです。
誤解のないように。伝統芸能を愚弄してるんじゃないんです。
映画の味付けとして用いると、狙っていた味とは別ものになってしまう可能性がある、
実は扱いの難しいスパイスだということなんです。
ボクには120分が長く感じてしまいました。削ぎ落とせる部分があったんじゃないかなと。
話題作なので、敢えて評価は厳しくさせてもらいます。☆2つ。
「たたら侍」公式サイト



『夜明け告げるルーのうた』は、アニメ映画。

男子中学生のカイ。
以前は東京に住んでいたのですが、両親が離婚。
父と祖父との3人で、故郷の漁港の町・日無町に暮らしていました。
周囲にあまり心を開かずにいたカイの唯一の楽しみは、自分で作曲し、
演奏した曲をインターネットのサイトにUPすること。
すると、その曲を聞いたクラスメートの国男と遊歩から
自分たちがやっているバンドに入らないかと誘われるんですね。
大きな音を出せるのは、港から舟でちょっと行った人魚島。
そこで3人が演奏を始めると、なんと人魚の少女ルーが現れ、
楽しそうに歌って踊り始めたのです。
海に面したカイの家の近くにまでやって来るようになったルー。
その無邪気な姿に、閉ざしていた心を開き始めたカイでしたが、
昔から日無町では、人魚は災いをもたらす存在だとされていました。
ルーの存在が明らかになると、町は大騒ぎになってしまったのです…。

ルーは日に当たると燃えてしまうので、行動は日没から夜明けまでに限られ、
音楽が大好きで、聴くと足が生えて躍り出す、天真爛漫な少女の人魚。
ルーはカイのことが大好きで、それを素直に口に出して言うのですが、
カイは両親の離婚が原因で、別れが怖くて、人を好きになることを自ら辞めていたんですね。
そんなカイがルーとの交流の中で、自分の思いをちゃんと口に出して言えるようになるという。
周りと違うことを言ったら、仲間ハズレにされてしまうような社会の風潮の中、
ちゃんと思ってることを口にしようというメッセージも込められているようです。
テーマソングは、斉藤和義の「歌うたいのバラッド」。なるほど、ハマリです!☆3つ。
「夜明け告げるルーのうた」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.5.12

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』☆☆☆☆
『サクラダリセット 後篇』☆☆☆☆
『パーソナル・ショッパー』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


GWも終わり、いつもの生活が戻ってきました。
ここからは、そうそう連休とはいかないでしょうから、心の休息は映画で取られてはいかがですか?
さ、今週は3本です!


『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、
最果タヒ(さいはて たひ)の詩集を原作にした映画。

日雇い労働者として工事現場で働く若い男性、慎二。慎二の左目には視力がありません。
仕事終わりに、仲間たちと飲みに行ったガールズバーで働いていたのが美香。
美香は看護師をしながら、夜のアルバイトもしていて、
慎二の同僚の智之が連絡先を交換していたのですが、その智之が突然倒れ、死亡。
葬儀に来た美香と慎二が再会します。
ある日のこと、工事現場で足にケガを負ってしまった慎二が運ばれた病院で美香が働いていて、
ふたりはまたもやバッタリ。
ぎこちないやり取りからメールアドレスを交換して、ふたりの物語は始まったのです…。

大都会・東京を舞台に、生きることが決して上手くはないふたりが出会い、
不器用に気持ちをぶつけ合いながら、互いを理解し、必要としていく物語。
原作が詩集というのはどういうことかというと、最果タヒの同名の詩集を、
「舟を編む」などの作品で知られる石井裕也監督が読み込み、そこからストーリーを作成。
映画化したものなんですね。
最果さんは「不器用にしか、下手くそにしか“今”を生きることができない人たちに、
届く詩が書きたいと思っていた」と。
それが映画という形に変わって表現された、新しいパターンの作品かもしれません。
ボクがよくブログに書く、スマホ支配の世の中への疑問とか、
同じことを感じている人がいるんだなということを再確認できたのも、
個人的にはうれしかったです(笑)。
確かに、泣けたり、スカッとしたりするタイプの映画ではないかもしれません。
でも、この映画を見て、最果さんの詩集を読んでみたいと思う人、きっと多いと思いますョ。☆4つ。
「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」公式サイト



『サクラダリセット 後篇』は、3月25日に公開となった前篇に続く、二部作の完結編。

特殊能力を持つ人々が暮らす街“咲良田”。
その能力は街の公的機関である“管理局”によって監視され、制御されていて、
芦原橋高校の奉仕クラブには“記憶保持”の能力を持つ浅井ケイや、
世界を最大3日巻き戻せる“リセット”の能力を持つ春埼美空などが所属していました。
ところが、今まで平穏だった咲良田市で能力が暴発。
管理局の対策室室長の浦池はすべての能力を一掃する計画に出ます。
それが“サクラダリセット”でした。
計画は進み、咲良田のことを覚えているのはケイひとり。
しかし、ケイはこの能力こそが大事な人を救う大切なものだと信じ、
元の咲良田に戻そうと、仲間たちと力を合わせるのでした…。

前篇のあらすじを知りたい方は、このコラムをさかのぼって読んでみて下さい。
あの時も書いたように、ややもすれば矛盾だらけになりそうな話を、
実に上手く組み立てた河野裕の原作も、時間の限られた映画という枠の中に、
これだけの“複雑”を描き切った深川栄洋監督の脚本も、どちらも素晴らしい才能だなと思います。
前篇を見た人は、後篇の公開が待ち遠しかったんじゃないですか?
後篇では、なぜ咲良田の街が出来ていったのか、そのルーツも明かされていきます。お楽しみに。☆4つ。
「サクラダリセット 後篇」公式サイト



『パーソナル・ショッパー』は、ファッショナブルに展開する心理ミステリー。

モウリーンの仕事は“パーソナル・ショッパー”。
忙しいセレブに代わって、高級ブランドの服やアクセサリーを買い付け、
合鍵を持って顧客の家の中まで届けるというもの。
実はモウリーン、つい先日、双子の兄を亡くしていて、その喪失感から立ち直れずにいたんですね。
2人は「どちらかが先に死んだら、必ずあの世からサインを送る」と約束をしていて、
兄からのサインを心待ちにしている状態。
そんなモウリーンのクライアントが、キーラという世界中を飛び回るセレブ女性。
自分勝手なキーラに振り回されるモウリーンでしたが、
一番のストレスは試着を禁じられていることでした。
すると、モウリーンの携帯に、差出人のわからないメッセージが届きます。
まるで彼女の一部始終を監視しているかの内容に、
兄からのサインかと 尋ねるのですが、はぐらかされてしまいます。
そのメッセージに誘導されていくモウリーンは、禁を破り、キーラの家で服を試着。
すると、高価な服を着て、別人になりたいという欲望に火がついてしまうんですね。
その行動が、とんでもない事件の引き金になったのです…。

フランス映画です。
題材が題材ですから、すごくファッショナブル。
この華やかなセレブ感の対極にあるものが、密かにフツフツと沸き立っているわけですよね。
心理サスペンスで、ホラー的要素もあり、何がどうなるんだろうというハラハラ感は、
最後まで飽きさせることはありませんでした。
心霊現象まで加わる“ごった煮”感が揶揄されることもあるそうですが、
個人的にはそうは思わなかったかな。
あなたがどう感じるかは、劇場で確かめてみて下さい。☆3つ。
「パーソナル・ショッパー」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.5.6

『カフェ・ソサエティ』☆☆☆
『八重子のハミング』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


5月になりました。
4月末までに見た試写の数は53本。
仮にこのペースなら、年間159本。
積極的に足を運んで、皆さんにいい情報をお届けできればと思っています。
さ、今週は2本です!


『カフェ・ソサエティ』は、ウディ・アレン監督最新作。

1930年代のアメリカ。
NYのブロンクスに生まれ育ったユダヤ人青年のボビーは、
映画界で大成功を収めた叔父のフィルを頼ってハリウッドへ。
仕事を紹介して欲しいと頼んだところ、雑用ながら世話をしてくれました。
その際にハリウッドの案内役として付けてくれたのが、秘書のヴォニーでした。
ボビーは、美人で頭の良いヴォニーに恋をしてしまいます。
ところが、ヴォニーは妻子持ちのフィルの愛人だったのです。
そうとは知らないボビーは猛アタック。ヴォニーもフィルとは結ばれないならと、
ボビーからのプロポーズを受けようかというところで、フィルが妻との離婚を決意。
ヴォニーはフィルの元に戻ってしまったのです。
失意の中、ハリウッドを離れ、ブロンクスに戻ったボビーは、
兄の経営する地元のナイトクラブで働き始めます。 するとメキメキと才能が開花。店は大盛況となるんですね。
ボビーも別の女性と結婚。幸せな日々を送っていたのですが、
そこにハリウッドからフィルとヴォニーが来店します。
そう、ボビーはヴォニーとの過去を忘れてはいなかったのでした…。

いかにもウディ・アレンだなという作品です。
トーンも、ストーリーも、セリフのひとつひとつも。
これだけ個性が出せるって、やっぱり凄いクリエーターなんだなぁと思ってしまいます。
この映画のためにシャネルが衣装を提供。
タイトルのようなハイソな世界に、自分も登場人物のひとりになったかのように入り込めるかも。
そんな意味では、映画のチケット代は案外と安いかもしれませんョ。☆3つ。
「カフェ・ソサエティ」公式サイト



『八重子のハミング』は、実話に基づく夫婦の愛の物語。

山口県萩市の学校で教師をしていた誠吾と八重子。ふたりは仲のいい夫婦。
誠吾は町の金谷天満宮の21代目宮司も務めていました。
ところが、夫の誠吾にガンが見つかります。
手術は成功したのですが、病室で誠吾の世話をする八重子の様子がおかしい。
実は、八重子に認知症の症状が出始めていたのです。
その後、誠吾のガンは再発を繰り返し、計4度もガンの手術をします。
八重子の心が病んだのは、もしかしたら自分のせいかもしれない。
ガンを克服した誠吾は、献身的に八重子の面倒を見るのでした…。

現代版「智恵子抄」とも言われる、短歌集「八重子のハミング」。
この陽信孝の原作を映画化。
全編、山口県萩市でロケをした作品です。
陽さんが数多くの講演会に呼ばれると、八重子さんが元気なうちは、
一緒に同席させたそうです。劇中にもありますが、そこで語られる生々しい話。
それが現実なんですよね。それでも、そこには人間の尊厳を訴えかける意味もあったとか。
陽さんは、八重子さんを本当に愛していたのです。
難しいテーマです。でも現実問題でもあります。☆3つ。
「八重子のハミング」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.4.27

『僕とカミンスキーの旅』☆☆☆
『まるでいつもの夜みたいに』(☆は無し)
『笑う招き猫』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週末からGWですね。もう予定は決まりましたか?
どこに行っても混んでるなら、映画館がいいかも。
さ、今週は3本です!


『僕とカミンスキーの旅』は、『グッバイ、レーニン!』の監督と
主演が12年振りにコンビを組んだ作品。

無名の美術評論家ながら野心だけはある、31歳のセバスティアン。
彼が最後の賭けに出た取材対象が、85歳の盲目の画家カミンスキーでした。
表舞台から突如姿を消した伝説の画家の、伝記を書こうとしていたのです。
カミンスキーはスイスの山奥に暮らしていたのですが、セバスティアンはその家を訪問。
図々しくもホームパーティに参加するなどして、
何とかカミンスキーのお近づきになろうとするんですね。
セバスティアンには、唯一の激熱ネタがありました。
それは、カミンスキーが生涯で最も愛した女性、テレーゼの消息です。
「テレーゼは今も生きています。住所も知ってます」。
その言葉に、狙い通り、カミンスキーが反応。
セバスティアンの運転する車に乗り込み、男2人の奇妙な旅が始まったのでした…。

うさん臭い美術評論家と、盲目の画家。31歳と85歳の男2人のロードムービーです。
そんな旅ですから、道中いろんなことが起こります。
本当にカミンスキーの目は見えないのか?そんな疑念まで出てきて、
自由奔放な老人の振る舞いに腹を立てるセバスティアンも、
いつしかふたりの間に友情めいた感情が芽生えるんですね。
03年の『グッバイ、レーニン!』も、
東西ドイツの統合にショックを受けるであろう病床の母を守るために、
息子が優しい嘘をつくというものでしたが、この『僕とカミンスキーの旅』も嘘がいっぱい(笑)。
でも、それがなぜか温かく感じるのが、ヴォルフガング・ベッカー監督の味なんでしょうね。
虚も実も、その人にとって実なら、嘘も真実なのかもしれません。☆3つ。
「僕とカミンスキーの旅」公式サイト



『まるでいつもの夜みたいに』は、
05年に亡くなったフォークシンガー高田渡の東京でのラストライブを映画化したもの。

1949年生まれの高田渡は、68年に発表した「自衛隊に入ろう」で注目を集めます。
2004年に公開された映画『タカダワタル的』のヒットで、
若い世代にも支持されるようになった05年、カメラは3月27日(日)に、
高円寺の居酒屋でライブを行う彼に密着します。
アパートを出て、三鷹駅へ。電車に揺られて高円寺へ。
店に着くと、ギター1本で弾き語り、ボソボソっとしゃべる。
客席は満席で立ち見も出るほど。
曲間のトークでは、まるで自分の数日後を予感していたかのように、
死生観に関する話もちらほら。
このライブから約3週間後、
北海道でのツアー中に倒れた高田渡は帰らぬ人となってしまったのです。
享年56歳。
高田渡を知らない人も、時代を作った先達の姿を見て知っておくのもいいかと思います。
面白いとか、そういう評価は当てはまらないので、☆は控えておきます。
「まるでいつもの夜みたいに」公式サイト



『笑う招き猫』は、青春ガールズ・ムービー。

大学時代の同級生で組んだ女性漫才コンビ“アカコとヒトミ”は、
芸歴5年の売れないお笑い芸人。
アカコはお金持ちのお嬢さま。
ヒトミはお弁当屋さんでバイトをしながらの活動でしたが、
事務所の定期ライブぐらいしか仕事がなく、何度もぶつかっては、
罵り合い、「辞めてやるっ」と大喧嘩。
それでもすぐによりを戻してはまた漫才をやるという、腐れ縁のようなふたりだったのです。
最近売れっ子になった事務所の先輩男性漫才コンビ『きんぴら』からセクハラを受け、
舞台袖で先輩を殴り、ライブを台無しにしてしまったアカコとヒトミは、
社長から大目玉を食らうかと思いきや、
その度胸の良さを買われ、TV出演のチャンスをもらうんですね。
それから順風満帆に行くかと思われた、アカコとヒトミでしたが、
お笑いの世界はそう甘くはなかったのです…。

アカコに松井玲奈、ヒトミに清水富美加。
清水富美加の騒動で、一時はお蔵入りかと心配された作品が、無事公開となりました。
彼女たちの周りにはいろんな人がいて、アカコとヒトミは彼らに関わり、
人生の機微を知る。そしてそれが漫才の味になっていく。
徐々に力を付けていくふたりが、最後に漫才を披露するのですが、
これ、カメラはノンストップの長回し。上手いんですよ、漫才。惜しいなぁ、清水富美加…。
それはそれとして(笑)、映画は本当に面白かったです。
すべてのセリフがストンと入ってくる感じ。
映画によくある日常とは何か違う、違和感のある言い回しみたいなのがない。
これは飯塚健監督のセンス、手腕だと思います。
頑張った出演者や制作陣にとっても、公開になって本当によかったと思います。☆4つ。
「笑う招き猫」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.4.20

『美女と野獣』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


松竹の試写室で行われる試写を見に行くのに、間違えて東映の試写室に行ってしまいました。
その2つの会場はそんなに遠くないので、急げば間に合う。
ハアハア言いながら、小走りで築地方面へ。こうなると暑さがキツい(笑)。
思い込みなんですョ。確認すればいいのにね。
さ、今週は1本です!



『美女と野獣』は、ディズニーの人気アニメの実写化。

ある城に住む、若く美しい王子。しかし、彼は傲慢で、思いやりに欠けていたのです。
嵐の夜、晩餐会を遮るように老婆が迷い込みます。
「寒さをしのがせて下さったら、一輪のバラを差し上げましょう」。
しかし、王子は鼻で笑って、老婆の申し出を断るんですね。
すると老婆は魔女となり、すべての者に呪いをかけてしまいます。
その結果、王子は恐ろしい野獣の姿に。
魔法のバラの花びらがすべて落ちる前に、真の愛を知れば元に戻れるのですが、
できなければ今の姿のまま。
そんな時、城に迷い込んだ父親を探しに、ひとりの村娘がやってきます。
彼女は呪いを解く女性になり得るのか?
調度品に姿を変えた元使用人たちは、期待に胸を膨らませるのですが…。

多くの人が知っているストーリー。
ディズニーアニメで有名な作品の完全実写化ですから、ストーリー云々より、
スクリーンに映し出される映像がどんなものか。そちらに関心がいくと思います。
そこはさすがにディズニー(笑)。
斬新さを求めるものでもないとは思いますが、きちんと高値安定。
期待は裏切らないと思いますョ。
ヒロインのエマ・ワトソンといえば、『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー。
彼女も大人になりました(笑)。☆4つ。
「美女と野獣」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.4.14

『パージ:大統領令』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写会では、空いていれば列の一番端に座るのですが、奥に入ろうとする人は、
大抵の人が「すみません」と一言声を掛けてボクの前を通ります。
ボクも「どうぞ」と言って、膝を折って身体を縮め、通りやすくするのですが、
たまにいるんですよね。何にも言わない人。
だいたいそういう人は、ボクの左脚を蹴って行く。
ま、故意じゃないんですが、ぶつかって行く。で、謝りもしない。
そんな時は、小さく「チッ」と言うことにしてます。
もちろん、「すみません」と言われれば舌打ちなんてしないんですよ。
いつも言うことですが、人として基本的マナー のなってないヤツに、
「感動の名作!」なんて言ってもらいたくないですよね。
さ、今週は1本です!



『パージ:大統領令』は、シリーズ3作目。

2025年のアメリカ。
政府は年間犯罪率を1%以下にとどめるため、年に一度“パージ”という12時間を設定。
この間は、殺人も窃盗も何でもあり。“パージ”を体験したいと、海外からの旅行者もいるほどでした。
政治を我がものにしているのはNFFA。
次期大統領選を直前に、対抗馬として力をつけてきたのがローン上院議員。
自分の家族を“パージ”で失った彼女は、“パージ”の廃止を訴え、国民の支持を集めていたのです。
「自分だけ逃げるわけには行かない」と、要塞に隠れることなく、自宅で12時間を過ごすと決めたローン。
護衛をいつも以上に付け、万全の体制をしいていたのですが、なんとその中に裏切り者が。
NFFAが送り込んだ傭兵が、ローンの家の中へとなだれ込みます。
ローンはこの危機から脱出することが出来るのでしょうか…。

特殊な舞台設定(笑)。まずもってあり得ないのですが、アメリカでは過激な発言をする大統領の誕生で、
多少のリアリティが生まれたのかもしれませんね。
ローンを護衛する中に、レオという、自らの命を顧みず、彼女を守ろうとするボディガードがいます。
それとは別に、パンと雑貨の店を営む、タフで心優しき黒人男性のジョーの物語も。
彼は急に高騰した“パージ”の保険料が払えず、自らの手で店を守ろうとするんですね。
ローンとレオ、そしてジョーと仲間たちが、
偶然、合流することに。ストーリーはそこから佳境に入っていきます。
“多少のリアリティが生まれた”とは言いましたが、やっぱり設定には無理があるわけで。
「じゃ、これはどうなってるのさ」みたいな部分を突っ込み始めると矛盾は山ほど出てきちゃう(笑)。
“カオス(混沌)の映画”とのことですが、カオスはカオスらしく、
カオスのままで楽しめということでしょうかね。☆3つ。
「パージ:大統領令」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.3.31

『第3の愛』☆☆☆
『はじまりへの旅』☆☆☆☆
『ムーンライト』☆☆☆
『レゴバットマン ザ・ムービー』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週末から4月。新年度のスタートです。
個人的にも、新しいことをスタートさせようと意気込んでます。
いつも言うことですが、映画で感性を刺激して、それを実生活にも結び付けたいところですねっ。
さ、今週は4本です!


『第3の愛』は、『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督作品。

チージョンは、大財閥の若社長。
飛行機の中で、号泣していた隣りの女性にティッシュを差し出すのですが、彼女が後日、
労災の問題で再会する弁護士だとは知る由もありませんでした。
彼女の名前はユー。その後、チージョンとの中は急接近。
しかし、チージョンの会社に勤めるユーの妹がチージョンに思いを寄せていたり、
チージョンには父親が決めた婚約者がいたりと、ふたりの間には、
越えなくてはならないいくつもの高いハードルがあったのです。
果たして、ふたりの恋の行方は…。

タイトルが何を意味するのか?まず気になりませんか?
もちろん見ればわかるのですが、幸せな恋の結末って何なのか、そのあたりを考えさせられるかも。
ありきたりのハッピーエンドを期待すると、もしかすると食い足りないかもしれません。
これを「大人だなぁ」と割り切るのなら、ボクはいつまでも子供でいたいと思っちゃいました(笑)。☆3つ。
「第3の愛」公式サイト



『はじまりへの旅』は、全米わずか4館での公開からロングランヒットになった作品。

現代の文明社会を否定し、アメリカ北西部の森林の中で暮らす、父と6人の子供たち。
上は18歳から下は7歳までの兄弟姉妹が、自給自足のサバイバル生活を送る一方で、
父ベンの熱血指導により、勉強や哲学の知識まで身に付けていたのです。
ところが、麓の雑貨店で、ここ数年入院生活を送っていた妻の死を知るんですね。
妻の両親はベンのことを嫌っていて、娘の不幸はベンのせいだと、縁を切っていたのです。
母の死を知り、泣き叫ぶ子供たち。
「来たら警察を呼ぶ」と言われていたベンですが、子供たちを連れ、
スティーブと名付けたワゴンバスに乗り込み、妻の実家のあるニューメキシコへと向かったのでした…。

ベンたち家族は社会への適応力という意味では皆無に等しく、途中、様々な出来事に出くわします。
妻はベンと子供を愛していて、ベンも妻をものすごく思っている。
妻の両親も娘はもちろん、孫たちがホントは可愛くて仕方ない。
それぞれの思いが、噛み合いそうで噛み合わないのは、ベンの生活スタイルがあまりに奇抜だから。
本当はこれとて考えがあってのことなんですけどね。
タイトルにもあるように、本音でぶつかって“はじまる”ものがある。
確かに、たったの4館から広がっていった理由がわかるような
、一風変わってはいるけれど、ストンと収まるところに収まる映画。
よく出来ていると思います。☆4つ。
「はじまりへの旅」公式サイト



『ムーンライト』は、第89回アカデミー賞の作品賞受賞作。

貧しいシングルマザーのポーラと暮らす、少年シャロン。
学校では“リトル”と呼ばれていじめられていました。
いつものようにいじめっ子たちに追いかけられ、廃虚に逃げ込んだところを、
麻薬ディーラーのフアンに助けられます。
その後も何かと気に掛けてくれるフアンに対し、父親のいないシャロンは、徐々に心を開いていくんですね。
シャロンには唯一、友達と呼べるクラスメイトがいました。彼の名はケヴィン。
高校生になっても友情は続きますが、その一方で、いじめもまだ続いていたのです。
ある晩のこと、夜の浜辺で落ち込んでいたシャロンの所に、ケヴィンがやってきます。
砂浜に座るふたり。友情以上の感情が、ふたりの間に芽生えた瞬間でした。
しかし翌日、ある事件が起き、ふたりの関係は大きく変わってしまいます。
それがきっかけとなり、シャロン自身もまるで別人のようになっていくんですね。
体を鍛え上げ、金歯をはめ、高級車に乗る。
そう、亡くなったフアンと同じ、麻薬ディーラーとして成り上がっていったのです。
ある日のこと、シャロンの携帯が鳴ります。
高校生の時以来、互いに音信不通になっていたケヴィンからの電話でした…。

この春の話題作。アカデミー賞を取る前から、試写もメチャメチャ混んでました。
“居場所探し”の映画。
アフリカン・ブラックの体に、色を足して加工した映像美も話題で、
青光りした鋼のようなシャロンの肉体や顔が、確かに印象的でもあります。
試写終わりで、女性客のひとりが、プロモーターさんに「すっごい感動した」と伝えていました。
これも素直な感想だと思います。ただ、ボクはちょっと…。
「人種も性も関係なく、人としての大切なものが描かれていて…」とその女性。
確かにおっしゃる通り。これがピンと来るかどうかは、
やっぱり個人の感性や嗜好によって全然違うと思うんですよね。
あとは、トランプ政権になった今のアメリカに、一石を投じるような作品かも。
是非、ご覧になってみて下さい。
おそらくボクの言っている意味が、もしかするとわかってもらえるかと思います。☆3つ。
「ムーンライト」公式サイト



『レゴバットマン ザ・ムービー』は、レゴで作られたバットマンの映画。

レゴバットマンは悪の手から街を守る、大人気のヒーロー。
チヤホヤされるのが大好きな“オレさまキャラ”なんですが、その反面、
広い豪邸でひとりでディナーを食べ、
大きなホームシアターでひとりで映画を見るという、孤独な一面も。
そんな時、バットマンに「ジョーカーはバットマンの最大の敵」
と認めさせたくて仕方のないジョーカーが、大仕掛けの犯罪でちょっかいを出してきます。
ロビンやバットガールを始めとするバットマンの仲間と、
有名な悪キャラたちが手を組んだジョーカーの一味が、世紀の対決!
果たして世界の平和は守られるのでしょうか…。

2014年に映画化された『LEGOムービー』の中で、
すごく人気の高かったレゴバットマンを主役にした1本。
“お遊び”の映画ですから(笑)、難しいことは考えずに、手放しで見ればいいと思います。
ただ、レゴって、ものすごいファンがいるんですよね。
ここまで大規模にレゴで遊んでもらえるなんて、悶絶ものなんじゃないですか?
公開日の4月1日に、名古屋にレゴランドジャパンがオープン。
一気に“レゴ熱”が高まるかどうか、注目です。☆3つ。
「レゴバットマン ザ・ムービー」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.3.23

『サクラダリセット 前篇』☆☆☆☆
『未来よ こんにちは』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


環境が変わる3月、4月。悩みや迷いが生まれる時期でもあります。
映画には人生のヒントがあったりしますョ。このコラムをさかのぼって、
今の自分に刺さりそうな作品を探して、劇場に足を運んだり、DVDを見てみてはいかがですか?
さ、今週は2本です!



『サクラダリセット 前篇』は、河野 裕原作の大人気ライトノベル
「サクラダリセット」シリーズの映画化。前、後篇の前篇。

日本の片隅にある、太平洋に面した小さな街“咲良田”。
実は、住人の半数が特殊な能力の持ち主なんですね。
この街にある芦原橋高校 に通う、浅井ケイと春埼美空もやはり特殊能力を持っています。
ケイは見たことや聞いたことを完全に思い出せる“記憶保持”を、
春埼は世界を最大で3日分巻き戻せる“リセット”という能力を持っていました。
春埼が“リセット”を使うと、自分の記憶も巻き戻ってしまうのですが、
ケイの“記憶保持”はその影響を受けないため、ふたりが一緒にいれば、世界を最大3日やり直せます。
これらの能力は市の外に出ると忘れてしまうので、咲良田の特殊性が他の人たちに知られることはなく、
また公的機関である管理局に管理されているため、大きなトラブルも起きずにきたのです。
「泣いている人がいたら、その時“リセット”を使います」と語る春埼でしたが、
2年前、ある事件が起こります。ふたりが“リセット”を使った影響で、
命を落とさなくてもよかったクラスメートの相麻 菫が、亡くなってしまったのです。
「なんとか相麻をよみがえらせたい」。それがケイと春埼の願いだったのです…。

さわりもさわり。本当に入り口だけにしておきます。
というか、うまく説明しろと言われても出来ないと思います(笑)。
浅井ケイや春埼美空の他にも、様々な特殊能力を持つクラスメートや大人がたくさんいて、
そこには何やら陰謀らしきも渦巻いている。
ケイの仲間たちは、それぞれの力を駆使しながら、繋がり合って、事を成し遂げていき、
そして遂に相麻 菫がよみがえる。
しかし、相麻の口から驚くべき真実が告げられる。ここまでが前篇です。
人物相関図も能力相関図も、まずもって原作者の河野 裕という人の頭の中がすごい。
さらにこれを映画化した深川栄洋監督がすごい。深川監督、脚本も書いてます。
この複雑な登場人物たちの関係性を、わかりやすく描いたこの両名の才能はすごいっ。
実は、前篇の試写の日、
「急遽、続けて後篇も試写上映することになりました。お時間のある方は是非」と言われ、
迷わず後篇を続けて見させてもらいました。
面白かったですョ。☆4つ。
「サクラダリセット 前篇」公式サイト



『未来よ こんにちは』は、フランスを代表する女優イザベル・ユペール主演作。

ナタリーは、パリの高校で哲学を教える50代の女性教師。
夫と、2人の子供がいましたが、子供たちは独立し、今は同じ哲学教師の夫と2人暮らし。
ごくごく普通の生活を送っていたのですが、そんなナタリーに思わぬ出来事が次々と起こります。
真面目なはずの夫から、結婚25年目にして「好きな人ができた」と告げられたこと。
近くに住む母親の認知症が進み、もう独りでは暮らせなくなっていること。
自分を慕い、教師になった教え子のファビアンが、教師を辞めてアナーキストたちと活動していること。
長い付き合いのあった出版社から、社の方針転換を理由に著作の契約を打ち切られてしまったこと。
気付かないうちに、ナタリーは“孤独な中年女性”になっていたのです…。

人生も半ばを過ぎた女性が、“老い”や“孤独”といった現実を、どう受けとめていくのか、
そもそも受けとめられるのか。そんな映画です。
ボクには今、一番考えさせられるテーマでもあります(笑)。
資料にもありましたが、“孤独”には何ものにも縛られない“自由”の側面があり、
“老いゆく”とは経験が生む豊潤を受け取ることでもあるのだと。
確かにその通りだとは思いますョ。
“裏読み”が生きていく楽しさなんだから、ネガティブ・サイドじゃなく、ポジティブな側を見ようと。
ただ、言うのは簡単ですが、現実はね(笑)。
この映画は、その悲しみ、怖れと、楽しみ、希望がバランスよく描かれてるって感じかな。
タイトルにそのことは表れてますよね。“裏もまた真なり”。
いつも負の側にいて、正を見つけた喜びを良しとするのか、いつもは正の側にいて、
ふとした時に感じる負の怖さを仕方ないと諦めるのか。
どっちの生き方が幸せなんですかね…。頑張らなきゃ(笑)。☆3つ。
「未来よ こんにちは」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.3.16

『...and LOVE』☆☆
『ひるね姫』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


☆を打つ時に、いつも迷います。
2じゃないけど、3でもないよなぁとか、5じゃないけど、4よりはいいとか。
個人の感想だから、気にしないでシビアにと言ってくれる人もいれば、
プロモーションをお願いしたくて事前に見てもらってるのに、
マイナスプロモーションじゃ意味がないってことをわかってますか?なんて声もある。
悩むんですよねぇ…(笑)。
あとは文章でニュアンスを汲み取ってもらう感じですかね。
いつも言うように、映画も食も嗜好品ですから、ボクの評価は低くても、あなたのツボには刺さるかも?
さ、今週は2本です!



『...and LOVE』は、グラビアアイドル杉原杏璃の自伝的小説の映画化。

“碧い海のようなアイドル”になりたい。
アンはそのことを胸に秘めながら、グラビアアイドルとして頑張ってきたのですが、
年齢も30歳を越え、グラビアの仕事はあと1年だけと期間を決めます。
アンには付き合っていた男性が2人。
売れる前からの恋人だった若いツバサと、
忙しくなってツバサに会えない心の隙間を埋めてくれていた商社マンのカズマです。
ところが、カズマはアンの体だけが目当てだったことが判明。
そんな時、ツバサから久々に連絡が入ります。ツバサとの優しい時間を過ごしたアンは、
残されたグラビアアイドルとしての日々を懸命に頑張ろうと、改めて決意するのでした…。

実話なのか、創作なのか。どちらとも明言していない杉原杏璃の小説。
惜しむらくは、すっごいドラマチックな出来事があるとか、
壮絶な運命のイタズラなどがあるとか、そういうのではないということ。
また、男性としては、ちょっぴりセクシーなシーンを期待もしてしまうのですが(笑)、
それもそこまでは…。“売り”の部分がどこにあるのか、ちょっとはっきりしませんでした。
彼女のファンと、彼女自身のための映画かもしれませんね。
もちろん、頑張ったことには敬意を示しつつ。辛口ですが、☆2つ。
「...and LOVE」公式サイト


『ひるね姫』は、神山健治監督のアニメ作品。

2020年、岡山県倉敷市で自動車工場を営む森川モモタローと、女子高生のココネ。
父と娘です。ココネは最近、居眠りばかり。でも、なぜか同じ夢ばかりを見るのです。
東京オリンピックの開幕を3日後に控えた日、
突然、モモタローが警察に逮捕され、東京に連行されてしまうんですね。
そういえば最近、ふたりの周りをウロウロする怪しい男たちがいて、
警察沙汰になるような悪いことをする父ではないと確信していたココネは、
幼なじみの大学生のモリオと一緒に東京へ向かうことを決めます。
ココネの見る不思議な夢は、どうやら現実の世界とリンクしているよう。
モモタローを救うヒントは夢の中にある?
実はその先に、森川家の家族の秘密が隠されていたのでした…。

あまりアニメは見ないのですが、神山健治監督の代表作は『東のエデン』
『精霊の守り人』『攻殻機動隊S.A.C.』など。アニメファンには有名な監督さん。
舞台が3年後の近未来。
まさに“近い未来”で、政府のひとつの目標となっている“自動運転自動車”がモチーフに。
日本最大手の自動車メーカー(もちろん架空)と、
町の小さな自動車工場がなぜ繋がってくるのか、
このあたりに、この作品のドラマが隠されているのです。
アニメーションだからこそ描ける、SFチックなストーリー。
個人的な感想としては、エンドロールのバックに流れる物語に一番感動したかな。
最後まで席を立たないようにして下さいね。☆3つ。
「ひるね姫」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.3.9

『逆行』☆☆☆
『モアナと伝説の海』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


通常、試写会の受付開始時刻は、上映開始の30分前。
それでも人気の作品だと、かなり前から列が出来ていて、あっと言う間に席が埋まってしまうことも。
ディズニーはインターネットでの予約制。
こちらはUPされるや、それこそあっと言う間に“満席”になってしまいます。
今回の作品も、なんとかといった感じで見れました!感想はこのあとで(^-^)
さ、今週は2本です!


『逆行』は、人間の本質について問い掛ける作品。

NPOの医療ボランティアとして、ラオスで働くアメリカ人のジョン。
過酷な現場での作業に、心身共に疲れたジョンは、上司から休みを取るよう命じられます。
彼が向かったのはメコン川沿いのリゾート地。
夜になって飲みに出たバーで、現地の女の子とオーストラリア人観光客に出くわします。
彼らは女の子たちに過剰に酒を勧めていて、ジョンはそれをたしなめ、トラブル寸前になるんですね。
宿に帰る途中、ジョンが見たのは、あのオーストラリア人観光客が地元の女の子を襲った直後の現場。
駆け寄ったジョンと男性は殴り合いとなり、ジョンは弾みで男性を殺してしまうんですね。
倒れていた女性は、自分を襲ったのはジョンだと誤解。彼は死体を遺棄したまま、宿に戻ります。
次の日の朝、ジョンは早々に宿から立ち去ろうとするのですが、地元警察の職務質問を受けることに。
一瞬の隙をついて逃げ出すジョン。見知らぬ地での逃亡劇が始まったのです…。

ジョンが殺したのはオーストラリアの議員の息子。
それだけに事は大きくなり、自分が指名手配犯としてTVに映し出されているのを見ます。
これまで、医師として人の命を救うことに一生懸命だったジョン。
それが殺人罪で逃走することになろうとは。
思いもしなかった出来事に、人はどんな行動を取るのか。
善と悪の間で揺れるジョンの結末やいかに、というお話。
原題は『RIVER』。邦題はなるほど納得です。☆3つ。
「逆行」公式サイト



『モアナと伝説の海』は、ディズニー・アニメの最新作。

南の楽園、モトゥヌイに暮らすモアナは、村長トゥイの娘。
今日もタラおばあちゃんが、子どもたちに島の伝説を話してくれます。
「命の女神、テ・フィティの大切な“心”を半神半人のマウイが盗んで以来、
暗黒の闇が生まれた。
それがすべてを覆い尽くす前に、サンゴ礁を越えて旅するものが“心”をテ・フィティに返し、
みんなを救ってくれる」と。
モアナは幼い頃から、海がまるで生き物のように自分に接してくるという不思議な体験をしていました。
「サンゴ礁の向こうに何があるのか見てみたい」。
ずーっと、そう考えながら育ってきたんですね。
しかし、父はそれを許してはくれません。海には危険がいっぱいだと知っていたから。
そんなある日のこと。島のココナッツの木が枯れ、魚が一匹も捕れない事態に。何かがおかしい。
気持ちが押さえきれずにいたモアナの背中を押してくれたのは、タラおばあちゃんでした。
秘密の洞窟に連れて行かれたモアナが見たのは、島から島を渡り住む、
勇敢な航海士だった祖先の歴史。
それが“心”を奪われたことで、中断されてしまったのです。
このままでは闇が世界を覆ってしまう。
モアナは自分の心の声に従って、危険な海の旅に出るのでした…。

まず驚いたのは、映像の美しさ。本当にアニメ?と目を疑うほどの映像技術は、まさに日進月歩。
見る度に進化していることに驚かされます。
“心”を奪った半神半人のマウイが、極悪非道な悪者じゃなく、お茶目なヤツで(笑)。
登場するキャラクターも、みんな愛すべきキャラなんです。
涙を流すタイプの感動ではないかもしれません。それでも、見た後は元気になる。
踏み出す勇気をもらう1本であることは間違いありません。
試写の後でアンケートを依頼され、そこにも書いたのですが、
日本の神話を題材にディズニーが作品づくりをしてくれたら、
面白いものが出来るんじゃないかなぁと。
是非実現させてくれませんかね、ディズニーさん!満点☆5つ!
「モアナと伝説の海」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.3.3

『アサシン クリード』☆☆☆
『しゃぼん玉』☆☆☆
『人類遺産』☆☆☆
『フレンチ・ラン』☆☆☆
『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写の会場のひとつに、映画美学校というのがあります。
ここは映画の様々なことを学ぶ場所なんですが、試写の受付を済ませ、
座っていると、遠くから罵声が聞こえてくるではありませんか。
場所柄、作品作りでぶつかってるのかなぁと思ってたら、かなり緊迫した様子。
大丈夫かと思って試写室を出たら、階段下が稽古場のようで、セリフの稽古をしていたみたいなんです。
ちょっぴり、ホッ(笑)。周りの他の人も、みんな心配してたと思いますョ。
さ、今週は5本です!



『アサシン クリード』は、人気ゲームのをベースに映画化した作品。

殺人を犯し、死刑が執行されるカラム。
ところが、気付くと奇妙な空間に。そこはアブスターゴ財団が運営する研究所でした。
そこでは、アニムスという特殊な装置を使い、遺伝子に遺された先祖の記憶を蘇らせ、
映像を使って、脳に映るすべてを見ることができたのです。
カラムの先祖は15世紀のスペインに生きたアギラールという男性。
アギラールはアサシン教団のメンバーでした。
アサシン教団は、テンプル騎士団と対立していたのですが、その原因が“エデンの果実”。
それがあれば、人間の自由が管理出来る。
世界征服の野望を抱くテンプル騎士団に対し、アサシン教団は自由を守ろうとしていたのです。
実は、アブスターゴ財団 はテンプル騎士団の系統を継ぐ組織。
カラムの遺伝子記憶を探り、“エデンの果実”の在処を入手しようとしていたのです…。

ボクはゲームをやらないので、このゲームはわからないのですが、
カラムに様々な機器を取り付け、アギラールの記憶を蘇らせる。
これはメチャメチャ苦痛で、カラムは実験が終わった後も幻影に悩むようになるんですね。
15世紀末のルネサンス時代のスペインと、SFチックな近未来と。
独特の世界観がスクリーンを覆います。
続編がありそうな気配(笑)。気になる人は見ておく必要がありそうです。☆3つ。
「アサシン クリード」公式サイト



『しゃぼん玉』は、直木賞作家、乃南アサの小説の映画化。

女性や老人ばかりを狙った通り魔事件を繰り返してきた、伊豆見翔人。
ある雨の晩、勢いで女性を刺してしまい、長距離トラックの運転手を脅かして逃亡。
辿り着いたのは宮崎県の田舎の村でした。
伊豆見が山道を歩いていると、原付バイクが転がっています。
逃げる手段が出来たと思った瞬間、老婆の声が。バイクで転倒したスマでした。
仕方なしに伊豆見はスマを乗せて、家まで送ると、スマは一人暮らしのようで、
食事を出され、風呂に入り、暖かい布団で寝る。
いつしか、スマの家に住み着いてしまったのです。
周りの人は孫が訪ねてきたんだと勘違い。
毎日何もしない伊豆見を見たシゲ爺に、山仕事を手伝うよう言われ、
ますます田舎暮らしに馴染む伊豆見でしたが、
家を物色しているところをスマに見つかってしまうんですね。
それでも何も言わないスマ。
それどころか、スマは口癖のように「ぼうは優しいええ子じゃ」と、伊豆見に語り続けたのです…。

伊豆見に林遣都、スマに市原悦子。「市原悦子さんか…」と、期待する人も多いはず。
その期待には、しっかり応えてくれています。
スマには家を出て行ったダメ息子がいる。村には訳ありで都会から戻った女性がいる。
みんなそれぞれに問題を抱えながら、一生懸命生きている。そんなお話です。
親の愛を知らないからといって、弱い者から金品を奪ってきた伊豆見を、
そう簡単に許していいのかという声も出そうですが、この映画は“許し”の物語。
そう割り切って見るといいのかもしれません。
田舎の風景と人の優しさの映画です。☆3つ。
「しゃぼん玉」公式サイト



『人生遺産』は、廃墟を映し続けたサイレント・ドキュメンタリー。

ナレーションもBGMもなく、ただその場の音だけで、延々と世界有数の廃墟ばかりを映し出した映画。
07年の『いのちの食べかた』を見た人には、あの“廃墟版”だと思ってもらえばいいと思います。
アメリカはニュージャージーにある、海にそびえ立つジェットコースター。
ブルガリアのバルカン山脈の山の頂にある、ブルガリア共産党ホール。
日本の軍艦島の鉄骨アパート。
アメリカ、インディアナ州のメソジスト教会。
一度、湖の底に沈み、水が引いて、奇跡のように再び浮かび上がった、
アルゼンチンのヴィラ・エペクエンの街。
ベルギー南部の工業都市、シャルルロワにある、火力発電所の冷却塔。
ドイツのザッケ・ヒューゴ炭鉱の労働者更衣室用の建物などなど。
当時の繁栄を偲ばせる廃墟には、廃墟マニアなる存在もいるようです。
確かにUFOみたいな、無機質な近未来建築みたいな建物もありますからね。
2020年の東京オリンピックの会場問題で、“レガシー”なんて言葉が市民権を得ましたが、
「本当に必要なの?」と疑問に感じるものが多いのも事実。
担当者には是非見てもらいたいですね。
ちなみに上映時間は94分。94分の沈黙です(笑)。☆3つ。
「人生遺産」公式サイト



『フレンチ・ラン』は、異色のコンビが事件を解決する“バディ・ムービー”。

革命記念日前夜のパリの街で、死者4人を出す爆弾テロ事件が起こります。
防犯カメラを解析したところ、容疑者はアメリカから来たマイケルという男だと判明。
CIAから派遣された捜査官のショーンがこの捜査にあたるのですが、
ショーンというのがとにかくハチャメチャ。いわくつきの捜査官なんですね。
遂に、ショーンはマイケルの身柄を確保。しかし、マイケルは無実を主張。
自分はスリで、女性のカバンを盗み、金目のものを取って捨てたら爆発したと言うのです。
証拠にと差し出したのはゾーエという女性の携帯電話。
ゾーエはある組織の男にたぶらかされて、爆弾を仕掛けに行ったのですが、
出来ずに悩んでいたところ、マイケルが来てカバンを盗んだと。
事件の全容が見え始めた頃、ゾーエの携帯にはGPSが仕掛けられていて、
組織の魔の手がショーンとマイケルに近づいていたのでした…。

荒くれ捜査官のショーンと、天才スリのマイケルという異色のコンビが手を組み、
意外な巨悪に立ち向かうという内容。
上映時間92分というのも、潔しという感じですかね。
よくある刑事モノと言ってしまえばそれまでですが、舞台がパリというところに緊迫感を感じるかも。
パリでテロを描くには、まだ勇気がいる気がします。☆3つ。
「フレンチ・ラン」公式サイト



『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』は、世界的チェリスト、
ヨーヨー・マの活動を追ったドキュメンタリー。

1955年、中国人の両親のもとパリに生まれ、幼い頃にNYへと引っ越したヨーヨー・マ。
4歳からチェロを始め、9歳でジュリアード音楽院へ。その後、ハーバード大学に入学、そして卒業。
今世紀最高のチェリストと呼ばれた彼が、2000年に立ち上げたのが“シルクロード・アンサンブル”。
東西の異文化が行き交った道、シルクロードにゆかりのあるアーティストを集め、
“アート”を築いていったのです。
伝統的な民族音楽を現代風にアレンジすることには、反対の声もあったそう。
しかし、中国人でありながら、アメリカで暮らしてきた自分のアイデンティティ探しが、
そんな音楽のミクスチャーに魅力を見たのは、なんとなく理解できるところでしょう。
天才と呼ばれるがゆえの苦悩や、音楽をやる意味など、
ヨーヨー・マの素顔がたっぷり描かれたドキュメンタリー映画だと思います。
ファンでなくても、ご覧になってみて下さい。☆4つ。
「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.2.22

『彼らが本気で編むときは、』☆☆☆☆
『トリプルX:再起動』☆☆☆
『真白の恋』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


とある映画の試写を見た時に、ボクはあんまりピンと来なかったんですよね。
でも「いやぁ〜、いい映画っ。大好きですこの映画!」と、
プロモーターと会話をしている人がいました。
やっぱり映画は嗜好品。好みや感性の違いで、評価は変わるんだなぁと。
ボクのこのコラムも、あくまで個人的感想だということをお忘れなく。
さ、今週は3本です!



『彼らが本気で編むときは、』は、トランジェンダーの女性の物語。

男性の身体に生まれてきたけれど、心は女性。幼い頃からその違和感に悩み続け、
大人になって性別適合手術を受けたリンコ。今は老人ホームで介護士として働いていました。
自分の母を担当してくれているリンコに一目惚れしたのがマキオ。彼は言います。
「男とか、女とか、もはや関係なかったんだ」。
マキオの姉のヒロミには小学生の娘トモがいるのですが、男を追い掛けては家出を繰り返すような生活。
そのたびにトモはマキオを頼ってきていたのです。
またトモがマキオのところにやってきます。
ところが、今回はちょっと状況が変わっていました。マキオの部屋には、リンコがいたのです。
少しぎこちない3人での暮らし。それでもトモは自分の母親より愛情を注いでくれるリンコに心を開き、
子どもを産めないことがわかっているリンコはトモが可愛くて可愛くて仕方がない。
3人が結婚、親子関係などを真剣に考え始めた時、母のヒロミが戻ってきたのでした…。

リンコに生田斗真、マキオに桐谷健太。脚本・監督は『かもめ食堂』の荻上直子です。
この映画のいいところは、キレイ事でまとめてないこと。
差別、偏見…。当事者でないボクらにはわからないことがいっぱいあるわけで、
それらもちゃんと描かれてます。
ハッピーエンドという言葉があるけれど、
ハッピーエンドって何だろう?って、ちょっと考える映画かも。
ちなみにタイトルは、リンコが不条理に怒りが込み上げてきた時に、
今は無き股間のものを編んで作る。黙々と編んで怒りを押さえると。
それは自分の煩悩で、108個作ったら焚き上げて成仏させるんですって。
いい映画でした。☆4つ。
「彼らが本気で編むときは、」公式サイト


『トリプルX:再起動』は、ヴィン・ディーゼル主演の人気アクション映画、15年振りの“再起動”。

NSAに所属する、特殊工作部門“トリプルX”。
その責任者であるギボンズが、人工衛星の落下事故に巻き込まれて死亡してしまうんですね。
ところが、どうやらこれは事故ではなく、意図的な操作によるものだと判明します。
NSAが“パンドラの箱”と呼ばれる特殊装置を入手。
これさえあれば、宇宙空間にある3万もの人工衛星を墜落させることが出来、
犯人はこれを使ってギボンズを暗殺したというのです。誰が、何のために?
NSAが対策を講じていると、突然、並み外れた身体能力を持つ武装集団が乱入。
“パンドラの箱”を持ち去ってしまうんですね。
このままでは世界中が大混乱に陥ってしまう。
そこでギボンズの後任のマルケは、同じぐらいの身体能力を誇る、
伝説の“初代トリプルX”、ザンダー・ケイジを呼び出したのです。
ギボンズの仇を討つならと、仲間を集め、武装集団に挑むザンダーたち。
しかし、この事件にはとんでもない裏があったのです…。

2002年の『トリプルX』に魅せられた人には、待ってましたといった感じでしょうか。
レベルの高いアクション映画は、とにかくスクリーンに釘付けにさせてくれますから。
眠くなるヒマがない(笑)。
あの人気サッカー選手のネイマールjrが、本人役で登場。華麗な足技を見せてくれます。
ちなみに、これがハリウッドデビューだとか。
高値安定の1本です。☆3つ。
「トリプルX:再起動」公式サイト


『真白の恋』は、富山県射水市を舞台にした純愛物語。

“日本のベニス”と呼ばれる富山県射水市の、小さな町に暮らす渋谷真白。
彼女には見た目にはわからない軽度な障がいがありました。
父が経営する自転車屋さんで店番をし、飼い犬の散歩をさせるのが日課。
隣りに住む、従姉妹の雪菜が良き理解者です。
兄の結婚式で神社を訪れた時のこと。
放り投げて遊んでいたハンカチが手水舎の屋根に引っ掛かってしまい、それを取ってくれたのが、
東京から仕事で来ていたカメラマンの油井でした。
真白は預けられたカメラを興味深そうに覗き、謝ってシャッターを押してしまったのです。
言えずに油井にカメラを返す真白。
見知らぬ男の人と話してしまった真白は、経験したことのない感情にドキドキ。
ホテルに戻って、撮った写真を確かめていた油井は、真白が写り込んでいることに気付きます。
数日後、川沿いを歩いていた真白に声を掛ける油井。真白の写真をプレゼントしてくれたのでした…。

話はここから紆余曲折、いろいろなことが起こります。書いたのはさわりの部分だけです。
油井は真白に町を案内してもらったり、真白に障がいがあるとは気付かずに仲良くしていきます。
真白にとっては初めての恋。
しかし、障がいがあるからと、両親や兄など周囲は真白に対し、過保護になる。
真白の障がいを知った油井が言うんですね。
「何を持って障がい者っていうんですかね?社会に適応しきれてないって意味じゃ、
僕も自分の事、障がい者だと思ってますけど」。
この映画は、富山出身の坂本欣弘監督のデビュー作。脚本は北川亜矢子。
ふたりは助監督とアシスタント時代からの知り合いで、
坂本監督の初作品ならと北川さんが脚本を書いたそう。
実は北川さんの実弟が軽度の障がいを持っていて、ある言葉が胸に刺さったそうなんですね。
その言葉こそが、この映画の“肝”になっていることは間違いありません。
あえてここには書きません。ご覧になって、探してみて下さい。
最近、SFっぽい飛び道具?を使った恋愛映画が増えた中、
真正面から堂々と純愛を描いた素敵な作品だと思います。ボクが求めてるからかな(笑)。
自主制作映画なので、あまりたくさんの映画館ではかかりませんが、
多くの人に広がっていくことを切に祈ります。満点!☆5つ。
「真白の恋」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.2.17

『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』☆☆
『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』☆☆☆☆
『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』☆☆☆
『スプリング、ハズ、カム』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先日、アイドル系の映画の試写を見に行ったら、出演者やその友人と思しき面々が試写会に来ていて、
それはそれはいい匂い(笑)。女の子らしいパフュームの香りが試写会場を覆ってました。
まるで3Dの先にある、4DXのひとつじゃないかと思ってしまいました(笑)。
さ、今週は4本です!



『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は、ジェイク・ギレンホール主演のヒューマンドラマ。

デイヴィスはエリート銀行員。
自分のボスであるフィルの娘、ジュリアと結婚。若くして、富も地位も手にしていたのです。
ところがある朝、突然の交通事故で妻のジュリアが亡くなってしまうんですね。
なのに、悲しむことができない。自分は妻を愛していたのか、自分の心はどこに行ってしまったのか。
義父の「心の修理も車の修理と同じ。隅々まで点検して、組み立て直すんだ」という言葉がきっかけで、
身の回りの物を片っ端から壊していくデイヴィス。
その行為は自宅にとどまらず、会社にまで及びます。
その一方で、妻が亡くなった夜、病院の自販機から商品が出ず、
苦情担当として出会ったシングルマザーのカレンとの仲が親密になっていきます。
心も壊れてしまったデイヴィスは、上手くパーツを組み直すことが出来るのでしょうか…。

プレスには「喪失と哀しみ、そして再生を描いた物語」とありますが、
主人公のデイヴィスは登場した時から既に心がない感じ。
何が楽しくて生きているんだろうといった雰囲気の、感情の無い人間としてスクリーンに現れます。
そもそも“現代病”的な要素を持ったキャラクターなので、見ている側はなかなか感情移入が難しいかも。
亡くなった妻のあちこちに貼られたメッセージのほうが哀しい…。
タイトルが秀逸だから、期待し過ぎちゃったかも(笑)。
ごめんなさい。個人的にはピンと来ませんでした。☆2つ。
「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」公式サイト



『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』は、アメリカの人気政治家だった男のドキュメンタリー。

元アメリカ民主党下院議員、アンソニー・ウィーナー。
舌鋒鋭く相手を論破するイケメン議員。将来を期待された若手政治家のホープでした。
その期待の大きさの象徴が、妻のフーマ。
長年、ヒラリー・クリントン氏の右腕を務めた才色兼備を伴侶に迎えたのです。
順風満帆に思えたウィーナーの人生でしたが、結婚から10ヶ月、とんでもない事が起こります。
ウィーナーには、女性と性的な写真などをやり取りする“セクスティング”という性癖があり、
自ら写した下半身写真が流出してしまったんですね。
最初は否定していたウィーナーでしたが、結局自分のものと認め、議員を辞職。
それから2年。彼は再起を誓い、ニューヨーク市長選に立候補。
かつては人気の若手議員、過去を謝罪し「もう一度チャンスを」という訴えに、
ボランティアも多数集まり、支持率は急上昇。
ダントツの1位だったのですが、なんとまたまたわいせつな写真が発覚。
辞職後1年に渡り続けていたとようで、中には15歳の少女とのセクスティングもあったと。
FBIがこれを捜査。ウィーナーとフーマの共有端末から、
ヒラリー・クリントン氏の自宅私用メールサーバーから送受信したメッセージが発覚。
これが大打撃となったこともあって、ヒラリーさんは大統領選を落選してしまいます。
もちろんウィーナーも大惨敗…。
ドキュメンタリーですから、すごいでしょ?撮ってる側も、
政治家としてのウィーナーに興味があってカメラを回していたのに、まさかこんな展開になるとは…(笑)。
人の人格と下半身は、まったくの別物だということでしょうね(笑)。
ある意味、奇跡のドキュメンタリーです。☆4つ。
「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」公式サイト



『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』は、伝説のフラメンコ・コミュニティを映したドキュメンタリー。

スペインのアンダルシア地方にあるグラナダ県サクロモンテ地区。
ここに住むのはロマという、歴史的にも迫害を受けてきた民族で、数年前まで、
サクロモンテは地図にも載っていなかったと言います。
元々が流浪の民だったロマは、行く先々で差別を受けてきましたが、
この地でイスラムの文化と融合し、独自の文化を作り、根付いたのです。
ロマは洞窟で暮らしていたため、そこに洞窟フラメンコが誕生。
力強く、情熱的なフラメンコが世界を魅了したのですが、ロマのスターの死、
水害による洞窟の破壊など、次々と悲劇が彼らを襲います。
住むところを失っても、歌い、踊り、文化を代々引き継いできたという、
そんなロマの人々を追いかけたドキュメンタリー映画。
生き様が、歴史が、熱く映し出されてます。☆3つ。
「サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ」公式サイト



『スプリング、ハズ、カム』は、落語家・柳家喬太郎の映画初主演作品。

この春から東京の大学に進学する璃子。
下宿を探そうと、父・肇も広島から上京。ふたりで祖師ヶ谷大蔵の街を歩き回ります。
いい部屋だなと思っても隣りにホスト風の男が住んでいたり、
タッチの差で気に入った部屋が埋まってしまったり。
なかなか上手くいかない部屋探しだったのですが、おしゃべりなおばあちゃんが大家さんの、
古ぼけたアパートを発見。娘も父もそこを気に入り、ここを住まいに決めるんですね。
すると大家さんが街を案内してくれると言います。
その散策で出会う人々とのふれあいに下町の温かさを感じ、
ふたりは父娘で一緒にいられる時間の大切さを噛みしめるのでした…。

ちっちゃなロードムービーと言ってもいいかもしれません。
散策中、TVドラマのロケに遭遇、エキストラでドラマに出演したり、
インド料理屋での結婚式に招かれたり。
実は璃子の母は、璃子を産んですぐに亡くなっています。
成長した璃子に、亡き妻の面影を見る父・肇。父の背中におんぶされる璃子。
ドラマチックな展開はないけれど、何でもない日常の風景に、
大切な幸せが隠れているんだなって、改めて気付かせてくれる1本です。☆3つ。
「スプリング、ハズ、カム」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.2.9

『ママ、ごはんまだ?』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


最近、TVで昔のお気に入り映画がOAされることが多く。
でも、やっぱり気になるのがCMの存在。現実に戻されちゃうんですよね。
スポンサーがなければ放送ができないのですから、仕方ないと言えば仕方ないのですが、
できればノンストップで見たいもの。やっぱり映画館ですねっ。
さ、今週は1本です!


『ママ、ごはんまだ?』は、一青妙、窈姉妹の家族の物語。

台湾人の父と日本人の母。
名家の長男である父の一目惚れで結婚を決めた母は、台湾で暮らすことになります。
長女の妙が産まれ、続いて妹の窈が産まれた頃、一家は東京に移り住むことに。
しかし、優しかった父が亡くなります。
どんなに辛い時でも、母は料理をし、その料理がふたりの娘を、
また周囲のみんなを元気づけていたのです。
しかし、その母も病に倒れ、亡くなってしまうんですね。
あれから20年。思い出の東京の家を取り壊すことになり、姉妹で片付けていると、
赤い木箱が見つかります。
中には古い手紙と、母の台湾料理のレシピが入っていたんですね。
同じ頃、母の墓前で母の小さな秘密を知り、妙は台湾へと向かったのです…。

作家として活躍する一青妙、シンガーソングライターとして活躍する一青窈の母、
かづ枝さんを中心に描いた、一青家の物語。原作は一青妙のエッセイです。
かづ枝さんの出身は石川県の中能登町。
映画は中能登町の町制10周年の記念事業のひとつでもあります。
ボクにとっての“家庭の味”はというと、寿司屋を営む両親の元で育ったから、
ごはんは手が空いた人から食べる。
味噌汁もカレーも、具はまだ固いのが長谷川家の味。正しくは“食感”(笑)。
シャキシャキした大根の味噌汁や、コリッとしたジャガイモのカレーが美味しいと、今でも思ってしまいます。
あの時代の人々は、苦労もたくさんあったはず。それでも家族のためにと、必死で頑張った。
今以上に必死で頑張った世代…。
あなたも母の味を思い出すと思いますョ。☆3つ。
「ママ、ごはんまだ?」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.2.3

『君と100回目の恋』☆☆☆
『虐殺器官』☆☆☆
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』☆☆☆
『LIVE FOR TODAY 天龍源一郎』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


1月21日公開の映画『アラビアの女王 愛と宿命の日々』(→公式サイト)を
紹介し忘れてしまいました。すみません。
この映画はニコール・キッドマン主演作。
19世紀末から20世紀初頭に生きた実在のイギリス人女性、ガートルード・ベルの物語。
アラビアの人たちには“イラク建国の母”と呼ばれた、愛と情熱の女性の話です。
是非ご覧になってみて下さい。
さ、今週は4本です!



『君と100回目の恋』は、ファンタジック・ラブストーリー。

葵海と陸は幼なじみ。今は同じ大学に通い、The STROBOSCORPというバンドを結成。
仲間と共に、充実した大学生活を送っていました。
留学前に陸への思いを伝えたい。それでも告白できずにいた葵海でしたが、大事なライブの数日前、
そんな葵海にバンドメンバーの直也が愛を告白。
直也のことが好きだったマネージャーの里奈は気持ちの整理がつきません。
メンバー同士がギクシャクした、最悪のコンディションで迎えたライブは、最悪の出来に終わります。
すると、泣きながら会場を飛び出した葵海に悲劇が。交通事故で、命を落としてしまうんですね。
ところが、気付くと葵海は大学の教室の中。日付は7月25日。そう、ライブの1週間前です。
教授は同じ話をし、経験していたことが次々と起こる。動揺を隠せない葵海に、陸が言います。
「秘密を話そう。実は俺、時間を戻せるんだ」。
陸は葵海を救うために、何度も何度も時間を巻き戻していたのでした…。

シンガーソングライターのmiwaと坂口健太郎による、時空を超えた純愛物語。
タイトルは、なるほどそういうことかと、仕掛けがわかって納得です。
あらすじを書いてて、ネタバレじゃないかなぁと悩みましたが、
ここまではあちこちで取り上げているので、逆にストーリーの“売り”の部分みたいですね(笑)。
最近は、何かこういうサプライズ的な要素を加えて、ストーリーを展開させる恋愛モノが増えましたかね。
シンプルな恋愛だけじゃドラマにならないということでしょうか。☆3つ。
「君と100回目の恋」公式サイト



『虐殺器官』は、伊藤計劃(けいかく)のデビュー小説のアニメ映画化。

9.11以降、テロとの戦いが激化。アメリカは世界各国の紛争地で、首謀者を暗殺するための特殊部隊を編成。
科学と医療の最先端技術を使い、戦闘に適した能力を備えた兵士を開発したのです。
その部隊を率いるのがクラヴィス・シェパード大尉。
彼が狙うのは、ジョン・ポールというアメリカ人言語学者でした。
ジョンが訪れた国では、しばらくして、必ず内戦や大量虐殺が始まっていたのです。
ジョンが虐殺の種を蒔いていたとしたら。
クラヴィスはジョンの影を追うのですが…。

34歳の若さで亡くなった伊藤計劃の小説3作を、
連続で劇場アニメ化しようと立ち上がったのが“Project Itoh”。
『屍者の帝国』『ハーモニー』と公開されたものの、制作スタジオが倒産し、3作目の公開が遅れたとか。
それでも新たな制作スタジオがプロジェクトを引き継ぎ、この映画は作り上げられました。
単なるSF小説の枠に収まらない魅力を感じさせるのが伊藤計劃の作品です。
陳腐な表現ですが、これは体感しないとわからないと思います。
前2作も“見る”または“読む”をお勧めします。☆3つ。
「虐殺器官」公式サイト



『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は、ティム・バートン監督最新作。

周囲になじめない内気な少年のジェイク。
そんな彼にとって、唯一の理解者が、ワクワクするような冒険話をしてくれた祖父のエイブでした。
そのおじいさんが何者かに襲われたのです。
自宅裏の森に倒れていたおじいさんが、ジェイクに言います。
「早くここから離れろ。島に行くんだ」と。
精神的ショックで不安定になったジェイクは、医者の勧めもあり、か
つておじいさんが暮らしていたというケルン島に向かいます。
その島はおじいさんの冒険話の舞台で、そこには“奇妙なこどもたち”が住んでいる児童保護施設があると。
島についたジェイクは別世界の入口を見つけ、入ってみると、そこにはおじいさんの話の通り、
“奇妙なこどもたち”が幸せそうに暮らしていたのです…。

『チャーリーとチョコレート工場』などの大ヒットで知られる、ティム・バートン監督の話題作。
“奇妙なこどもたち”とは、宙に浮かぶ女の子や、小柄な少女なのに怪力の持ち主だったり、
指先から火を放ったり、オモチャに命を吹き込めたりする少年、少女。
外界で生きられない彼らを、ミス・ペレグリンという保護者が守っているんですが、
そこに邪悪な異能者が襲ってくると。
ジェイクがみんなと一緒にこの世界を守ろうと頑張る、冒険物語です。
こどもたちのキャラクターが、ファンタジーとしての肝になっています。
ティム・バートンファンは楽しめるかと思いますョ。☆3つ。
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」公式サイト



『LIVE FOR TODAY 天龍源一郎』は、元プロレスラー・天龍源一郎さんのドキュメンタリー。

大相撲からプロレスラーに転身し、40年に渡り、リングで闘ってきた天龍源一郎。
2015年2月9日、65歳の誕生日に会見を行い、11月15日の両国国技館で引退すると発表。
プロレス界に衝撃が走ります。
その理由は、妻の看病にありました。
天龍プロジェクトの代表を務めたのは娘の紋奈。
家族の支えがあってこそのプロレス人生と感じていた天龍源一郎は、今度は自分が支える番だと考えたのです。
引退発表からの10ヶ月にカメラは密着。
プロレスはショーだとか、八百長だとか、いろいろ言われるけれど、そんなのはどうでもよくなる。そんな映像です。
自分が先達のプロレスラーから受けた技の数々が、今の自分のプロレスを築いていると。
プロレスは“伝承”だから、自分が後輩たちにそれを伝えてからリングを去りたい。
天龍源一郎の思いがヒシヒシと伝わります。
もう体はボロボロですから。生き様だなぁと。感動しますョ。
天龍さん、競馬好きなんですね。なんだか親近感(笑)。とにかく満点!☆5つ。
「LIVE FOR TODAY 天龍源一郎」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.1.28

『スノーデン』☆☆☆☆
『ドクター・ストレンジ』☆☆☆☆
『マグニフィセント・セブン』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


自分が勧めた映画を知人が見てくれて、その感想を聞きながら会話を交わすのは楽しいものです。
感じ方や考え方が違ったとしても、そのやり取りの中に気づきや刺激があるから。
映画には、見るだけでなく、その後の第2波的な楽しみもあるということなんでしょうね。
さ、今週は3本です!



『スノーデン』は、オリバー・ストーン監督作品。

アメリカのごく一般的若者だった、エドワード・スノーデン。
2004年のアメリカ同時多発テロを受け、国のために軍隊に入隊するのですが、大怪我を負い、除隊。
それでも何か国の役に立てないかと考えたスノーデンは、
得意のパソコンの技を活かし、CIAに入ります。
CIAではサイバー・セキュリティーについて徹底的に学び、メキメキ頭角を現していきます。
訓練施設でトップクラスの成績を叩き出したスノーデンは、
スイス・ジュネーヴにあるアメリカの国連代表部に派遣されるのですが、そこで行われていたのは、
NSA(アメリカ国家安全保障局)による一般市民の“監視”でした。
テロ活動を疑われる人だけでなく、SNS、メール、チャットから、
国の内外を問わずあらゆる人の情報を得るやり方に、スノーデンは疑問を抱いたのです。
一度はCIAを辞めたのですが、元の上官とNSAの副長官から声が掛かり、
再びハワイのオアフ島で任務に就くスノーデン。
自分が構築したシステムが想定外の目的に使われていたり、恋人の行動まで逐一把握されている現実を知り、
「これが自由の国か」と愕然とするんですね。
スノーデンは危機感を募らせ、祖国アメリカを告発しようと決意するのでした…。

2013年、全米のみならず世界中を揺るがせた、スノーデンによる史上最大の内部告発事件。
昨年6月に『シチズンフォー スノーデンの暴露』というドキュメンタリー映画が公開になりましたが、
今作はオリバー・ストーン監督がメガホンを取り、スノーデンの生い立ちや、
恋人であるリンゼイとの関係にもスポットライトを当てた作りとなっています。
宣伝文句にもある“彼は、英雄か。犯罪者か―”。
その是非はわかりませんが、ひとつの信念に基づいての行動だったことは確かです。
あなたもメールやline、ポイントカードにSuicaなどで、完全に行動が把握され得るって、知ってましたか?
ドキュメンタリーを見てからのほうが響くと思いますが、
逆にこちらを見てからドキュメンタリーを見てもいいかと思います。☆4つ。
「スノーデン」公式サイト



『ドクター・ストレンジ』は、マーベル・スタジオの最新作。

天才外科医、スティーヴン・ストレンジ。
スタイリッシュでパーフェクトな日常を送る彼の欠点は、あまりにも気位が高いこと。
そんな彼を、悲劇が襲います。
交通事故によって、両手の機能を失ってしまうのです。
何としても外科医に復帰しようと、自ら指示を出し、高額な手術をするも、すべて失敗。
失意のどん底にいた時、脊髄損傷で歩けないはずの男性が何不自由なく生活しているという話を聞き、
会いに行くと、カトマンズにある謎の治療施設“カマー・タージ”を教えられるのでした。
最後の望みと施設を訪れたのですが、そこは神秘の力を修行する場所。
指導者であるエンシェント・ワンとの面会こそ叶ったものの、医学に通じるドクター・ストレンジが、
神秘などというものを信じるはずもなく、以前と変わらぬぞんざいな態度を取った瞬間、
彼は異次元世界に飛ばされてしまうのでした…。

と、まずは導入部だけ。
カマー・タージは“闇の魔術”から人類を守るための聖なる砦。
そこでドクター・ストレンジは、外科医から魔術師へと変わっていくのです。
街の外観がぐにゅんぐにゅん曲がって行く映像は、確かに斬新というか、すごいものがありました。
ちょいちょいギャグも入って、まったく飽きの来ない115分。
さすがディズニーとマーベルだなといった感じです。
エンドロールのあとに、今後の展開が予告編のように付くのが、お決まりのパターン。
今作も例外ではないので、場内が明るくなるまで席は立たないようにして下さいね。☆4つ。
「ドクター・ストレンジ」公式サイト



『マグニフィセント・セブン』は、勧善懲悪の西部劇。

1879年、アメリカ西部の町、ローズ・クリーク。
そこに現れた資産家のボーグが、町を乗っ取ろうと、極悪非道なやり方で住民を脅していたのです。
愛する夫をボーグに殺されたエマは、夫の復讐はもちろん、何とかこの町を守りたいと用心棒を探しに出たのですが、
そこで出会ったのが治安官のチザムでした。
エマの話を聞き、敵が横暴なボーグだと知ると、チザムは用心棒の依頼を引き受けます。
しかし、ひとりでは無理。そこで助っ人を集めることに。
バーで知り合った早撃ちが得意なギャンブラーのファラデー。
メキシコから流れてきたお尋ね者のバスケス。
凄腕スナイパーのグッドナイト。
東洋人でナイフの使い手のビリー。
インディアン・ハンターとして名を馳せたホーン。
そして、部族を追われたネイティヴ・アメリカンのレッド・ハーヴェスト。
7人の用心棒はローズ・クリークの町を守れるのでしょうか…。

アメリカの西部劇と日本の時代劇には通じる部分があります。
キャラクターのひとりひとりにドラマというか、背景があって、
大切な、特にいい人が犠牲になっちゃうけれど、最後は正義が勝つ。
また、数的には少ない正義が、バッタバッタと大量にいる悪を倒す痛快さ。
黒澤明監督の『七人の侍』が、アメリカ版リメイク作品として大ヒットとなった『荒野の七人』。
“その魂を継ぐ”とプレスにありましたが、今回の『マグニフィセント・セブン』も、まさにそう。
黒人のチザムもいれば、東洋人のビリーもいる。
敵対しているはずのインディアン・ハンターとネイティヴ・アメリカンが手を組む。
それぞれのキャラクターに入れ込んで見ると、より一層楽しめると思います。
この場合、悪は徹底的に悪いほうが面白い。ボーグはかなり悪いヤツです(笑)。☆4つ。
「マグニフィセント・セブン」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.1.20

『太陽の下で 真実の北朝鮮』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写会に行くのも、徐々にエンジンが掛かってきた感があり、先週は5本。
月平均10本は見たいですね…。
昨年あったように、行かなかった(行けなかった?)映画が高い評価を受けると、
かなりショックですから(笑)。
映画評論家とは違った、率直な感想を伝えるのが役割だと思ってます。
いい映画に出会いたいものです。
さ、今週は1本です!


『太陽の下で 真実の北朝鮮』は、北朝鮮の日常を映した問題作。

ロシアのドキュメンタリー映画の巨匠、ヴィタリー・マンスキー監督が、
北朝鮮の一般庶民の日常生活を撮りたいと政府に申し出たところ、北朝鮮側が承諾。
オーディションで選ばれたジンミーという8歳の女の子の家で、
1年間スタッフと共に暮らし、カメラを回すことになります。
ジンミーはエリートが集まる“朝鮮少年団”に入団。
父は縫製工場のエンジニアで、母は乳製品工場で働いていました。
模範家族ということで、住まいも高級。
食卓を囲むシーンでも、笑い声が絶えないのですが、何かがおかしい。
彼らの周りには、常に黒い服の男が数人いたのです。
思い出してみれば、ジンミーの父は、確かジャーナリストだったはず。
そう、これは北朝鮮政府がすべて指示を出し、理想の家族のイメージを作り出していたのです。
会話も、笑うタイミングも、家庭でも、職場でも、すべて指示が出されていた。
監督はこれをこっそり撮っていたんですね。
電源を切ったフリをして回し続ける。逆もまたしかり。カメラを回す前から電源は入っていたのです。
ラストでアップになるジンミーの顔の表情と、ジンミーの口から出る言葉に愕然とします。
事の善悪は、ボクにはわかりません。ただ、映画は淡々と進みます。
淡々とだからこそ、逆にゾッとするのだと思います。☆3つ。
「太陽の下で 真実の北朝鮮」公式サイト

 
 


 
 
週末公開の映画……2017.1.4

『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』☆☆☆
『NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』☆☆
『人魚姫』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


あけましておめでとうございます!
2017年も、ご愛読よろしくお願いします。
2016年は、最終的に本の試写を見させて頂きました。
昨年はドキュメンタリー映画に佳作が多かった印象です。
今年はどんな出会いがあるのか、ボクも楽しみにしています!
年の始めの、今週は3本です!



『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』は、ドイツ映画。

第二次世界大戦終結後、ヒトラー率いるナチス・ドイツの重要戦犯の多くが海外に逃亡。
中でも最重要犯とされたのが、アドルフ・アイヒマンでした。
何百万人ものユダヤ人を強制収容所に送り、命を奪った“ホロコースト”の中心的人物です。
ドイツ・フランクフルト、ヘッセン州の検事長であるフリッツ・バウアーは、
ナチスの戦争犯罪者をひとりでも多く逮捕したいと、執念を燃やしていました。
ところが、政治家や企業家の中には、まだたくさんの元ナチ党員がいて、バウアーの行動は監視されていたのです。
信じられる人間は、ごく僅か。
そんなある日のこと、バウアーのもとに1通の手紙が届きます。
アイヒマンが、アルゼンチンのブエノスアイレスに潜伏しているというのです…。

最近は、ナチスに関する映画がすごく増えている気がします。
世界中がきな臭い中、過去の過ちを繰り返さないためなのかもしれませんね。
事実に基づくストーリーで、バウアーの執念が描かれてます。
誰を信じてよくて、誰は疑わしきなのか。また、敵も狡猾で、様々な罠を仕掛けてくる。
歴史映画でありながら、サスペンスの要素もあって、見るものを飽きさせない作りとなっています。
自国ドイツと、日本とでは、リアリティとしての温度差があるかもしれませんが、
こういうところから過去に興味、関心を抱く。これも映画の持つ役割かもしれません。☆3つ。
「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」公式サイト



『NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』は、
インターネットの参加型オンラインゲームを題材にした作品。

高校3年の女子高生ヴィーは、母親と2人暮らし。
名門のカリフォルニア芸術大学から入学通知を受け取ったものの、
母は奨学金で地元の大学に通うことを願っており、その進路に悩んでいました。
そんな時、親友のシドニーが“NERVE”というゲームのことを教えるんですね。
“NERVE”は、多人数参加型オンラインゲームで、挑戦者と視聴者に別れ、視聴者は視聴料金を支払い、
挑戦者は視聴者が出す“指令”にチャレンジ。
最も視聴者数を獲得した2名が決勝戦を行い、莫大な賞金を手にするというもの。
冴えない普通の女子高生だったヴィーが、母に内緒で“NERVE”の挑戦者にエントリー。
次々と課せられる過酷なミッションに挑んでいくのですが…。

いわゆるユーチューバーなど、インターネット上で大人気となり、それで大金も稼げる現代。
その危険性に警鐘を鳴らしながら、サスペンス・アクションに仕上げた内容となっています。
ダサい女子高生から、一瞬にして時代の寵児へ。
そこには、それ相応のリスクや代償があるということを考えないといけない。
でも、考えないんでしょう。
インターネットの負の遺産は、努力と想像力を欠如させたことにあると思ってます。
いや、もちろんインターネットと出会ったからこそ、努力し、想像力を働かせ、
起業した人もたくさんいるのはわかってます。ただ、甘やかしのツールになってしまったのも事実。
この映画のヴィーを見てると、イライラしちゃうんですよね。「なんで立ち止まらないんだ」って。
ごめんなさい、ボクにはどうにもそれが不快でなりません。☆2つ。
「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」公式サイト



『人魚姫』は、香港のチャウ・シンチー監督作品。

金儲けしか頭にない、成金青年の実業家リウ。
イルカが生息する自然保護区域を莫大な金で買収し、そこをリゾート地にしようと企てていました。
ところが、そこには人魚族が住んでいて、行き場を失った彼らが思いついたのは、
可憐な人魚のシャンシャンを人間に変装させ、リウに接近、暗殺させようというものでした。
ハニートラップでリウに近づくことはできたシャンシャンでしたが、
あまりにドジで、繰り出す作戦をことごとく失敗してしまいます。
そうとは知らず、シャンシャンの純粋無垢な振る舞いに、
他の金目当ての女性には無い魅力を感じていたリウは、徐々にシャンシャンに惹かれていくんですね。
同時にシャンシャンも、リウを暗殺することなどできなくなっていたのでした。
その一方で、金に目がくらんだ人間たちは、人魚族との戦いを激しいものにしていったのです…。

チャウ・シンチー監督は、『少年サッカー』や『西遊記 はじまりのはじまり』などで知られる監督。
笑いも散りばめながら、環境破壊へのメッセージを送っています。
CGによる独特の世界観は、ファンにはすっかり定着しており、
その期待を裏切らない作りとなっています。
プレス資料には“ロマンシング・アドベンチャー”とありましたが、言い得て妙!安定の☆3つ。
「人魚姫」公式サイト