Pick Up Movie!……2024.3.28
『成功したオタク』★★
『デストラップ 狼狩り』★★★
(満点は★★★★★)

“事実は小説より奇なり”とはよく言ったもので、最近では耳を疑うような出来事やニュースが巷に溢れています。
映画は演出も自由。比べる話ではないかもしれませんが、負けてられませんよね。
さぁ、今週は2本です!


『成功したオタク』は、韓国のドキュメンタリー映画。

この映画の監督であるオ・セヨンは、とあるK―POPスターの大ファン。
映画のタイトルでもある「成功したオタク」とは、“推し”の歌手や俳優などに実際に会ったことのあるファンのことを意味するそう。
オ・セヨン監督は、中学生の頃から“推し”に濃いめの猛アピール。その結果、ファン参加のTV番組で共演するなど、間違いなく「成功したオタク」だったのです。
ところが、あろうことか、この“推し”が、集団性性暴行罪の疑いで逮捕されてしまうんですね。
韓国の芸能界に激震が走ったこの事件で、彼のファンは一転、“犯罪者のファン”になってしまいます。
生活の中心が“推し活”で、これまでの人生のすべてを捧げてきたと言っても過言ではないのに。この状況をどう消化すればいいのか。もやもやしたものが、どうしても拭い去れない。どうしたらいいかと考えた時、同様に彼のファンだった他の人は、何を思い、どう行動しているのかを、聞いて、見て回ろうと考えたんですね。
その記録が、この映画です。
擬似恋愛なんて言ったら怒られちゃうかな。「もう顔も見たくない」という人から、「それでも好き」という人まで、感情はまちまちで。
予告編のラストに、「傷ついたファンによるファンのための物語」とありますが、まさにそう。
おそらく、同じように“推し活”にすべてを捧げている人ならわかる。国境を越えてもね。そんな映画だと思います。★2つ。
『成功したオタク』公式サイト


『デストラップ 狼狩り』は、バイオレンス・サバイバル・スリラー。

狩猟を生業にし、森の中の小屋で生活をする3人の親子がいました。
夫のジョセフは、娘のルネに森での生き方を教え込んでいますが、妻のアンヌはルネの勉強を見ながらも、町に暮らして、ちゃんと学校へ通わせたいと願っていたのです。
獲物が少なく、食べるのがやっとの生活が続くのには訳がありました。“森の主”とも言うべき、狂暴な狼がいたからです。
罠を仕掛けても、巧妙にすり抜け、狙いは家族3人と言わんばかりに、夜になると狼の遠吠えが森に響きます。
意を決し、狼を狩りに森の奥深くへと踏み込んで行くジョセフ。
しかし、ジョセフが見たのは、若い複数の女性の変死体でした。
狼だけじゃない。この森には、凶悪な別の何かが潜んでいる。
ジョセフのその予感は的中してしまうのです…。

公式サイトのキャッチコピーから“バイオレンス・サバイバル・スリラー”としましたが、中の文章には“ソリッドシチュエーション・サバイバル・ムービー”とありました。
どっちも正解。なんなら両方混ぜてもいいんじゃない?ぐらいで(笑)。
エクストリームの配給作品にしては、人間vs狼とは、ハラハラさせるとは言っても地味だなと思っていたら、最後の最後に「来たぁ!」。
これでも十分にネタバレかも。でも、公式サイトではもう少し突っ込んでますから、ご勘弁を。
期待を裏切らないうれしさに、★を1つ増やしちゃいました(笑)。★3つ。
『デストラップ 狼狩り』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.3.19
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』★★★★
『ボンゴマン ジミー・クリフ』★★★
『流転の地球 太陽系脱出計画』★★★★
(満点は★★★★★)

おかげさまで、バタバタと忙しい3月。申し込んだオンライン試写を、なかなか観ることができずにします。
それでも“時間は作るもの”。体力に余裕がある時は、いつもの起床時間の2時間前に目覚ましをセットすれば、1本映画を観ることができます。
今、ようやく4月公開の作品を数本観たところ。それでも時に映画に癒され、早起きは3文の得だなと感じることもしばしばです。
さぁ、今週は3本です!


『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』は、浅野いにおの同名コミックのアニメ映画化。その前章。

小山門出(こやまかどで)と中川凰蘭(なかがわおうらん)は、幼なじみの中学3年生。
門出は凰蘭を“おんたん”と呼び、ふたりは唯一無二の親友。普通の中学生の日常を過ごしていました。
ところが、8月31日、東京上空に突如巨大なUFOが現れると、母艦から小型UFOが出現。都心は大きな被害を受けたのです。
それから3年。門出とおんたんは高校生に。
上空にはそのまま巨大なUFOの母艦が残っています。しかし、攻撃をしかけるでもないUFOの存在を、人々は次第に気にしなくなり、異様な景色の中で、当たり前の生活を送るようになっていました。
ところが、母艦から出た中型のUFOが墜落したことで、3人の死者が出ます。その中の1人が、門出とおんたんのクラスメイト、仲良しグループのひとり、栗原キホだったのです。
そうして迎えた、高校の卒業式の日。屋上で母艦に語りかけるように独り言を言うおんたん。すると、背後に見知らぬ若い男が立っていました。
「おまえ、何者だ?どこから来た!」と、おんたん。
「キミこそ、どこから来たの?」と言われた瞬間、おんたんは門出と出会った小学校時代へと戻るのでした…。

原作は、2014年から2022年にかけて、ビッグコミックスピリッツで連載されていた、浅野いにおのSFコミック。
単行本は12刊。すでに完結しているので、コミックで読み終えたという人も多いかと思います。
登場するキャラクターは、他にもたくさんいて、その紹介は公式サイトに譲りますが、上空に巨大なUFOが浮かんでいるという特異な状況にも関わらず、物語としては、普通の女子たちの青春が描かれている。かと思えば、侵略者が出てきたり、自衛隊がUFOを撃墜したりと、独自の世界観にぐーっと引き込まれてしまいました。発想がすごい…。
映画の真ん中あたりで、あらすじの最後に書いたように、おんたんは小学生の頃に戻ります。そこにこの物語の謎を解くカギがありそう。
また、後章ではふたりの大学時代が描かれるようですが、そちらに登場する竹本ふたばと田井沼マコトも途中で出てきます。見逃さないようにして下さい。
門出の声は、音楽ユニット・YOASOBIのボーカル、ikuraとしても活躍中の幾田りらが、おんたんの声は、あのが担当。このキャスティングも話題となっています。
本当は満点を付けたかったけど、ラストを見ずに満点評価もと思い、あえて★を1つ減らしました。
とにかく5月24日公開の後章が楽しみ!あ、まずは前章ですねっ。★4つ。
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』公式サイト


『ボンゴマン ジミー・クリフ』は、音楽ドキュメンタリー。

1948年、ジャマイカに生まれた、レゲエ・シンガーのジミー・クリフ。
1962年にデビューすると、65年にイギリスのロンドンに拠点を移し、ワールドワイドな活動をスタートします。
70年代のレゲエの中心は、アフリカ回帰のラスタファリの思想を歌う、ルーツ・レゲエ。政治への不満と相まって、闘いの象徴の音楽として広まりますが、ジミー・クリフのレゲエはポップな要素を含みながら、それでも自身のメッセージは内包する、そんな音楽を展開していました。
70年代終盤から80年代にかけて、ルーツ・レゲエが下火になると、いよいよジミー・クリフの時代がやってきます。
そんな彼の1980年の活動を追いかけたのが、この映画。
生まれ故郷のサマートンでライブを行うために、重機で土地をならし、手作りでステージを作る様子に人柄が滲み出ていたり、同年、南アフリカのソウェトで行ったライブでは、黒人と白人の区別なく、同じ観客席から、共に歓声をあげていました。アパルトヘイトによる人種差別が色濃くあった南アフリカにおいて、これは画期的な出来事でした。
さらに、ドイツのハンブルクでも、熱狂的な多くのファンの前でパフォーマンスを披露。絶頂期とも言える“ボンゴマン”、ジミー・クリフのドキュメンタリー映画です。
ちなみに、日本では1992年の暮れに公開となっており、今回はその映画のデジタルリマスター版です。
ボブ・マーリーの映画が複数公開になるなど、今年はレゲエが来そうな予感?ジミー・クリフも要チェックです。★3つ。
『ボンゴマン ジミー・クリフ』公式サイト


『流転の地球 太陽系脱出計画』は、中国のSF超大作。

世界中の科学者により、100年後には老化した太陽が膨張し、300年後には太陽系が消滅するという、紛れもない研究結果が発表されます。
人類が生き残る唯一の方法は、地球を太陽系外に移動させること。
そこで世界が一致団結し、地球連合政府を作ると、1万基のロケットエンジンを地球に取り付ける“移山計画”を実行に移します。
しかし、その計画には、当然のことながら、予想だにしなかった難問がいくつも待ち構えていました。
すると、月が接近限界を超え、3日以内落下すると言います。タイムリミットは、目前に迫っていたのです…。

いやぁ、凄まじい映画でした。
なんたって、地球そのものを移動させようって話ですから!
中国のベストセラー作家、リウ・ツーシンの短編小説を基に映画化。
実はこれは第2弾で、1作目は、一部のイベントを除き、日本では映画館での一般公開はされておらず、Netflixのドラマとして配信されたとか。
物語には、自分の命を捨ててでも、家族と地球を救おうという多くの主人公たちが出てきます。
具体的に挙げるとごちゃついてわからなくなりそうなので、背景というか、舞台設定だけを書いておきましたが、その人間ドラマの要素が、173分という長尺の作品を飽きることなく見せてくれる要因になっています。
誰かのために命を賭す。そんな相手がいること自体が幸せなんじゃないかなぁ。
確かに、太陽も寿命があるでしょうから、遠い遠い未来には、こんなことが起きているかも。あ、その頃には人類は滅んでいるかな(笑)。
それより、今、目の前で環境破壊が進んでしまっている地球。少なくともボクらの想像の域にある、次の、またその次の世代が健全に生きていられる地球であるように、早急に手を打つのが現代人の責務なんじゃないですかね。★4つ。
『流転の地球 太陽系脱出計画』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.3.15
『COUNT ME IN 魂のリズム』★★★★
『12日の殺人』★★★
『ブルーイマジン』★★★
『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』★★★
(満点は★★★★★)

ご存じのように、『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞の長編アニメーション賞に、『ゴジラ―1.0』がアカデミー賞の視覚効果賞を受賞しました。
前者は21年振り2度目、後者はアジア初の快挙です。
スポーツのみならず、映画まで。すごいなニッポン!
さぁ、今週は4本です!


『COUNT ME IN 魂のリズム』は、ドラムに特化した音楽ドキュメンタリー。

クイーンのロジャー・テイラー、ディープ・パープルのイアン・ペイス、ピンク・フロイドのニック・メイソン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス、ポリスのスチュワート・コープランド、ザ・クラッシュのニック・“トッパー”・ヒードン、アイアン・メイデンのニコ・マクブレインらに加え、シンディ・ブラックマン・サンタナ、エミリー・ドーラン・デイヴィス、サマンサ・マロニー、ジェス・ボーウェンといった女性ドラマーら、総勢19名の世界的ドラマーが、ドラムの魅力を語り尽くすドキュメンタリー。
ドラムは、リズムセクションとしての、バンドの屋台骨とも言える存在で、イメージとしては“縁の下の力持ち”?ボーカルやギターとは、また違った魅力を持つ楽器であることは間違いありません。
リズムとか、ビートといったものが人間に欠かせないのは、そもそも心臓の鼓動に命が動かされてるからじゃないのかなと。
レゲエのリズムが心地いいのも、心臓の拍に近いと言うし。
興奮し、躍動すると“心臓が高鳴る”と表現しますよね。ドラムの演奏にもそんな魅力を感じるんじゃないかなぁと、勝手に想像しています。
右手と左手と、同時に別のことをやるのが苦手なボクは、それが緩やかな?和太鼓を叩いていたことがあります。と言っても自己流の盆踊りの太鼓です(笑)。それでも区の依頼を受けて、よく太鼓を叩きに行ってたんですョ。
ドラムはそこに足が加わりますもんね。憧れちゃいます。
映画は、専門的な話も出てきますが、知識がなくても楽しめるのと同時に、ドラマーとドラムの出会いの物語でもあり、それもまた興味深いんですよ。
あなたも箸でお皿を叩いたり、そんな経験、ありませんか?yesと答えた人は、それだけで観たほうがいいかも(笑)。
細胞が躍動する。そんな1本です。★4つ。
『COUNT ME IN 魂のリズム』公式サイト


『12日の殺人』は、フランスのサスペンススリラー。

2016年10月12日の夜。
友人宅のパーティから帰宅途中だった21歳のクララが、突然夜道で何者かにガソリンをかけられ、ライターで火をつけられて殺されたのです。
ヨアン率いる警察の捜査チームがすぐに犯人探しに着手しますが、クララの男性関係は派手で、誰から恨みを買ってもおかしくなかったよう。
そこで、クララの交際相手だった男たちを次々に調べ上げますが、最終的にはみんな“シロ”。事件は迷宮入りの様相を見せ、チームは解散を余儀なくされてしまいます。
3年後、ヨアンはベルトランという女性裁判官に呼び出されます。犯人は男性だという先入観を捨てて捜査を再開するよう指示されたのです。
新たにナディアという女性捜査官も加わると、新たな視点も生まれるようになった捜査チーム。
果たして、事件は解決するのでしょうか…。

実際にあった未解決事件を題材にした映画です。
最初の捜査チームはみんな男性刑事で構成されていて、異性関係が派手だった被害者を怨恨の線で捜査。犯人は男性だと決めつけていたわけです。
しかし、女性裁判官のベルトランや、新人の女性捜査官であるナディア、クララの親友だったナニーら女性の言葉に、ヨアンはハッとさせられる訳です。
ナディアは言います。「罪を犯すのも、捜査するのもほぼ男性って変ですよね。男の世界ね」と。
フランス映画だなというもやもやを残す1本。それが、この作品に対する好き嫌いの境目になるかもしれませんね。★3つ。
『12日の殺人』公式サイト


『ブルーイマジン』は、日本、フィリピン、シンガポール合作の青春群像劇。

俳優志望の斉藤乃愛。
彼女には消し去ることのできないトラウマがありました。それは映画監督から受けた性暴力です。
誰にも言えず、ひとりで抱え込んでいた乃愛でしたが、親友・佳代の音楽仲間である友梨奈の性被害を相談されたことがきっかけで、どこかに相談できる場所はないかとネットで検索。ブルーイマジンの存在を知ったのです。
ブルーイマジンは、性暴力やDVなどに悩む女性たちがルームシェアをするシェアハウス。日本人のみならず、外国人も身を寄せ、傷を癒していたのです。
乃愛は友梨奈と一緒にブルーイマジンを訪れます。そして始まった、新たな生活。
すると、ひとりの女性がやってきます。俳優志望の凜です。話を聞けば、彼女もまた映画監督から性暴力を受けたと。それも加害者は、乃愛と同じ人物だったのです…。

最近もニュースになってましたよね。演技指導と称して、俳優志望の女性に性的行為を強要した映画監督のこと。再逮捕され、容疑者は黙秘しているとか。
映画の中では、乃愛の兄が弁護士で、兄にだけは打ち明けていた乃愛でしたが、兄からは消極的なアドバイスしか受けることができず。
そんな乃愛が、同じ境遇の仲間と共に立ち上がり、声を挙げるのですが、簡単には世界は変わらない。それは映画の中だけではない現実かもしれません。
それでも、ひとつの小さなきっかけで、大きなうねりが生まれてきたのも事実です。踏み出す一歩の大切さを教えてくれる作品です。
こんなテーマが“タイムリー”だなんて、そんな評価がなくなる社会を望みたいものです。★3つ。
『ブルーイマジン』公式サイト


『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』は、77年に日本でも公開になったライブ・ドキュメンタリーの4Kレストア版。

1967年6月16日からの3日間、アメリカのカリフォルニア州モンタレーで開催された野外コンサートが「モンタレー・ポップ・フェスティバル」。
ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカの若者の日常が死と隣り合わせになると、反戦や、愛と平和を訴えるようになります。それが“フラワー・ムーブメント”であり、ヒッピーと呼ばれるカウンターカルチャーの誕生でした。
モンタレー・ポップ・フェスティバルは、“Music,Love&Flowers”を旗印に掲げ、30組以上のミュージシャンが出演。20万人以上の観客を動員しています。
出演者には、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、ジェファーソン・エアプレイン、オーティス・レディング、ママス&パパス、サイモン&ガーファンクル、ザ・フーらがいて、その貴重なライブ映像を観ることができます。
ママス&パパスのジョン・フィリップスが、昔からの音楽仲間であるスコット・マッケンジーに書いた「花のサンフランシスコ」がテーマ曲。
“もし君がサンフランシスコへ行くなら花で髪を飾っていって”と歌うこの曲は、まさにこの時代のアメリカを、このフェスティバルを歌っているのです。
ステージはもちろんですが、この映画では、観客に相当な割合でスポットを当てています。ファッションと、時代を牽引する若者のパワーのようなものを、音楽と同様に残したかったんじゃないかなと。
温故知新。世代を超えて感じるものが、確かにあると思います。★3つ。
『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.3.8
『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』★★★★★
『ゴールド・ボーイ』★★★★★
(満点は★★★★★)

今週はどちらも面白かったです。
2作品ですが、共に満点の★5つだったのは、このコラム史上初かも?
是非、ご覧になってみて下さい!
さぁ、今週は2本です!


『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』は、豪華キャストによる大人のロマンティック・コメディ。

ミシェルには、恋人のアレンがいます。結婚願望が強いミシェルに対し、今のままでいいじゃないかと結婚に後ろ向きなアレン。
ハワードはホテルの一室で、モニカという女性とベッドの上に。夫に必要とされていないと不満をこぼすモニカは積極的にハワードを求めますが、ハワードはふと我に帰ったようで、関係を解消しようと部屋を出ていきます。
グレースがひとりで映画館に映画を観に行くと、近くの席でポップコーンを頬張りながら涙を流している男性を発見。グレースは声を掛けにいきます。彼の名はサム。ふたりは意気投合。もっと話がしたいと向かった先はモーテルでした。
ミシェルとアレンは、互いの両親の結婚観を知りたいと。ならばと計画したのが両家の食事会。ミシェルの家に、アレンとその両親を招くことになります。
実は、ミシェルの父はハワード、母はグレース。アレンの父はサムで、母はモニカ。
まさかの男女が一堂に会したから、さぁ大変。この騒動の顛末やいかに…。

面白かったです。
設定が強引だという声もあるようですが、若いミシェルとアレンにはもちろんですが、熟年のハワードにも、サムにも、グレースにも、モニカにも、それぞれに悩みや不満も、願望やときめく時もあるわけで。
“幸せの選択肢”というサブ・タイトルが示すように、自分も誰かに当てはまる、そんなサンプルと言っていい6人なんですョ。その状況を作るためには、少々強引でも、この設定を作る必要があったんじゃないかと思います。
ある意味、“赦しの映画”かなと。ボクも赦して欲しいことばかり(笑)。だから沁みたのかもしれません。
リチャード・ギア、ダイアン・キートン始め、豪華キャストの競演。ミシェル役のエマ・ロバーツは、ジュリア・ロバーツの姪だそう。
また、主題歌がいいんですよ。Ruth.Bの「Always You(Wedding Version)」。
エンディングで流れる訳詞も添えておきます。
「あなたはきっと来世で別の相手を見つけるでしょ 私もきっとそうするわ でも再会したら胸が高鳴るはず だって私はあなたに夢中なの」
これだけで泣けてくる…(笑)。
主題歌込みで満点!★5つ。
『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』公式サイト


『ゴールド・ボーイ』は、中国のベストセラー小説を原作にした日本版クライムサスペンス。

沖縄のとある町に暮らす、中学生の安室朝陽。
両親は離婚し、父は再婚。今は母の香との二人暮らしですが、香は一生懸命に働いて、朝陽を育てています。
ある日のこと、朝陽は小学校時代の親友、上間浩とばったり再会します。一緒にいたのは、浩の義理の妹の夏月でした。
聞けば、夏月が父親を刺してしまったと。警察に捕まるのが嫌で、ここまで逃げて来たと言います。
朝陽は、そんな二人を守ろうと決意します。
海に行き、記念写真を撮ろうとした3人。誤って動画にしてしまったのですが、再生して見ると、背景の崖の上から何かが落ちていったのです。それも影は2つ。
沖縄を代表する大企業の跡取り娘、東静。一人娘の静は夫の昇を婿養子に迎えましたが、今では関係が冷えきっていて、離婚話が進んでいました。
そんな時です。昇は静の両親である社長夫妻を言葉巧みに誘い出し、崖の上から突き落としたのです。
これで富と名誉が手に入る。完全犯罪が成立したとほくそえんだ昇。しかし、朝陽たちの動画にその様子が映り込んでいたのです。
「僕たちの問題、みんなお金さえあれば解決しない?」
朝陽は少年法を盾に、昇を脅迫し、法外な金を得ようと考えたのでした…。

メチャメチャ面白かったです。
原作は中国の人気作家、ズー・ジンチェンの「悪童たち」。中国最大の動画サイトでドラマ化され、20億回を超える再生回数を記録したそうです。
監督は『デスノート』や『ガメラ』シリーズの金子修介。
何の予備知識も入れないで観たほうが面白いと思うので、本当はもっと書きたかったけど、伏線はふせておきます。もうちょっと知りたいという人は公式サイトを見て下さい。さらなる登場人物が出てきます。
オンラインで試写を観た後の感想欄に、「すごい映画ですね…」と一言だけ入れました。
本当に美味しいものを食べた時、「旨い!」の一言ですべてが足りてしまうような感覚に似て。
昇役の岡田将生、朝陽役の羽村仁成、どちらの演技もすごかった…。
サスペンス好きには、絶対オススメの1本です。満点!★5つ。
『ゴールド・ボーイ』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.3.1
『すべての夜を思いだす』★★★
『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』★★★★
『FEAST 狂宴』★★★
『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』★★★★★
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』★★★
(満点は★★★★★)

今週、紹介する『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』は、鬼才ピーター・グリーナウェイ監督の過去4作品のリマスター版を特集上映。
本来は8本ですが、こちらはまとめて1本としました。
チケットは、もちろん1作品毎に必要となります。ご参考までに。
さぁ、今週は5本です!


『すべての夜を思いだす』は、多摩ニュータウンを舞台にした3人の女性の物語。

知珠は仕事を辞め、ハローワークに通う女性。
今日は誕生日なのに、これといって何の予定もない知珠は、友人から届いた引っ越しを知らせる葉書を手に、友人宅を探すことに。
早苗はガスの検針員。
団地の家々を回って、住人とたわいもない会話をし、時に茶菓子をもらう日々。
すると、団地に一斉放送が入ります。ここに暮らす老男性がひとり、行方不明になっていると言うのです。
しばらくすると、身なりの説明に似たおじいちゃんを発見。声を掛けてみることに。
夏は大学生。
亡くなった元彼が撮った写真の引換券があり、写真店に行くと、「もう期限が切れていて、保存の義務がない」と言われてしまいます。それでも、倉庫を探してみると言ってくれたので、後日の返事を待つことに。
夏は友達の女性と待ち合わせて、地元の博物館へと向かいます。
まったく別の女性3人が、それぞれの思いを抱きながら、この団地に暮らしていたのです…。

日本の高度経済成長期に建てられた多くの団地。
それは郊外に多く、今では当時の華やかさは影を潜め、住民の高齢化と共に、空き部屋も増えていると言います。
住民が減れば、店も撤退。住環境が悪化していくのが“団地問題”。今は若者のアイデアで、活性化に成功しているところもあるようです。
と、書いてはきましたが、この映画は別に団地問題が題材ではなく、3人のまったく別の女性が主役の日常ドラマ。記憶の映画と言ってもいいようです。
これが商業映画デビューとなる清原惟監督も、幼少期に多摩ニュータウンに住んでいたそうで、そんな意味でも“記憶”の舞台なのでしょう。
映画は、何の前知識も入れずに観たほうがいいものと、監督の思いを知ってから観たほうがわかるものがあるかと思います。こちらは後者かな。監督のインタビュー記事を読んでからの鑑賞をお勧めしたいですね。
昼下がりにまったり過ごす、カフェのような感覚で観たい映画。女性の視点では、また違った感想があるかもしれない、そんな作品です。★3つ。
『すべての夜を思いだす』公式サイト


『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』は、ピーター・グリーナウェイ監督の過去の4作品の特集上映。

イギリス人監督のピーター・グリーナウェイ。
解説によれば、「英国アート映画の先駆者として、世界中でカルト的人気を誇る映画監督」で、現代の鬼才と呼ばれる映画監督やクリエイターに影響を与えたとあります。
1942年生まれで、幼少時からアートに関心を持ち、絵画を学ぶ一方で、映画にも興味があったそう。事実、画家としても活躍し、パリのルーブル美術館で企画展が開かれたほどの実力の持ち主だそうです。
そんな監督の作る映画ですから、映像へのこだわりは推して知るべし。ストーリーもかなり風変わりで、確かに“大好きか大嫌いかの二極”だと思います。
4作品、すべてを観させてもらいましたが、ボクは“大”は付かないけど“好き”でした。アブノーマルさが、美しさと同居している世界。そこに相当な皮肉も詰まっていて。
画家が一枚の絵に込めた様々な思いを、立体的に表現するとこうなるのかなと。そんな感じです。
今回上映の4作品は、英国式庭園殺人事件』(1982年)、『ZOO』(1985年)、『数に溺れて』(1988年)『プロスペローの本』(1991年)。
個々の内容は公式サイトに譲りますが、古めかしさはまったくなく、むしろ斬新ささえ感じました。
ちなみに、この4作品に共通するのは、マイケル・ナイマンが音楽を手掛けていること。
加えて、『プロスペローの本』の衣装は日本人のワダエミが担当しています。
2019年の大ヒットホラー『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が、大きな影響を受けたというのも納得です。あの嫌悪感が好きな人には、特にオススメです。★4つ。
『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』公式サイト


『FEAST 狂宴』は、フィリピンが舞台の社会派ドラマ。

市場に買い物に来た2組の家族。
一方は、貧しくも慎ましやかに生きる一家の、父マティアスと幼い娘。もう一方は、高級レストランを経営する、裕福な経営者アルフレッドと跡取り息子のラファエルです。
その帰り道で事故が起こります。
マティアスたちが乗ったトライシクルと、ラファエルが運転する車が衝突してしまったのです。
血まみれで倒れる父娘を見たアルフレッドは、自らが運転席に移り、ラファエルを助手席に座らせます。そう、アルフレッドは息子の罪を被ろうと偽装したのです。
事故を放置したまま店に戻ると、アルフレッドはラファエルに、病院に行って治療費を払ってくるように指示。ラファエルが知人と偽って病室を覗くと、マティアスは重体、娘は軽傷だと判明。治療費を払い、追加があれば言ってほしいと連絡先を病院に知らせます。
マティアスの意識は戻らず、妻のニータは金銭的な問題もあり、マティアスの生命維持装置を外すことを決意。3人の子どもが見守る中、マティアスは亡くなったのでした。
間もなく警察の捜査の手が伸び、アルフレッドは逮捕されます。
アルフレッドはラファエルに、「あの家族の面倒を見てやるんだぞ」と言い残し、収監されていったのです…。

フィリピンの暗部をえぐる、リアルな作品を世に送り出す監督として知られる、ブリランテ・メンドーサ監督作品。
あらすじを読んで、多少の違和感を感じませんか?
マティアスの死後、ニータは、アルフレッドが経営するレストランで、手厚い待遇のもと、働くことになります。
そう、善と悪、優しさと罪悪感、充足と後ろめたさなど、加害者家族と被害者家族の両方に、様々な行動と感情が入り乱れて存在いるのです。すごい悪でも、すごい善でもない。それも、貧富の差を大前提として。
この映画には、多くを料理のシーンが使われますが、カラフルな食材を使ったフィリピン料理。その“混ざる”旨さも、監督が提示するひとつのアイロニーなのかなと。
「この映画の結末は、あなたの心を炙り出す」
これが予告編の締めの言葉です。
その結末は、是非劇場でどうぞ。★3つ。
『FEAST 狂宴』公式サイト


『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』は、音楽ドキュメンタリー。

1932年、米ジョージア州メイコンに生まれた、リトル・リチャード。本名リチャード・ウェイン・ペニマン。
“ロックンロールの創始者の一人”と呼ばれた彼の人生を追った、ドキュメンタリー映画です。
アフリカ系アメリカ人の両親のもとに生まれた、12人兄弟のひとり。その両親が信仰に厚く、音楽の道に進もうとしたこと、そして何より同性愛者であることに失望した父親との仲は絶望的となり、10代で家を出ます。
歌手の夢が叶ったのは1955年。スペシャルティ・レコードからメジャー・デビューを果たすと、デビュー曲「トゥッティ・フルッティ」が大ヒット。
今までに無いリズムと独特のシャウト、派手なピアノのパフォーマンスで、一躍スターの座に駆け上がると、次々とヒット曲を発表。
しかし、時代は人種差別が色濃く残っていた頃。
彼が始めた“ロックン・ロール”は、エルビス・プレスリーに代表されるように、次第に白人のものになっていきます。
それでも、真実は語られます。
ミック・ジャガーは「ロックンロールはリトル・リチャードが始めた」と言い、ポール・マッカートニーは、「僕が歌いながら叫ぶのはリトル・リチャードのスタイル」と語り、ジミ・ヘンドリックスは彼のバンドメンバーとしてギターを弾き、プリンスに至ってはルックスそのものが、まんまリトル・リチャードですから。
今で言う“おねえキャラ”で、決まり文句は「お黙り!(shut up!)」。破天荒な物言いで、TV番組などでも人気を博しますが、当時のアメリカですからね。時代の何歩も先を歩いていたことになります。
人種、宗教、家族、自身の性等、多くの悩みも抱えて生きてきたリトル・リチャード。2020年に87歳で亡くなりますが、彼が遺した偉大な足跡は、公式サイトのコメント欄に載せられた、数多くのビッグ・アーティストの言葉に集約されていると思います。
リトル・リチャードは知ってたけど、真のリトル・リチャードは知りませんでした。光と影。スターになるって、こういうことかなと。
伝記ものとして、すごい映画だと思います。満点!★5つ。
『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』公式サイト


『ロッタちゃん はじめてのおつかい』は、2000年に日本で公開されたスウェーデン映画のリマスター版。

パパとママ、お兄ちゃん、お姉ちゃんと暮らすロッタちゃんは、5歳の女の子。
ある朝のこと、買い物に行こうと、ママがロッタちゃんを誘います。
ところが、ママが用意したのは大嫌いなセーター。なぜなら、このセーター、チクチクするんですね。
絶対に着ないと駄々をこねるロッタちゃんを置いて、ママはひとりで出掛けてしまいます。
ロッタちゃんはセーターをハサミで切り刻むと、家出を決意。行き先は、隣に住むベルイおばさんの家でした。
優しく迎えてくれたベルイおばさんでしたが、やっぱり寂しくなったロッタちゃん。さらに夜になると、真っ暗な窓の外が怖くなります。
そんな時、パパがやってきて、「ママが寂しいと泣いてるよ」と。それを聞いたロッタちゃんは、「仕方ないなぁ。帰ってあげるか」と、うれしそうに家に帰るのでした…。

まるで“小さなちびまる子ちゃん”?
スウェーデンでは国民的人気のキャラクターだそうで、日本でも映画はヒット。24年振りの再上映となります。
物語はオムニバス形式で、このあともドタバタ劇が続くのですが、ロッタちゃんの“相棒”は、ブタのぬいぐるみのバムセ。病気で寝ているベルイおばさんにパンを届けるついでに、ゴミも捨ててとママから頼まれたロッタちゃん。ところが、袋を間違えてパンとバムセ袋を街のごみ箱にポイっと捨ててしまったから、さぁ大変!
なんて、おっちょこちょいなところは“小さなサザエさん”(笑)。
ただ、親の教育が今風というか。きちんと大人として子どもを扱っていて、頭ごなしにキツく叱ったりはしないんですね。
1998年の制作とあったから、26年前?スウェーデンは進んでたんだなぁと。
ちなみに、映画はもう1本あります。タイトルは『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』。こちらは3月22日に公開となります。★3つ。
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.2.22
『悪魔がはらわたでいけにえが私』★★
『コヴェナント 約束の救出』★★★★★
(満点は★★★★★)

先週公開の映画の試写は1本も観ていなくて、このコラムもお休みでした。
本音を言えば、毎週2〜3本ぐらいずつバラけてくれていると、書き手としては楽なんですけどね(笑)。
さぁ、今週は2本です!


『悪魔がはらわたでいけにえが私』は、エクストリーム配給のバイオレンス・ホラー。

ハルカ、ナナ、タカノリの3人は、バンドメンバーのソウタと連絡が取れなくなったことを不安に思い、車でソウタの家を訪ねます。
なんとも不気味な家の戸を叩くと、ソウタが顔を出します。誘われるままに、3人は中へと入るのですが、明らかに何かがおかしい。
ナナが、貼られていたお札を剥がした瞬間、嫌な予感は現実のものとなり、3人は魔物へと変わってしまいます。
こちらはビルの地下にあるバー。音楽プロデューサーのコウスケが目を覚ますと、なぜか手足を縛られている状態。同様に拘束されていた若者と協力して、なんとか縄をほどいたコウスケでしたが、その若者が人間でないことに気づくんですね。
階段を駆け上がり、逃げようとした時、魔物と化したハルカとすれ違います。そのハルカを盾にするかのように、逃げ出すコウスケ。
あれから1年。人間と化け物が抗争を繰り返す中、コウスケは車で全国を回っていました。
互いを救えるのは音楽だと悟り、楽曲作りに励んできたコウスケ。1年前、自分だけが逃げたことを後ろめたく思っていたコウスケは、もしハルカに出会えたなら、出来上がった曲をハルカに聴いてもらいたいと、ずっと考えていたのです。
そんなある日のこと、コウスケはハルカと偶然の再会を果たすのでした…。

まず、タイトルからしてすごいですよね(笑)。
スプラッター系と言うのでしょうか、血も、内蔵も、緑の吐瀉物も、虫もいっぱい。好きな人にはたまらないのでしょうが、ボクにはなんとも…。
ただ、先日亡くなった映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが宣伝を手掛けていると。試写の案内メールにも、問い合わせ先としての叶井さんのメールアドレスがありました。
居並ぶキャッチフレーズは、観る危険物、バイオレンス・ホラー、鬼畜系ファンタジー、トンデモ系SF、激ヤバB級グルメ系etc。
叶井さんのご冥福をお祈りすると共に、振り切ったエクストリームの配給作には、この★の数が誉め言葉だと思います。★2つ。
『悪魔がはらわたでいけにえが私』公式サイト


『コヴェナント 約束の救出』は、ガイ・リッチー監督最新作。

アメリカがアフガニスタンから撤退する以前の、2018年。
ジョン・キンリーは、タリバンの武器庫を探し出す米軍部隊の曹長です。
その日も部隊は検問所を置き、怪しい車両がないかをチェックしていました。
すると自爆テロが発生。部下とアフガニスタン人の通訳が、命を落としてしまいます。
新たな通訳としてやってきたのは、アーメッドという男性。屈強そうな反面、頑固な性格のよう。
キンリーはアーメッドに、なぜこの仕事をするのかと尋ねると「金のためだ」と答えます。実は、アフガニスタン人通訳には、任務終了後にアメリカ行きのビザが約束されていたのです。
数日後、爆発物製造工場を発見した部隊は、破壊のため、現地に向かうのですがが、そのことを察知したタリバンが大量の兵が送り込み、部隊はほぼ壊滅状態に。キンリーも銃弾を受け、生死の境をさまようことになります。
そんなキンリーを、アーメッドはバレないように運送。何度も危険な目に遭いながら、100キロもの距離を逃げ果せ、米軍に助けられたのです。
おかげで、キンリーはアメリカに暮らす家族のもとに帰れたのですが、思い返すのはアーメッドのことばかり。
アメリカ行きのビザを受け取れないどころか、タリバンから家族共々、命を狙われていることを知るんですね。
キンリーは決意します。今度は、自分がアーメッドを助けるべきだと。そして、再び単身、アフガニスタンに乗り込むのでした…。

戦争映画に取り組みたいと思っていたガイ・リッチー監督が、アフガニスタンのドキュメンタリー映像を観た時に取り上げられていたのが、アフガニスタン人通訳の問題だったそう。
そこからインスピレーションを受け、この映画はできたといいます。
米軍につかえるのは、異教徒の手助けをすることだと、周りからは白い目で見られる通訳の仕事。ですが、アーメッドには、敢えてこの職に就く理由がありました。
命を賭して自分を助けてくれたアーメッドを救うため、今度はキンリーが、自ら窮地に飛び込んでいく。男の“義と友情”の物語です。もちろん、その裏には、それぞれを支える妻という存在も実に大きくて。
誰かの映画評にもありましたが、確かに日本の時代劇にも通じる世界観があります。
いい映画でした。劇場で胸を熱くして下さい。満点!★5つ。
『コヴェナント 約束の救出』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.2.8
『一月の声に歓びを刻め』★★★★
『風よ あらしよ 劇場版』★★★
『梟 フクロウ』★★★★★
『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』★★★
『レディ加賀』★★★
(満点は★★★★★)

今週は東京にも雪が降りました。
冬は寒く、夏は暑く。日本には四季があるのだから、それなりの気候こそが健全の証し。
事故に繋がるのは困りますが、少々の不便も、ボクらは受け入れないといけないのかもしれませんね。
さぁ、今週は5本です!


『一月の声に歓びを刻め』は、三島有紀子監督の10作目となる作品。

北海道・洞爺湖。
初老のマキがひとりで暮らす湖のほとりの家に、正月、娘家族が集まります。
腕をふるっておせち料理を作ったマキでしたが、長女の美砂子はどこか浮かぬ顔。
実は、マキは美砂子の父親。6歳の時に性暴行事件で殺害されてしまった次女のれいこを救えなかった自分が赦せず、マキは男性器を取り去り、それから47年、自分なりの形で喪に服してきたのでした。
美砂子は、自分の存在の薄さを感じ取っていて、それが苦しくてたまりません。
翌日、「来るの、これで最後かも」。そう言い残して、美砂子は帰っていきます。

東京・八丈島。
牛飼いを生業とする誠のもとに、5年ぶりに娘の海が帰ってきます。
お腹の中には新たな命が宿っているようですが、話さない海。聞かない誠。
どうやら、相手は島出身の男。少年院上がりの既婚者らしく、彼がフェリーで島に来ると言うのです。
誠は鉄パイプを積んだ車で港へ向かうのですが、途中、同じく鉄パイプを持って道に立ちはだかる海が叫びます。
「人間なんてみんな罪びとだ!」。
海を車に乗せ、亡くなった母のことを思い出すふたり。交通事故で寝たきりになった母の延命治療をどうするか。父と娘で話し合い、中止を決断したのでした。
彼はいつでも妻と別れると、離婚届を海に預けています。海の彼を乗せたフェリーが、港に近づいてきます。

大阪・堂島。
5年前に別れた恋人・拓人の葬儀のため、堂島に戻ってきた、喪服のれいこ。
淀川に架かる橋を渡っていると、トト・モレッティを名乗る“レンタル彼氏”に声を掛けられます。
その名前が拓人の好きな映画を連想させたからか、れいこは彼を“買う”んですね。
ホテルに入って、れいこはトトに打ち明けます。「6歳の時に性暴力を受けた。それからは恋人とも体を重ね合うことができなかったんだ」と。
翌朝、れいこはトトと一緒に、事件以来、足を運んだことのない暴行現場を訪れたのです…。

3つの章から成る映画ですが、オムニバスではなく、地続きの作品だと解説にありました。
実は、監督自身の体験をモチーフに作り上げた劇映画。八丈島と洞爺湖はカラーですが、大阪はモノクロで描かれています。
映画には、なぜそれなのかを読み解くと、監督の意図した部分が見えてくる、そんな深さがあります。
性暴力を受け、世界は本当にモノクロだったと語る三島有紀子監督。自分を救ってくれた映画のスクリーンの中の世界だけが、カラーだったとも。
そんな監督が、今ならこのテーマに向き合えるかもと撮った作品です。
俳優陣の評価が高い1本ですが、中でもマキを演じた、カルーセル麻紀さんの存在感がすごい。逆風が吹く昭和という時代をたくましく“生き抜いて”きたからこその“リアル”があります。
監督のパーソナルがモチーフでも、多くの人に刺さるのは、この映画の登場人物たちのように、生きる誰もが、救えず、傷つけ、傷つけられるからなのかもしれませんね。
設定の、また台詞のひとつひとつに、監督の思いを探してみて下さい。★4つ。
『一月の声に歓びを刻め』公式サイト


『風よ あらしよ 劇場版』は、一昨年、NHK BSで放送されたドラマの劇場版。

明治28年(1895年)、福岡県糸島の貧しい村に生まれた伊藤野枝。
当時、女性の在り方は、「家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだあとは子に従う」が善しとされていた、“男尊女卑”の時代。
そんな中、東京に憧れていた野枝は、親戚を頼って上京。猛勉強の末、高等女学校への入学を果たします。
そこで教師の辻潤と知り合うんですね。
辻が教えた、平塚らいてうの言葉。「原始、女性は実に太陽であった」。この一文に大きな感銘を受けた野枝。
しかし、野枝の実家では、家族を養うために、野枝の望まない結婚話が勝手に進んでいたのです。帰省して、一度は相手宅に入るも、すぐに飛び出し、再び東京へ。憧れを抱いていた辻のもとに転がり込み、共に生活を始めます。
そして、野枝は、平塚らいてうの主宰する青鞜社の門を叩いたのです…。

吉高由里子主演の社会派ドラマの映画化です。
あらすじはほんの導入部で、まさに波瀾万丈。このあと無政府主義者の大杉栄との出会いが、野枝の人生を変えていきます。
大正12年(1923年)に起きた関東大震災がきっかけで、社会不安が増し、デマが横行。憲兵隊が思想犯らを取り締まる中、野枝は大杉栄と共に捕らえられ、殺害されてしまいます。
享年28歳。短くも濃い、野枝の波乱の人生を、恋愛の側面も含め、描いた1本です。
柳川強監督は言います。
香港の周庭さん、デニス・ホーさん、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん、#me too運動など、世の中に風が吹いている。野枝の存在自体が少し時代を先取りしていただけで、ようやく時代が彼女に追いついてきたのではないかと。
自由を求めて闘った、大正時代の女性たち。どこかに変革の扉が開いた瞬間があるとしたら、確かにこの映画に登場する女性たちが、大きな契機を作ったのかもしれません。
そんな意味でも、今、観るべき映画と言えそうです。★3つ。
『風よ あらしよ 劇場版』公式サイト


『梟 フクロウ』は、韓国のサスペンス時代劇。

17世紀、李氏朝鮮の仁祖(インジョ)王時代。
清の人質として捕らえられていた皇太子のソヒョンが帰国。インジョ王に、先進的な清の治世スタイルを勧めますが、保身からか、かたくなに拒むインジョ王。
その少し前に、鍼の腕を買われ、王室医として働き始めた盲目の鍼灸師がいました。彼の名はギョンス。
目が不自由でも、懸命に働くのには訳がありました。ギョンスには、心臓に重い疾患を抱える弟がいたのです。
咳が止まらないソヒョンのために、鍼を打つギョンス。確かな施術に信頼を得たギョンスは、皇太子との間に、身分を超えた友情が芽生えます。
ある夜のこと、ソヒョンの容態が悪化したとの報せを受け、ヒョンイク王室医とソヒョンの寝室へと急ぎます。
ヒョンイクが鍼を打てば打つほどに、瀕死の状態に陥っていくソヒョン。
すると、暗闇の中で、ギョンスは驚愕の事実を“目撃”してしまうのでした…。

韓国映画は名作が多い。
これも、そんな1本です。
「仁祖実録」なる記録物に記された“怪奇死”に発想を得た作品だそうで、謎多き史実に、創作意欲が掻き立てられたのかもしれませんね。
あらすじをどこまで書けばネタバレにならないのか、そのさじ加減が難しい1本。
ギョンスにはある秘密があって、ソヒョン皇太子との間に友情が芽生えたのも、ソヒョンはギョンスの秘密を知り、かつ受け入れてくれたから。
カッと見開いた目に、針が刺さりそうな写真は何を意味しているのか。観ればわかります。「なるほど…」と唸るはずです。
西洋の時代劇となるとちょっぴり世界観が違いますが、アジアの時代劇は共通する部分が大きいので、国境を越えても楽しめるのは、時代小説が証明してますもんね。
2023年の韓国の映画賞で最多受賞を記録したそうです。それも納得の作品です。満点!★5つ。
『梟 フクロウ』公式サイト


『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』は、ライブ・ドキュメンタリー。

1981年、36歳の若さでこの世を去ったレゲエ界のカリスマ、ボブ・マーリーの、母国でのラストライブとなった、1979年7月の“第2回レゲエ・サンスプラッシュ”の模様を映像化した作品。
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの他にも、82年の世界的大ヒット「Try Jah Love」で知られるサード・ワールドや、アフリカ回帰の思想であるラスタファリのメッセージを歌うルーツ・レゲエのアーティスト、ピーター・トッシュやバーニング・スピアなどが出演。
硬派なルーツ・レゲエが下火となり、娯楽としてのダンスホール・レゲエが主流となる過渡期のライブという意味でも、貴重なステージ映像なんだと思います。
日本でも、90年代に一大レゲエ・ブームが巻き起こり、レゲエ・フェスが全国で開催されました。この頃は、まだジャパニーズ・レゲエも大きなうねりにはなっておらず、どちらかというと、独自のリズムがコミカルなイメージで捉えられていた感じでしょうか。
今はまた、女性アーティストによるセクシーさが強調された音楽に変わってきた?というのは、オジサンの持つ先入観かな(笑)。
ボブ・マーリーの名前が全面に出ていますが、ジャマイカのルーツ・レゲエのライブ映画だと思って観に行って下さい。
温故知新。当世レゲエ好きの若者には、そんな1本になるはずです。★3つ。
『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』公式サイト


『レディ加賀』は、石川県加賀温泉を舞台にしたハートフルコメディ。

タップダンサーを目指し、上京した樋口由香。しかし、現実は甘くなく、思ったような活躍ができずにいました。
実は由香は、加賀温泉郷にある老舗旅館の一人娘。母が倒れたとの電話をきっかけに実家に帰った由香が、「女将になってあげてもいいかな」と母に告げると、「あなたには無理です」とピシャリ。
そんな時、新米の女将を集めた“女将教室”が開講されると知り、幼なじみのあゆみと共に参加する由香。しかし、中途半端な覚悟と、ダンスへの未練から、なかなか身が入りません。
時を同じくして、町おこしで加賀に来ていた観光プランナーの花澤の提案により、若女将によるタップダンスチーム“レディ加賀”が結成されることに。
リーダーに指名された由香でしたが、踊ることにまったく慣れていない彼女たちをひとつにまとめるのは至難の業。
またしても由香の前に、高い壁が立ちはだかるのでした…。

2011年、実際に加賀温泉郷に誕生した温泉旅館の
若女将たちによるプロジェクト“レディ・カガ”。
それにインスピレーションを受けて作られた映画だそう。
ハリウッド映画でもそうなんですが、ボクは主人公が改心していく物語でも、あまりに初めの印象が悪いと、「どうでもいいじゃん、こんなやつ」という気持ちになって、ストーリーに入り込めなくなってしまうのですが、正直、この映画もそんな感覚を抱きました。
もっと言うと、由香の未熟な時間が長すぎるんですよね。だから、達成感を共有できない。そこが残念だったかなぁ。
あくまで個人の感想です。逆にこの映画がきっかけで、リアルな“レディ・カガ”の存在を知ることができたし、今、石川県を訪れるのは大事なことですから。そんな観光ムービーとして観るのもありじゃないでしょうか。
能登半島地震で被災された方のために、配給収入の一部(5%)が義援金として石川県に寄付されるとのこと。映画を観ることで、石川県の応援に繋がります。これは素敵な取り組みだと思います。★3つ。
『レディ加賀』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.2.2
『神さま待って!お花が咲くから』★★★★
『ゴースト・トロピック』★★★★
『ストップ・メイキング・センス』★★★★
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』★★★★
『Here』★★★★
(満点は★★★★★)

2月になりました。
1月はあっと言う間でしたか?それとも長く感じましたか?環境、状況によって、様々だと思います。
時の流れが、人々にプラスの作用を及ぼしてくれることを祈ります。
喜怒哀楽。感情開放も大切です。映画がそれに一役買ってくれるかもしれません。
さぁ、今週は5本です!


『神さま待って!お花が咲くから』は、実話をヒントにした物語。

森上翔華、11歳。広島県福山市に住む、小児ガンの患者です。入退院を繰り返しながら、自称“余命0年”と笑顔で語ります。
主治医の勧めで、小学6年生の1学期から学校に戻った翔華。しかし、クラスはどこかギクシャク。自信を持てない担任の新川先生。エリートを自認する野沢を中心としたグループが、なにかと翔華を目の敵にしてきます。
それでも翔華は笑顔を絶やしません。“ファンタジー”を信じて、生きる喜びを噛み締めながら毎日を過ごしていると、翔華の前向きさが、次第にクラス全体に広がっていくんですね。
しかし、再び病状は悪化。翔華は入院を余儀なくされるのでした…。

2019年1月に、12歳の若さで亡くなった、森上翔華さん。
彼女の、短くも濃い人生にヒントをもらって出来上がったという感動作です。
入院患者の中でもアイドル的存在だった翔華ちゃんの口癖は「ファンタジーじゃ!」。
19年のクリスマスには、彼女が病床で書いた絵本『そらまめかぞくのピクニック』が出版されていますが、これは看護士さんや、保育士さんたちの尽力によって実現したのだそう。これが映画化のきっかけになったというのですから、まさにファンタジーだよね、翔華ちゃん!
淡い恋も経験した翔華ちゃん。1日1日を大切に生きることを、観る人に教えてくれるはずです。★4つ。
『神さま待って!お花が咲くから』公式サイト


『ゴースト・トロピック』は、ベルギーの新鋭、バス・ドゥヴォス監督が2019年に発表した長編3作目。

ベルギーのブリュッセルで、清掃の仕事に就いている、移民女性のハディージャ。
仕事を終え、帰宅しようと乗った最終電車で、疲れからか、彼女は寝過ごしてしまうんですね。
終着駅から娘のビラルに迎えに来てもらおうと電話をしますが、通じません。
駆け込んだショッピングセンターのATMでお金をおろそうとするも、残高不足。仕方なく歩いて帰ることを決意します。
寒空の下、愛犬と暮らすホームレス。
以前、家政婦として長く働いていた家。
ガソリンスタンドに併設された店の女主人。
そして、初めて見る、恋する娘の顔。
期せずして始まった深夜の徒歩が、ハディージャに新たな世界を見せるのでした…。

“真夜中の一期一会”というキャッチコピーが付いた作品。
移民女性が深夜の街を歩く、小さなロードムービーでもあります。
ベルギー出身のバス・ドゥヴォス監督は、1983年生まれ。公式サイトに「いま最も繊細で美しく、最も心震わせる映像を紡ぐ」とあるように、確かに個性的な映像表現が印象に残ります。
余韻を多く取るというか、そのままが長いというか。
陳腐な言葉ですみません(笑)。
ストーリーも、想像させることに重きを置く感じとでも言うのでしょうか。状況や表情から、観客が登場人物の心の中を拝察する楽しみがある。次に切り替わるまでが長いから、そこに思いを巡らせるための余地がある。感動のストーリーとかではないけれど、小さく心が揺さぶられる物語…。
ちなみに、このあと紹介する『Here』と同時上映です。
“百聞は一見にしかず”。きっと、新しいと感じると思います。★4つ。
『ゴースト・トロピック』公式サイト


『ストップ・メイキング・センス』は、アメリカを代表するロックバンドのひとつ、トーキング・ヘッズのライブ・ドキュメンタリー。

1974年、デイヴィッド・バーンを中心に結成された4人組ロックバンド、トーキング・ヘッズ。
91年の解散まで、その個性的なサウンドとビジュアルで、世界中の音楽ファンを魅了しました。
映画は、映像には評価の高いA24が監修した4Kレストア版。83年12月のハリウッド・バンテージ・シアターで行われた“伝説”のライブを収録し、インタビューはなく、客席も一切映さないというのがルールだったと言います。
デイヴィッド・バーンは、体以上に大きな“ビッグ・スーツ”がトレードマーク。これは日本の能楽からインスピレーションを取ったもの。この衣装に身を包み、全身を小刻みに震わせる“痙攣パフォーマンス”が特徴的なボーカリストです。
80年代といえば、MTVが一世を風靡。目に見える音楽がもてはやされた時代でもありました。そんな意味では、時代にフィットしたバンドのひとつとして捉えている向きも多いかと思いますが、トーキング・ヘッズの楽曲には、もっと深い魅力があります。
この手の音楽映画のいい点は、歌詞が訳詞としてテロップで流れてくるところ。英詞を音(おん)として聴き流しがちな我々日本人に、「こんなことを歌っていたのか」と、改めて歌詞の内容を教えてくれます。きっと、歌のクオリティが、一段上がって耳に届くはずです。
ライブでは、メンバーのソロ活動の過程から派生した、トム・トム・クラブもパフォーマンスを披露しています。
ちなみに、この映画のワールドプレミアのため、オリジナルメンバーが久々に集結。バンド結成50周年を祝ったそうです。
公式サイトで曲が聴けます。是非、開いてみて下さい。★4つ。
『ストップ・メイキング・センス』公式サイト


『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、実話に基づくストーリー。

アメリカ・マサチューセッツ州に暮らすキース・ギルは、証券会社に勤める会社員。
SNSに自身のサイトを立ち上げ、自宅から株式動画の配信をしているキース。その姿は赤いハチマキに猫のTシャツ。“ローリング・キティ”と名乗る彼のサイトは、なかなかの人気を博していたのです。
コロナの閉塞感に覆われた2020年。キースが訴えたのは、大好きなゲームソフトの店舗販売会社であるゲームストップの株価があまりに過小評価されているということ。
実は、一部ファンドの富裕層がこの株を標的に、金儲けを企んでいたんですね。倒産したら、富裕層にまた金が行く。株価が上がれば、彼らのダメージは大きいと。
キースの言葉に共感した多くの個人投資家たちが、ゲームストップ社の株を購入。すると、2021年に株価は大暴騰。ファンドは大打撃を受けることになります。
しかし、うなるような資産を持つ富裕層が、そこで手をこまねいているはずもありません。
彼らは、個人の投資を“ダム・マネー(愚かな投資)”と罵り、損失回復のためにあらゆる策を練ってきます。
巨額の資金の前に、キースや個人投資家たちの思いは、潰されてしまうのでしょうか…。

一般市民vsウォール街の金融大富豪。そんな戦いの構図です。
ゲームストップ社の株が上がれば、一般の個人投資家は儲かる。でも、それは株を売って、利益を確定させた後のこと。スマホの画面上に出ている株価の数字なんて、一瞬にして下がるかもしれないわけで。
売りが進めば株価は下がる。もし個人投資家たちが一斉に売りに出たら、ゲームストップ社の株は大暴落。そうなったら、また一部の富豪がほくそ笑むことになる。でも、株価が上がった今、売れば利益は大きい…。
点のように散らばる個人投資家たちの心の揺れ具合も、この映画の見処のひとつです。
“蟻の一穴”のことわざ通り、アメリカ中が結束したこの出来事が、実話だというから面白いです。
日経平均も上がり、新NISAで投資熱が高まっている日本。あなたも観ておいたほうがいいかもしれませんョ。★4つ。
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』公式サイト


『Here』は、『ゴースト・トロピック』のバス・ドゥヴォス監督の最新作。

ルーマニアからベルギーに働きにきたシュテファンは、ブリュッセルで建設関係の仕事をしています。
仕事を辞め、故郷に帰ることを決めたシュテファンは、冷蔵庫の中を空にするため、自慢のスープを作り、お世話になった人たちに配って回っています。
シュテファンが自分の食事をテイクアウトしようと、小さな中華レストランに入ると、雨に濡れた女性が飛び込んできます。
彼女の名はシュシュ。どうやら、店主の親類のよう。髪を拭いて、店を手伝うシュシュ。
後日、シュテファンが森を散歩していると、シュシュとバッタリ再会するんですね。
実は、シュシュの本業は植物学者で、苔の研究をしていると言います。
「苔に注目する人は少ない。でも苔は生命力に溢れた小さな森なの」。
シュシュの言葉に、シュテファンは関心を抱くのでした…。

『ゴースト・トロピック』同様、バス・ドゥヴォス監督の独自の映像世界が広がります。
ルーマニア人の男性と、東洋系の女性のお話ですから、やはり前作と同じように、移民が主人公。これがベルギーの今ということなのでしょうか。
シュテファンがスープを持ってあちらこちらを回るという意味では、これまた小さなロードムービーです。
シュテファンとシュシュの出会いも、生命力溢れる“小さな森”なんじゃない?と、ふたりの未来に思いを馳せる、そんな映画です。
森の緑が持つ湿度や、人の心の潤いまでもが伝わってきます。是非、体感してみて下さい。★4つ。
『Here』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.1.26
『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』★★★★★
『サウンド・オブ・サイレンス』★★★
『すべて、至るところにある』★★★
(満点は★★★★★)

寒いですね…。
1月20日は大寒。いよいよ寒さの底に突入です。
こんな時は、いい映画との出会いが、心をあったかくしてくれるかも。
ありますョ。そんな映画。
さぁ、今週は3本です!


『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』は、89歳の現役児童文学作家、角野栄子の密着ドキュメンタリー。

スタジオジブリで映画にもなった『魔女の宅急便』。その原作者としても知られる、児童文学作家の角野栄子。89歳の現役です。
鎌倉に暮らし、大好きなイチゴ色に囲まれ、おしゃれをし、本を1冊書き上げると自分のごほうびに可愛い眼鏡を買う。
街中を散歩し、ブティックに立ち寄り、カフェに入ってエスプレッソを飲む。海に着くと、流れついた陶器の欠片を拾っては、その人生に思いを馳せる。
そんな角野さんの生活に4年間密着した、ドキュメンタリー映画です。
5歳で母を亡くし、父が母親代わりもし、よく物語を聞かせてくれたそう。空想や想像の力の原点かもしれません。
24歳の時、夫と共にブラジルへ移住。そこで出会ったルイジンニョという名の少年との交流が、彼女の運命を変えていきます。
2年間というブラジルでの体験を本にし、作家デビュー。
1985年には代表作のひとつ『魔女の宅急便』を発表。そこにも、ブラジルでの生活が、あちらこちらに散りばめられていました。
映画は、そんな角野さんの創作活動の様子も映し出しますが、ノートにいたずら書きのように、思ったこと、感じたものを書くことから始まるんですね。それがいつしか形になっていくという。
公式サイトのあらすじにもあるように、映画の核はルイジンニョ少年との再会にあります。
奇跡ってあるんだなって。感動のシーンです。
ボクもそうですが、これから歳を重ねていく人にとって、また若い人たちにも、溌剌と生きることへのヒントを与えてくれる作品だと思います。
角野さんは言います。
「魔法は誰にでも、ひとつだけある」
その意味を知りに、ぜひ劇場に足を運んでみて下さい!満点!★5つ。
『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』公式サイト


『サウンド・オブ・サイレンス』は、イタリアのホラー映画。

アメリカに渡り、ニューヨークで、歌手になることを夢見て頑張っているエマ。
そんなエマに、母から電話が入ります。父が倒れたと言うのです。
一緒に暮らす恋人のセバと、急遽イタリアに帰国。病院に駆けつけると、母の顔に殴られたような痕があり、医師は父のDVを指摘します。
「あんなに温厚だった父がDV?」
すぐには信じられないエマでしたが、母は「あれはお父さんじゃない」と言います。
「家には戻らないで」と止める母を振り切り、実家に向かうエマとセバ。
父の隠し部屋に入ると、趣味である古物がたくさんあり、机の上には古いラジオが1台。
スイッチを入れると古めかしい音楽が流れます。
その時です、エマは何かが部屋にいる気配を感じたのです。ラジオを消すと気配も消えます。
しかし、次にラジオをつけた瞬間、エマの目の前に、それが確かに現れたのです…。

「絶叫禁止。音が鳴ったら、現れるー」
これが、この映画のコピーです。
必然的に沈黙が広がるので、いつドキッとさせられるのか、構えて観ちゃいました(笑)。
父が直した古いラジオがいわく付きで、直してしまったがゆえに現れた“何か”が父に憑依。今度はそれがエマたちを襲うというお話。
イタリアのホラーと言えば、『悪魔のはらわた』や『サスペリア』を始め、イメージ以上にヒット作があるんですよね。
寒い時期のホラーは、真冬のアイスクリーム?意外と乙なものかもしれません。★3つ。
『サウンド・オブ・サイレンス』公式サイト


『すべて、至るところにある』は、バルカン半島を舞台にしたロードムービー。

コロナ禍の日本で暮らすエヴァのもとに、1通の手紙が届き、彼女はセルビアへと飛びます。
そこはジェイという映画監督の男性と出会った土地。ジェイは世界中を旅して、アイデアを物語にする“シネマ・ドリフター”だと自身を語り、エヴァを主人公に映画を撮りたいと申し出ます。
撮影は進みましたが、次第に素人のエヴァにはハードルの高過ぎるものが求められるようになり、ふたりの仲は険悪になってしまいます。
そうして別れ別れになったふたり。しかし、互いの心の中に、その存在は残っていたのです。
実は映画が完成していたと知り、再び訪れたバルカン半島で、エヴァはジェイの行方を捜すのですが…。

日本のミニシアターを巡ったドキュメンタリー映画『ディス・マジック・モーメント』(23年)も話題になった、リム・カーワイ監督の“バルカン半島3部作”の完結編。
前2作を観た人には、ニヤリとできる設定もあるようです。
“シネマ・ドリフター”とは、リム・カーワイ監督自身のキャッチフレーズで、「映画という世界をさまよう人」という意味だそうです。
劇中でジェイは「建築を巡る映画を撮りたい」と話すのですが、あまた登場する旧ユーゴスラビアの巨大建造物は実に素晴らしいもの。
また、ジェイが好きだったボスニアのカフェで、老人たちが戦争や人生を語るシーンが挿入されますが、これはおそらくインタビュー映像。話が深いです。
名所旧跡をアピールする内容に終わりがちな海外ロケものですが、ちゃんとストーリーが着地もしていて、監督の意図と、映画への思いが確かに映し出されている1本です。★3つ。
『すべて、至るところにある』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.1.18
『海街奇譚』★★★
『緑の夜』★★★
(満点は★★★★★)

今週紹介するのは、どちらも中国映画。
香港が中国に返還されて以降も、香港映画と中国映画は、厳密に言えば“別モノ”。たまに、製作国に“香港・中国”の表記もあったりして、その区分けはなかなか難しいものがあります。
単なる場所の違いだけではなく、制作意図やイデオロギーの差異もありますもんね。検閲の壁も高いと聞きますが、その辺についてはあまり明るくないので、グレーのままにさせて下さい(笑)。
さぁ、今週は2本です!


『海街奇譚』は、中国のアート・サスペンス。

売れない俳優のチューは、考え方の違いから姿を消した妻を捜すため、妻の故郷でもある小さな島を訪れます。
首から下げたカメラで写真を撮りながら、島を回るチュー。
妻に似た女性教師が教える島の小学校。チューは、先生に向けてシャッターを切ります。
夕刻、古ぼけたホテルの女主人に声を掛けられ、宿を決めると、人捜しならダンスホールに行くといいと教えられます。
クジラのネオンが灯るダンスホールを仕切るマネジャーの女性。この女性もまた妻に似ていました。
カブトガニの面を被って儀式をしながら練り歩く漁師の集団。無くなった仏像の頭を探す町長と、何かを知っている息子。漁に出た者を飲み込む呪われた海。8月5日で止まったままの日付。
そんなこの島で、3つの女性殺人事件が起きるのです…。

タイトルからは、ニューヨークの古いアパートにおける人間関係の話かなと思いましたが、観るとアパートはあくまで小道具(大道具?)。原題は「The Saint of the Impossible」。“不可能の聖人”?英語の知識がなくてすみません(笑)。ちょっぴり差異を感じました。
日本にも不法移民の問題は存在しますが、正直そこまで我が事のようには感じませんよね。陸続きで国境を接することのない島国ですから
でも、諸外国、特にこの物語の舞台となっているアメリカ、ペルーの両国では、映画が大きなリアリティをもつのだと思います。
幸せに生きたい。少し上の生活を手にしたい。これは人として、当たり前の欲求だと思います。
ただ、狭いアパートでの暮らしとは対照的に、ニューヨークは母子には広すぎました。
でも、それに負けることなく、広くて大きいのが家族の愛だと。そんな映画だと思います。★3つ。
『海街奇譚』公式サイト


『緑の夜』は、韓国を舞台にした中国映画。

中国から韓国にやってきたジン・シャは、韓国人男性と結婚。配偶者ビザを使い、夫とは別居という形でソウルに暮らしています。
仁川港の保安検査員として働くジン・シャ。そこに、緑色に髪を染めた若い女がやってきます。
すると、保安検査場の金属探知機が反応。不審に思い上司に告げると、「よく乗船する常連客だろ」と逆にたしなめられる始末。
緑の髪の女は怒ったのか、「乗るのはやめた」と出て行ってしまいます。
仕事が終わったジン・シャがバスに乗り遅れて途方に暮れていると、先程の緑の髪の女がジン・シャに声を掛けてきます。
タクシーに乗り、ジン・シャの家に向かうふたり。
緑の髪の女は、自分が違法薬物の運び人であることを告白するんですね。
会えば暴力をふるう夫に悩んでいたジン・シャも、配偶者ビザを放棄して永住権を得るには3500万ウォンという大金が必要です。
ここにふたりの女性を結ぶ、危うい糸が繋がったのでした…。

中国の人気俳優であるファン・ビンビンと、『梨泰院クラス』でブレイクした韓国人俳優のイ・ジュヨンの共演作。
「本編には性暴力描写が含まれます」との注意書きがあるように、ジン・シャはビザのために結婚をしたものの、夫から執拗に関係を迫られます。それを断ち切るにはお金が必要なんですね。
緑の髪の女も、中国にいる恋人からの頼みを断れずに運び屋をやっている。そこに求める愛がないこともわかっているはず。
孤独な女性ふたりの運命は…という映画です。
LGBTQ、偽装結婚、薬物、汚職など、現代の悩みや問題が詰め込まれています。
自由を得るためには、何かを犠牲にしなくてはならないのか。中国人監督のハン・シュアイのメガホン。女性監督ならではの視点で描かれた1本とも言えそうです。★3つ。
『緑の夜』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.1.11
『ニューヨーク・オールド・アパートメント』★★★
(満点は★★★★★)

お正月休みも終わりました。
被災地の心配をしながらも、ボクらは日常生活に戻らなければなりません。
心が疲れたら、映画があります。音楽があります。
被災地のみなさんにそんな余裕はないとは思いますが、心に栄養を届けることも大切だと感じます。
さぁ、今週は1本です。


『ニューヨーク・オールド・アパートメント』は、不法移民の母子の物語。

南米ペルーから、不法入国でニューヨークにやってきた、母ラファエラと、双子の息子のポールとティト。
ラファエラはウェイトレスとして働き、ポールとティトは語学学校に通いながら、宅配の配達員として働いています。
身元がバレたら即強制送還。3人はそんな恐怖と背中合わせの毎日でした。
本来なら、青春真っ只中のポールとティト。ある日、語学学校にクリスティンというクロアチア出身の美女が入ってきます。
ときめきを覚えたふたりは、仲良くなろうと、クリスティンに必死にアプローチ。彼女のモデル時代の写真をもらうまでになるんですね。
しかし、クリスティンも問題を抱えています。それがこの街、ニューヨークです。
さらに、母ラファエラが、バイト先で知り合った自称・小説家のエドワルドと深い仲になると、彼の進言でラファエラは仕事を辞め、アパートのキッチンを使った、ブリトーのデリバリー店を始めるのですが…。

タイトルからは、ニューヨークの古いアパートにおける人間関係の話かなと思いましたが、観るとアパートはあくまで小道具(大道具?)。原題は「The Saint of the Impossible」。“不可能の聖人”?英語の知識がなくてすみません(笑)。ちょっぴり差異を感じました。
日本にも不法移民の問題は存在しますが、正直そこまで我が事のようには感じませんよね。陸続きで国境を接することのない島国ですから
でも、諸外国、特にこの物語の舞台となっているアメリカ、ペルーの両国では、映画が大きなリアリティをもつのだと思います。
幸せに生きたい。少し上の生活を手にしたい。これは人として、当たり前の欲求だと思います。
ただ、狭いアパートでの暮らしとは対照的に、ニューヨークは母子には広すぎました。
でも、それに負けることなく、広くて大きいのが家族の愛だと。そんな映画だと思います。★3つ。
『ニューヨーク・オールド・アパートメント』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2024.1.5
『コンクリート・ユートピア』★★★
『シャクラ』★★★★
『マイ・ハート・パピー』★★★
『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』★★★★★
(満点は★★★★★)

新年あけましておめでとうございます。
2023年は、157本の新作映画を観させてもらいました。
いつも言うように、映画の評価は個人の嗜好によるところが大きいので、ボクの満点や低評価はひとつの感想に過ぎません。
紹介するのはメジャーでない作品も多いので、「こんな映画があるのか」と興味を持ってもらえれば、映画に恩返しができるのかなと思っています。
今年も、ご愛読よろしくお願いします。
さぁ、今週は4本です!


『コンクリート・ユートピア』は、韓国のパニックスリラー。

世界中で、突如として起こった地盤の隆起。韓国のソウルも例外ではなく、一瞬にして街は壊滅状態となります。
周辺で唯一無事だったのが、ファングンアパート。あちらこちらから避難民が押し寄せ、建物の中はパニックに。
すると、ある部屋から火が出ます。危険を顧みず、消火器を持って火中に飛び込んでいったのは、902号室に住むヨンタクでした。
マンションの会議で住人以外は追い出すことに決まり、住民代表を誰にするかとなった時、その果敢な行動から、ヨンタクが選ばれます。
さらに、防犯隊長には602号室のミンソンが選出されます。ミンソンは新婚で、妻は看護師のミョンファです。
これで住民の結束が固まったかに思われたのですが、生活物資も尽き始めると、人々の間にギクシャクした空気が流れ出します。外から虎視眈々、このマンションを狙う者も当然いるわけで。
内圧外圧に立ち向かう中、ヨンタクの力が次第に強まってくると、彼の本当の素顔が見えてきたのです…。

元日の能登の地震を連想させるかもと、公式サイトには注意書きがありました。まずは、お伝えしておきます。
極限状態に置かれた人間が、いったいどんな行動を取るのか。人間らしさを保つことができるのか。“人間の本質をあぶり出すパニックスリラー”とありました。
物語のカギを握るのは、イ・ビョンホン演じるヨンタク、ミンソンとミョンファ夫婦以外にも、婦人会長を務める207号室のグメ。
最後まで人としての信念を全うしようとする809号室に住む男性のドギュン。
903号室の住人ながら、久々にマンションに戻ってきた若い女性のヘウォンらがいます。
パニック映画としてだけでなく、ストーリーに仕掛けもあるので、ドキドキハラハラは最後まで続きます。
自分ならどうするでしょう?
架空の問いに、答えは見つからないのかもしれません。★3つ。
『コンクリート・ユートピア』公式サイト


『シャクラ』は、香港・中国合作の武侠アクション。

中国・宋の時代。互助組織である丐幇(かいほう)の幇主・喬峯(きょうほう)は、正義感に満ち溢れ、信頼に厚く、武芸にも長けた、強いリーダーでした。
ところが、副幇の馬大元が何者かに殺害されてしまいます。
妻の馬康敏は、喬峯が犯人だと言うのです。
さらに、喬峯が漢民族ではなく、実は契丹人であることも暴露。事実、喬峯は養父母に育てられていました。
自身の潔白を声高に訴えることもせず、すべての関係を断ち切って旅に出る喬峯。
その目的は、真犯人とその狙いを見つけること。そして、自身の出自についての真実を知ることにあったのです…。

いわゆる、中国の時代劇。面白かったです!
あらすじは、実にサラッと書きましたが、ひとつ難点を挙げれば、登場人物がものすごく多いこと(笑)。それも重要人物であろうキャラがたくさんいるので、そのへんの把握が大変かも。
ただ、喬峯はメチャメチャ強いんですよ。剣術はもちろんのこと、拳法の達人なので、気でも相手を吹き飛ばしちゃう。とにかく圧倒的な強さを誇ります。
このあたりは日本の時代劇もそうですよね。ひとりで、何十人もいる敵を、バッタバッタと斬り倒していく。爽快でしょ?
ボクらは観ていて、喬峯がいい人なのはわかります。勧善懲悪。で、悲しいかな、大切な人が犠牲になったりもして…。
原作は中華圏では有名な武狭小説「天龍八部」。4人いる武芸者の1人、喬峯にスポットライトを当てた脚本となっています。
製作、監督、主演はドニー・イェン。
日本の時代劇ファンに加え、正月からスカッとしたい人にもおすすめです!★4つ。
『シャクラ』公式サイト


『マイ・ハート・パピー』は、韓国の愛犬物語。

ミンスは愛犬家。仕事が終わると、愛犬のルーニーに会うため、脇目もふらずにまっすぐ帰宅するほど。
そんなミンスには恋人がいます。CAのソンギョンです。
ミンスはソンギョンにプロポーズ。快諾したソンギョンですが、ひとつ黙っていたことがあると。それは犬アレルギー。ソンギョンはミンスに心配をかけまいと、ルーニーに会う時は薬を飲んでいたんですね。
その事実を知って、ショックを受けたミンスは、悩みに悩んだ末に、ルーニーを里親に預ける決意をします。
力になると手を差し伸べてくれたのは兄のジングク。しかし、ジングクはカフェを潰したばかり。かなりの金銭的問題を抱えていました。
車にルーニーを乗せて、ミンスとジングクは里親探しの旅に出るのですが…。

公式サイトにある予告編を見てもらうとわかるように、ルーニーの里親を探すはずが、叔父の犬を預かることになり、食肉にされそうな犬を助け、捨て犬を拾い、保護犬を請け負い。逆に、どんどんとワンちゃんが増えていきます。
里親候補も実に様々。犬は無償の愛を人間に捧げてくれる動物ですから、本当に大切にしてくれる人ならいいのですが、なかなか全幅の信頼を置ける人との出会いというのは難しく。
果たして、兄弟はこのワンちゃんたちをどうするのか?結婚は大丈夫なの?というお話。
可愛いばかりではなく、韓国ペット事情の、悲しく、厳しい現実も垣間見えます。
とはいえ、ロードムービーの側面もあり、笑いもたっぷりの1本。愛犬家ならずとも楽しめそうです。★3つ。
『マイ・ハート・パピー』公式サイト


『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』は、プロレス・ドキュメンタリー。

北海道の東端に位置する町、根室。そこに、2006年、アマチュアのプロレス団体が旗揚げするんですね。
サムソン宮本率いる、新根室プロレスです。
代表のサムソン宮本の本業は、オモチャ屋さん。
実弟のオッサンタイガーを始め、多くの地元で働く人たちが参加。
3メートルを超える、アンドレザ・ジャイアント・パンダの誕生や、サムソン宮本のお決まりのギャグに、会場は大盛り上がり!
地元・根室の顔になろうかというその時、サムソン宮本を病魔が襲います。平滑筋肉腫という難病のガンでした。
13年目を迎えた新根室プロレスでしたが、試合後、サムソン宮本の口から告げられた“解散”の2文字とその理由に、観客も言葉がありません。
それでもサムソン宮本は闘います。引退試合はプロレスの聖地、新木場の1stRING。ここで13年間の思いを込め、13番勝負に挑んだのです。
翌20年9月、サムソン宮本は55歳の若さで永眠。
映画は、その後の新根室プロレスをも追いかけていきます。
コロナ禍もあり、なかなか思うような活動ができなかった新根室プロレスですが、サムソン宮本の遺志を継ぎ、3年後の22年10月、彼らは再び新木場・1stRINGに姿を現したのです。
タイトルの「無理しない ケガしない 明日も仕事!」は、新根室プロレスのスローガン。
みんな、それぞれに仕事を持つアマチュア軍団ならではの掛け声です。
中には、心の病を持つセクシーエンジェルねね様や、いわゆるゴミ屋敷に暮らす大砂厚など、今の社会にどこか生きづらさを感じているような人たちをも仲間に引き入れ、生き甲斐を作ってきたサムソン宮本。
プロレスへの愛と、人への愛に満ちた、ひとりの男の生きざまを描いたドキュメンタリー映画です。
やっていることはB級に見えるかもしれませんが、その実と志は超S級!
感動のプロレス物語。新しい年の始まりに、ぜひ観てほしい1本です。
打ち込めることがあるって、なんて素晴らしいんだと感じるはずです。満点!★5つ!
『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』公式サイト