Pick Up Movie!……2026.3.13
『96分』★★★
(満点は★★★★★)

三寒四温。
春に近づくための儀礼のような天候ですが、雪も混じって、真冬のような日もある1週間。
映画でも観ながら、暖かくしてお過ごし下さい!
さぁ、今週は1本です!


『96分』は、台湾のノンストップ・アクション映画。

3年前、高雄で起きた同時多発テロ。
当時、警察の爆弾処理班として任務に当たったのがソン・カンレンでした。
しかし、爆弾は複数箇所に仕掛けられていて、映画館での爆発は防げましたが、一方の百貨店での惨劇を防ぐことはできなかったのです。
心に傷を負い、警察を辞めたカンレン。同僚だったホアン・シンとの婚約も延期していましたが、気持ちを一新し、前を向いて生きようと決意。カンレンはホアンと自身の母親と共に、3回目の追悼式が行われる高雄行きの新幹線に乗っていたのです。
すると、かつての上司から、カンレンのスマホに連絡が入るんですね。
この新幹線に爆弾が仕掛けられているらしいと。さらに、並走する別の新幹線にも爆弾があると言います。
犯人はこの新幹線に乗っているが、誰だかわからない。その犯人の要求は、3年前の事件で警察が隠した“ある真実”の公開だと言うのです。
実は、身に覚えのあるカンレン。彼の脳裏に、あの日の葛藤がよみがえるのでした…。



どこまで書くとこの映画の面白さが伝わり、どこまで書いたらネタバレになるのかが、ちょっぴり難しく(苦笑)。
タイトルの『96分』は、台北から高雄までの所要時間です。
カンレンは正義心の強い男。ゆえに、3年前の事件の後で警察を辞めています。
しかし、犯人はとにかくカンレンら、警察が許せない。犯人は自分の苦しみを警察にも味わわせたいと逆恨みしているんですね。
列車を止めて探せばいいと思うかもしれませんが、そこにも当然そうはさせない仕掛けがある。
絶体絶命の2台の新幹線。そんな中、カンレンが取った行動は…というお話。
この映画、2025年の台湾映画で興行収入1位だったそう。ハラハラドキドキが好きな方は是非!
ちなみに上映時間は96分ではなく、120分です(笑)。★3つ。
『96分』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.3.5
『エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話』★★★★
『ブルームーン』★★★★★
『RIP SLYME THE MOVIE 25th ANNIVERSARY GREATEST MEMORY』★★★★
(満点は★★★★★)

3月になりました。
今週は偶然にもすべてが音楽関連の映画です。
それもクオリティの高いものばかり。
さぁ、今週は3本です!


『エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話』は、音楽ドキュメンタリー。

ボサノヴァに明るくない人でも、アントニオ・カルロス・ジョビンの名や、「イパネマの娘」の曲名は聞いたことがあるはず。
この映画は、そんなアントニオ・カルロス・ジョビン(本名トム・ジョビン)と、ブラジルの歌姫エリス・レジーナが残したアルバム『Elis&Tom』の制作秘話。
ブラジルのみならず、世界中で今もボサノヴァの名盤と評されるこのアルバムは、ボサノヴァの生みの親の1人と言われる
トムと、“ハリケーン”の異名を持つエリスとの共演作。
全曲トムが手掛けた曲を、ロサンゼルスでレコーディング。アレンジャーは、当時のエリスの夫セザル・カマルゴ・マリアーノ。
まず、ふたりの歌唱が根本的に違う。どちらもブラジルの歌手なのに、LAでのレコーディング。セザルのアレンジを、トムは違うと感じています。
つまりは、水と油。うまく混ざるはずがなく。
ところが、ドレッシングよろしく、これが歴史的名盤として後世に受け継がれていくのですから、面白い。
そこには当然、前向きな?大人の譲歩がある。反面、音楽家として譲らないところは、頑として譲らない。
素晴らしい芸術作品が完成するまでの山あり谷ありを、貴重な記録映像と、関係者の証言で、我々は目の当たりにすることができます。
「なんでもっと早く、この映像が世に出なかったのか」。
そんな声が挙がって当然の1本。音楽ファンは必見です。★4つ。
『エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話』公式サイト


『ブルームーン』は、実在した作詞家ロレンツ・ハートの物語。

アメリカはニューヨークのハーレムに生まれ育った、作詞家のロレンツ・ハート。
1919年、24歳で知り合った作曲家のリチャード・ロジャースとのコンビで、20年以上に渡り、ブロードウェイ・ミュージカルの大ヒット作を発表します。その数、26作品。
ところが、1943年、ロジャースが別の作詞家と組んだ舞台「オクラホマ!」を作ると、その初日は満員御礼の拍手喝采。
その夜、ハートも行きつけのレストラン“サーディズ”で、初日の打ち上げパーティが開かれ、ハートも招待されたのですが、その心のうちは複雑で。様々な感情が渦巻くのでした…。



代表作に、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」や、この映画のタイトルにもなっている「ブルームーン」などがあるロレンツ・ハート。
この映画は、1943年3月31日、一夜の物語です。
ハートと、ハートをよく理解するバーテンダーのエディとの会話を中心に、ハートが心を寄せる若きミューズのエリザベス、そして“相棒”リチャード・ロジャースとのやり取りで物語は進みます。
背が低く、決して”イケメン“ではないことを自覚していたハートにとって、エリザベスの存在は心ときめくものでしたが、「ブルームーン」という曲の主人公はまさにハートそのもの。恋人もなく、孤独な男を、空の上から月が見つめている。それでも、真実の愛がほしいと彼は願うのです。
嫉妬、焦り、プライド…。長年の相棒が別の人間と組んで成功したら、ボクだって正直どんな気持ちになるでしょう。
そんな思いが複雑に交錯する夜。心に弱さを抱えるハートは、ひとりでしゃべり倒すのですが、そのハート役を演じるのが、イーサン・ホーク。
彼は改めてすごい役者ですね。台詞の量を考えたら、演じるのではなく“憑依している”と言ったほうが正しいくらいで。
179cmの身長で、150cmの主人公を演じる。そこには映像の工夫に加え、本人のかなりの努力もあったようです。98回アカデミー賞の主演男優賞(作品は脚本賞)にノミネートされたのも納得です。
劇中でも描かれますが、ロレンツ・ハートは1943年に、アルコールが原因のひとつとなり、48歳の若さで亡くなっています。
イーサン・ホークの凄さに敬意を表して。満点!★5つ。
『ブルームーン』公式サイト


『RIP SLYME THE MOVIE 25th ANNIVERSARY GREATEST MEMORY』は、日本の人気ヒップホップグループのドキュメンタリー。

RYO―Z、ILMARI、PES、SUの4人のMCと、DJ FUMIYAからなる5人組ヒップホップグループ、RIP SLYME。
小学校時代からの知り合いだったRYO―ZとILMARIを中心に結成され、1995年にインディーズでアルバムデビュー。
2001年にメジャーデビューを果たすと、02年の2ndアルバム『TOKYO CLASSIC』がヒップホップ史上初のミリオンセラーに。
他のヒップホップアーティストとは一線を画したポップなメロディをバックトラックに、ラップをより身近なジャンルにすることに成功。「楽園ベイベー」を始め、シングルヒットも多数放ってきました。
2017年4月にSUが活動を休止すると、翌18年10月にはグループが活動休止を発表。21年、PESのグループ脱退もありましたが、22年、残る3人体制で活動を再開。
さらに25年4月、デビュー25周年の記念日となる26年3月22日までの期間限定で、5人のRIP SLYMEとしての活動を再開し、新曲やベストアルバムをリリースしてきました。
映画では、ライブ映像や楽屋の素顔を紹介するのはもちろん、この映画のために箱根の初詣旅行を企画。全員が酒を酌み交わしながら、これまでを振り返り、RIP SLYMEとは何だったのか、5人の今について語り合うという内容になっています。
この映画、ファンにとっては3月22日のツアーラストに向けての、いわば“リハーサル”。公開期間も、3月6日〜19日までの14日間限定となっています。
ライブチケットを持っている人はもちろん、RIP SLYMEの音楽に影響を受けた世代の皆さんは見逃さないようにっ。★4つ。
『RIP SLYME THE MOVIE 25th ANNIVERSARY GREATEST MEMORY』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.2.27
『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』★★★
『死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ』★★★★
『#拡散』★★★
『MALUM 悪しき神』★★★
(満点は★★★★★)

先週のこのコラムは、お休みでした。
あっという間に2月も最終週、週末には3月に。やはり2月は短く感じますよね。
だいぶ日が長くなりました。1日が長く感じるようになり、お得な感じがする今日この頃です(笑)。
さぁ、今週は4本です!


『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』は、お葬式が舞台のコメディ・ドラマ。

卒業を間近に控えながら、進路も決まっていない女子大生のダニエルは、今も“パパ活”相手のマックスと体の関係を終えたばかり。
帰宅すると、すぐさま両親から親戚のシヴァ(葬式)に連れて行かれるんですね。
故人の自宅にはたくさんの人が集まっていますが、悲しみに暮れるのは直接の家族ぐらいで、あとは世間話や、それぞれの子どもの自慢話で盛り上がっています。
仕事や恋人の有無など、ダニエルも質問攻めに合いますが、嘘を並べてその場を取り繕わざるを得ません。
すると、まさかのマックスを発見。それも妻子を連れているではありませんか。
さらに、元恋人のマヤもいて、マヤとの関係を知るダニエルの母親からは「おふざけはダメよ」としっかり釘を刺されます。
狭い空間で、これ以上ない息苦しさがダニエルを襲うのでした…。

あらすじを面白く書けませんでしたが(笑)、コメディです。
ダニエルは、ユダヤ系アメリカ人。
元恋人のマヤは女性で、パパ活相手のマックスは男性。今風の自由な恋愛を楽しむタイプのようですが、マヤはしっかりと就職を決めていて、マックスにも実は“完璧”な妻と子どもがいる。
それに対しダニエルには何もない。ゆえに、その場しのぎでつく嘘が、次々と嘘を呼び、にっちもさっちもいかなくなる。
そんなダニエルをZ世代に人気俳優レイチェル・セノットが演じているから、同世代の共感とリアリティを呼んでいるのだとか。
日本の昭和世代に「わかる!」とは正直ならなかったけど、ご同輩はこれも時代と、チャレンジしてみてはいかがです?★3つ。
『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』公式サイト


『死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ』は、実話に基づく物語。

第二次世界大戦中のナチス・ドイツ。
アウシュヴィッツ強制収容所に、ヨーゼフ・メンゲレという親衛隊所属の医師がいました。
優秀な頭脳の持ち主でありながら、優生学に取り憑かれ、収容所に送られてきたユダヤ人を選別。多くの捕虜に、想像を絶する残虐な人体実験を行ってきました。
特に双子への関心が高く、普段の所作とのギャップから、“死の天使”と呼ばれていたのです。
敗戦が決まり、一度は捕らえられたメンゲレでしたが、逃亡に成功します。偽名を使い、ナチの残党らの協力を得て、仲間の多くも逃げた南米へ移り住むと、1949年にアルゼンチン、59年にパラグアイ、60年にはブラジルへ。
しかし、その逃亡生活は、処刑されることの恐怖に怯える毎日だったのです…。

“ナチスが生み出した最大の悪”と言われる、ヨーゼフ・メンゲレ。
ところが、逃亡中のメンゲレは、逮捕を怖れ、処刑に怯える気の小さな男。それでも激昂するのは、自分の行動を肯定する時。「弱い犬ほどよく吠える」の格言通りといった感じでしょうか。
ドイツは、ナチス時代の過ちをこれでもかと映画にしてきました。このことが、文化的側面からの“謝罪”ということなのかなとも感じますが、今回の映画は、ヨーゼフ・メンゲレという“人”の物語。これまでの作品群とは、一線を画している気がしました。
すごいなと思ったのは、今がモノクロで、アウシュヴィッツの時代がカラーで描かれていること。
これがメンゲレの心の中だとしたら、ゾッとしませんか?
あまりにキナ臭い昨今。戦争の狂気だけは避けなくてはならないと、映画が叫びます。★4つ。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』公式サイト


『#拡散』は、ヒューマン・サスペンス。

世界中にコロナウイルスが蔓延していた頃、富山県の小さな町に、とある夫婦がいました。
夫の浅岡信治は介護士として働き、明希はYouTubeで収入を得る。性格も真逆のふたりでしたが、仲良く暮らしていたのです。
ところが、そんな幸せが脆くも崩れ去ります。
妻の明希が、地元のクリニックでコロナワクチンを接種した翌日に、亡くなってしまったのです。
ワクチンが妻を殺したと考えた信治は、妻の遺影を首から下げ、クリニックの前に立ち続けるんですね。来る日も、来る日も。
それを見た地元新聞社の女性記者・福島美波は、「これはネタになる」と、上司の反対を押し切って記事にします。
すると、美波の目論見通り、インターネットを中心に話題となり、信治は一躍、時の人となります。
そこに“世直し系YouTuber”なる面々がやってきて、自分たちと手を組まないかと信治を誘います。
バズらせるためには過激な行動をもとるネットの世界。自分でも気づかないうちに、信治は大きな渦に巻き込まれていくのでした…。

インターネット上には、今もたくさんのフェイクニュースが飛び交っていますが、確かにコロナ禍には不安だらけで、何を信じていいかわからなかった時代。
この映画はその頃を題材に、今の情報社会の在りように警鐘を鳴らす1本です。
パンデミック、迷惑系YouTuber、フェイクニュース、要人襲撃、経済格差など、少々詰め込み過ぎの感もありますが、おそらくこの映画は、観客に問題提起をするのが第一義なんじゃないかと。
裏を返せば、それだけ多くの、多岐に渡る社会課題が散らばっている世の中なんだと。
その中から“選択”をするのは自分です。誰もが信治になってしまう危険性があるんだということではないでしょうか。★3つ。
『#拡散』公式サイト


『MALUM 悪しき神』は、ホラー映画。

ジェシカ・ローレンは、新人の女性警察官。
勤務初日、古めかしい旧警察署の夜勤に自ら志願します。
実は、ジェシカの父ウィル・ローレンも元警察官。ところが、この街にはびこるカルト教団“ロー・ゴッド”の教祖を射殺した後、なぜか同僚を撃ち殺し、自らの頭も撃ち抜いて自殺してしまったのです。
ジェシカは、父が勤めていたこの旧警察署で不審な死を遂げた父のことを探るために、夜勤を申し出たんですね。
施錠された父のロッカーを無理矢理開けるジェシカ。そこには生々しい事件の捜査資料があり、その中にUSBメモリを見つけます。
パソコンに繋ぎ、再生。そこでジェシカが見たものとは…。

深夜の警察署という、いわば密室で起こる恐怖。
伏線はたくさん張り巡らされていきます。
父のことを知ろうとすればするほどに、まさかの事実を突きつけられるジェシカ。そして降りかかる怪奇現象。
現実なのか、幻想なのか、観ている側にも、その区別がつかなくなっていきます。
いろいろと調べたら、この映画はリメイクで、元になる作品があるよう。それを観ていると、さらなる深みに到達できるのかもしれません。
血まみれのジェシカが写ったサイトの画像が、この映画の怖さの象徴です。★3つ。
『MALUM 悪しき神』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.2.12
『劇場版 僕の心のヤバイやつ』★★★★★
『スペルマゲドン 精なる大冒険』★★★
『ブゴニア』★★★★
『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』★★
(満点は★★★★★)

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックが始まりました。
感動のシーンが多いですよね。
特に序盤のフィギュアスケート団体。首位と同点で迎えた最終種目の男子フリー。アメリカのイリア・マリニンが高得点を叩き出し、日本はオリンピック初出場の佐藤駿選手。完璧な演技でしたが、惜しくもトップには届かず。
うつむく佐藤選手を周りのみんなが温かく励ます姿に、涙がこぼれました。
ご覧になったあなたも、きっとそうだったんじゃないですか?
まだボクにも純な心が残ってるんですョ。誰です?単に歳をとって、涙もろくなっただけだと言ってるのは(笑)。
さぁ、今週は4本です!


『劇場版 僕の心のヤバイやつ』は、大人気TVアニメの劇場版。

市川京太郎、中学2年生。典型的な“中二病”男子で、愛読書は「殺人大百科」というヤバめの陰キャラ。
学校における聖域は図書室なのですが、ある日、そこに同じクラスの山田杏奈が陣取って、おにぎりを食べていたのです。
山田杏奈はモデルとしても活躍する美少女で、男子には学校イチの人気女子。市川も気にはしていましたが、とても自分には手の届く存在ではないとわかっていたのです。
ところが、話してみると意外と天然で、見た目とはまた違った可愛いらしさの持ち主。とは言っても陰キャの市川、妄想は膨らむものの何ができるわけでもありません。
ところがです。図書室から始まった出会いが、思いもよらぬ方向へと発展していきます。
市川と山田。じれったいふたりの純愛ドラマが始まったのです…。

原作は累計発行部数650万部を超えた、桜井のりおの人気コミック。
テレビアニメ化もされ、今回は劇場版としての公開です。
市川と山田の恋愛が、“ザ・昭和”なんですョ。だから、自分の青春を重ねちゃう。
ボクは中学、高校と男子校だったから、外部の女子とはずーっとこんな感じ。何をどうしていいのか、まったくわからず。
自分で言うのも変ですが、10代はホントにモテたんですョ。高校の応援団長時代は、横浜の各女子校にファンクラブがあったほどで。
でも女子の扱いがわからないから、まさに“市川京太郎状態”。ああ、今の知識と経験を持って、あの頃に戻りたい…(笑)。
なんて、オジサンたちもそんなことを語りたくなるような映画です。もちろん、ネットスラングもたくさん使われて、若い人たちはリアルで身近な話として観るんでしょうけどね。
99%の確信が、1%の疑念に負けちゃうのが恋愛だったりしません?
ピュアな恋に心踊らせる、京太郎がうらやましい(笑)。
いくつになっても恋したいですよねっ。満点!★5つ。
『劇場版 僕の心のヤバイやつ』公式サイト


『スペルマゲドン 精なる大冒険』は、ノルウェーのアニメーション映画。

普段はアニメとゲームに夢中のイェンス。
それでも思春期の少年ですから、気になる女の子がいます。彼女の名はリサ。友だちと夏休みのキャンプに出掛けたイェンス。そこにはリサも来ていました。
一方、イェンスの体内では、10億を超える精子たちが、外の世界に飛び出すことを夢見ていて、泳ぎの練習や、モビルスーツの開発などに余念がありません。なぜなら、ゴールたる卵子に辿り着けるのは、たった1つの精子だけだから。
控えめな精子のシメンに対し、勝ち気な精子のカミラは常にハッパをかけてきたのですが、遂にその時がやってきます。
イェンスとリサの、初めてのチョメチョメが始まったのです…。

自国ノルウェーでは大ヒットしたそう。
男子ならありますよね、一度は抱いた罪悪感(笑)。そんなシチュエーションも、コミカルな“悲劇”として描いています。
ちなみに、映倫区分はPG12。これは、小学生以下の子供が鑑賞するにはなるべく保護者同伴が望ましく、保護者の助言や指導が必要な作品だということのようです。
親子でとなると、どうなんでしょ(笑)。ボクには子供がいないからわからないけど。
甘酸っぱい思い出?と共に、大人が観てもクスッと笑える1本です。★3つ。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』公式サイト


『ブゴニア』は、アカデミー賞4部門ノミネートの話題作。

巨大製薬会社のCEOで、「Forbes」など、有名雑誌の表紙を飾るなど、今をときめく敏腕経営者のミシェル。
そんな彼女が、帰宅するところを狙われ、謎の二人組に拉致されてしまうんですね。
ミシェルが目覚めると、犯人は男性2人。テディと、いとこのドンです。テディは陰謀論の信者で、気弱なドンはテディを崇拝していました。
テディは、ミシェルが宇宙人だと信じ込んでいて、ミシェルからお金ならいくらでも払うと言われますが、首を縦に振ろうとはしません。
なぜなら、テディの要求はただひとつ。「地球から手を引け」だったのです…。

03年の韓国映画『地球を守れ!』のハリウッド・リメイク。
それを観ていれば別ですが、そうでなければ、まずは何も下知識を入れずに観たほうがいいと思います。
ミシェルは格闘技も習い、頭脳明晰な富裕層。一方のテディとドンは、ミシェルとは対照的な労働者階級。窮地にあっても、毅然とした態度でふたりに立ち向かうミシェルと、あくまでミシェルが宇宙人だとの自論を繰り返すテディとの間に、妥協点など見つかろうはずもありません。
ひとつだけ話しておきましょう。ミシェルが坊主頭なのは、髪の毛が“母船”と連絡をとるためのツールだと信じるテディによって、剃られてしまったから。
はい、あとは観てのお楽しみ(笑)。本当はいろいろと書きたいんですけどね。
伏線とその回収まで、実によく出来てました。面白かったです。
衝撃の結末は劇場で!★4つ。
『ブゴニア』公式サイト


『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』は、ロマンティック・コメディ。

シイナは、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気俳優。ところが、あまりの態度の悪さに大炎上。ほとぼりが冷めるまでと、恋人のレンとNYに旅行に行くのですが、そこでもわがままがエスカレート。レンにも愛想を尽かされてしまいます。
ひとりでNYの街を歩いているうちに、スマホもスーツケースも、すべて失くしてしまったシイナ。放心状態で見知らぬバーの扉を開き、片言の英語でマスターに助けを求めます。
出された強いお酒を何杯もあおるシイナ。当然酔いが回り、外に出るや道に倒れて嘔吐してしまうんですね。
そこに通りがかったのが、同じバーで飲んでいたジャックという男性でした。
彼はインディペンデントの売れない映画監督で、新作のホラー映画の主演女優に、たった今、出演を断られたばかり。
ジャックは汚物まみれのシイナを見て、映画に出ないかと声を掛けるのでした…。

シイナ役の三原羽衣は、Z世代のカリスマだそう。知らないのはオジサンの証拠ですかね(笑)。
全編NYロケで、やさぐれた日本人女優が、仕事の楽しさ、人を愛することの大切さに改めて気付く、再生の物語。
なんですが、いつも言う、あまりに導入部分のシイナが性悪過ぎて…。「どうなろうが知ったこっちゃない。自業自得だ」と思っちゃう。
また、言葉も通じない中で、ジャックと短期間で深い仲になるには、リアリティが欠けていたかなぁ。
やばっ。すべてのZ世代を敵に回したかも(笑)。
単に昭和世代に響かなかっただけかもしれませんからね。若者は、是非劇場へ。★2つ。
『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.2.6
『射G英雄伝』★★★★
『ツーリストファミリー』★★★
『両親(ふたり)が決めたこと』★★★
(満点は★★★★★)

2月になりました。
1月は時間を上手く使って、試写会とオンライン試写を合わせて18本の新作を観させてもらいました。
スマホの小さな画面より、やっぱり大きなスクリーンがいいなぁと感じ、逆にオンラインだと時間の制約がないから、ある意味楽で。
無いものねだりですかね(笑)。
さぁ、今週は3本です!


『射G英雄伝』は、中国の時代劇。

12世紀前半の中国。北宋が金に滅ぼされ、南宋を築きますが、金の属国のような扱いに屈するしかありませんでした。
この頃、勢いがあったのが、北の草原の国、チンギス・ハーン率いる蒙古でした。
宋人ながら、訳あって蒙古で生まれ育った郭靖は、武術の達人集団・江南七怪に鍛えられ、モンゴルの勇者へと成長していきます。
郭靖は、修行の場であった桃花島で黄蓉という女性と出会い、恋に落ちるのですが、とある事件がきっかけとなり、ふたりは離れ離れになるんですね。
一連の出来事が誤解だったとわかった郭靖は、失った黄蓉を探して旅を続けます。
しかし、蒙古と金の戦いが激化すると、郭靖は蒙古に帰らざるを得なくなります。
郭靖と黄蓉は再び会うことができるのでしょうか…。

“しゃちょうえいゆうでん”と読む、この作品には人気の原作があり、ドラマ化もされているみたいで、中国の人々は物語の全容をよく知っているようです。
“訳あって”としましたが、郭靖が宋人なのに、なぜモンゴルで生まれたのかなど、その壮大な背景を知ればもっと楽しめるようです。
それでもスペクタクル時代劇で、恋愛も絡んでくる。チンギス・ハーンは郭靖を娘のコジンの婿にと思っていて、コジンも郭靖が好き。でも郭靖は黄蓉が忘れられずにいます。
147分でも描ききれないのは中国が広いから?
言ってみれば、ワイヤーアクションの武芸もの。すべてを理解しようとしなくてOKです。国境を超えて時代劇が好きなボクには、十分楽しめました。★4つ。
『射G英雄伝』公式サイト


『ツーリストファミリー』は、インド映画。

経済難民として、母国スリランカを脱出してきた4人の家族がいます。夫のダース、妻のワサンディ、長男のニドゥ、そして次男のムッリです。
命賭けで、なんとかインドに密入国を果たしたのですが、すぐさま警察に見つかってしまいます。ところが、まさかのムッリの機転が奏功し、見逃してもらえることになります。
一家が頼りにしたのは、ワサンディの兄プラカーシュ。彼の手引きで、チェンナイの町に暮らすことになります。
ところが、言葉が全然違う。そこで4人はケーララ州の出身ということにして、極力町の人とは話をしないようにと、プラカーシュに釘を刺されるんですね。
それでも人懐っこいこの家族は、周囲の人々と交流を持ってしまい、冷や冷やの連続に。
そんな中、テロ事件が勃発します。警察は、見逃した家族が怪しいと捜査を始めるのでした…。

映画の冒頭に、「本作はどのようなものであれ不法移民を容認・奨励しない」とのテロップが入ります。
映画はシリアスな話ではなく、人情喜劇です。
例えば、4人が暮らす家の大家さんが警察官だったり、偽りの出身州のことを当然何も知らなかったりと、ドタバタの連続です。
ただ、最後は温かい…。
インド映画ですが、あんまり踊らないし(笑)、時間も127分と長過ぎることもありません。
映画のキャッチコピーにあるように、“国と国より、人と人”。これは、今、我々日本人も考えなくてはならないテーマ。時代にマッチした1本と言えそうです。★3つ。
『ツーリストファミリー』公式サイト


『両親(ふたり)が決めたこと』は、スペインが舞台の家族の物語。

スペイン・バルセロナに暮らす、フラビオとクラウディアの老夫婦。
クラウディアは、長年、舞台女優として活躍してきましたが、80歳になった今、末期のガンに冒されていて、病巣は脳にも移転。発作は想像以上に辛いものだったのです。
夫婦で3人の子どもを育て上げ、フラビオは妻をずっと愛してきました。それは病に冒された今でも変わりはありません。
フラビオは決意します。一緒に安楽死の道を選ぼうと。
しかし、スペインでは安楽死自体は認められていても、健常者が共に命を絶つことは認められていなかったのです…。

安楽死を取り上げた映画です。
病に苦しむ人と健康な伴侶が一緒に死を選ぶことを、“デュオ安楽死”と言うそうです。
フラビオとクラウディアは、スペインでは叶わない“デュオ安楽死”がスイスならできると知り、スイス行きを決意します。
しかし、子どもたちは「はい、そうですか」と簡単に納得するはずがなく。
クラウディアは、母になっても仕事優先だったこともあり、長男と長女は母への思いは複雑で、大人になってからは実家に帰ることを避けてきました。一方、末娘のヴィオレッタだけは、母の病を知ると両親と同居。ふたりの決断をいち早く知るんですね。
正解がないテーマだけに、何とも言えない気持ちで観進めてました。自分に置き換えようにも難しく…。
実は演出がミュージカル調というか、創作ダンスのシーンが多くフィーチャーされています。重いテーマを、少し柔らかくという演出なのかもしれません。
死んだら別の墓になんて声をよく聞きますが(笑)、そんな夫婦にはうらやましい愛の形かもしれませんね。★3つ。
『両親(ふたり)が決めたこと』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.1.23
『愛のごとく』★★★
(満点は★★★★★)

先週9本もの作品を紹介したので、今週はこの映画だけ。来週はおやすみです。
さぁ、今週は1本です!


『愛のごとく』は、1965年発刊の純文学の映画化。

及川ハヤオは、ライターを仕事にしている文筆家。でも、元々は小説家で、デビュー作で賞を受賞したものの、その後はヒット作を出せず、ライターに転向していたのです。
ある時、大学の恩師が亡くなったという報せが届きます。
教授にとっても初のゼミ生だったハヤオたちは特別な存在だったと教授の夫人から聞かされ、何か手伝えればと申し出るんですね。
夫人は山のようにある書籍の整理を依頼します。
ハヤオの他に、藤木、マサキ、詩織、そしてイズミが集まります。
イズミとハヤオは恋人同士でしたが、今は別れて、イズミはマサキの妻になっていました。
久々の再会にぎこちなさを覚えるハヤオでしたが、昔の恋心に再び火がつくのに時間はかからなかったのです…。

1930年(昭和5年)に生まれ、34歳の若さで急逝した作家・山川方夫の青春官能小説の映画化。
当然、時代は令和の今にアレンジされています。
不倫ものは個人的にあまり好きではありませんが(笑)、伏線として、近所に暮らす熟年夫婦のSM行為を目にしてしまうハヤオがいて。わざと窓を開け、見られていることを喜ぶ夫婦の姿が、ハヤオの理性を飛ばしてしまったのかもしれません。
元カノとはいえ、親友の奥さんとの不倫。誰も幸せにならないと思うけど、さぁ一体どう始末を付けるのか、気にしながら観てました。もちろん、ここには書きません。劇場で確かめて下さい。★3つ。
『愛のごとく』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.1.15
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』★★★★
『グッドワン』★★★
『最後のミッション』★★★
『ただ、やるべきことを』★★
『旅の終わりのたからもの』★★★
『チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・マン』★★★
『長安のライチ』★★★★
『万事快調 オール・グリーンズ』★★★★
『モディリアーニ!』★★★★★
(満点は★★★★★)

今週は大量!
このコラム史上最多かも?
早速行きましょう。
さぁ、今週は9本です!


『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』は、ノルウェーのゴシック・ボディホラー。

エルヴィラは2人姉妹の姉。妹のアルマと共に、母レベッカの再婚により、スウェランディア王国にやってきます。
新しい家の主人は大金持ちで、母の婚姻はもちろん財産目当て。エルヴィラたちは、この家の一人娘アグネスと義姉妹になります。
ところが、再婚してすぐに主人が死んでしまうんですね。
すると、我が物顔で家を仕切り始めるレベッカたち。アグネスはまるで下僕のような扱いに。
この王国に暮らす女性たちは、みんなユリアン王子と結婚するのが夢。エルヴィラも熱烈なそのひとりですが、今のままでは王子のお眼鏡に叶うはずがないと、レベッカはエルヴィラを女学校に入れ、さらに全身に整形を施し、財力にモノを言わせてエルヴィラを大改造します。
そしてついに、ユリアン王子が、伴侶を探すための舞踏会を開くことになったのですが…。

ノルウェーの若き才能、エミリア・ブリックフェルト監督にとっての長編デビュー作で、グリム童話の「シンデレラ」を題材にした"ゴシック・ボディホラー"。
"ボディホラー"という言葉も観れば納得で、あの時代ですから、整形するにも麻酔などありません。のみが振り下ろされ、瞼を縫うシーンでは、観ているあなたも眉間にシワが寄るはずです。
現代社会でも整形を是としてますが、みーんな同じ顔になっちゃう。美の価値観なんて時代と共に変わるのに、一度メスを入れたら、戻したくても戻せない。
もっと言えば、失敗したらどうするの?
エルヴィラも、ちょっとお鼻は上を向いているけど、それで十分可愛いのに。
ルッキズムが批判される時代に逆行する流れに矛盾はないのか?おじさんにはわかりません(笑)。
願望は止まることを知りませんから。そんな今の時代にも、警鐘を鳴らしているかのよう。
エルヴィラの妹のアルマが、冷静でクールなんですョ。でも、ある意味、現代女性の一部を投影していて。達観した彼女の存在が救いでした。
面白かったです!★4つ。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』公式サイト


『グッドワン』は、17歳の少女の物語。

サムは17歳の少女。
父クリスと、父の昔からの友人であるマットと、これから3日間のキャンプに出かけます。
本当はマットの10代の息子も参加予定でしたが、直前にバックレて不参加。3人での旅行となりました。
クリスは優しい父親でしたが、自分を曲げないというか、サムには威圧的に接するところがあります。マットとの昔話には、娘としては耳をふさぎたくなるような話も。
それでも楽しいキャンプになるよう、サムは気を遣っていたのですが、ある出来事がサムの心を打ち砕き、一気に大人への不信感が溢れ出たのでした…。

ポスターのタイトル部分が、ぐちゃぐちゃに消されていますが、それこそがサムの気持ちなのでしょう。
もしかしたら、軽い気持ちだったのかもしれませんが、サムを傷つけるには十分すぎました。
これ以上はネタバレになるかと思いますが、子どもの巣立ちというか、いつまでも自分の手の中にいると思うのは間違いで、それは親のエゴ。逆にまだ守ってほしい年でもあるのが17歳。
揺れるサムの心情を描いた作品です。
どの立ち位置で観るかで感想も変わってくるかもしれませんが、大人の皆さんは我が事として気をつけて。★3つ。
『グッドワン』公式サイト


『最後のミッション』は、元スタントマン俳優が主役を務めるクライムアクション。

陸上自衛隊の特殊部隊を率いて、東ヨーロッパに派遣された土門新。
紛争地域で戦闘に巻き込まれ、部下の波岡カズオが捕虜になってしまいます。
なんとか救出に成功しますが、そこで拷問を受けたことで心身を病んでしまったカズオ。その責任を感じた土門は、カズオと一緒に山奥での田舎暮らしを選択します。
カズオには結婚を約束したゆうりという女性がいました。ゆうりはカズオと同じ施設で育った幼なじみです。
しかし、極秘任務遂行のため、カズオはゆうりを含め、社会と距離を置き、その結果、ゆうりは最先端ロボット企業のCEO・浜田健と結婚してしまいます。
ところがです。ゆうりは浜田に殺されたというのです。
その証拠写真を、同じ施設で育った薫が持っていることを知り、今度は薫の身が危ないとカズオは土門に相談するんですね。
薫と接触した土門でしたが、薫も何者かに殺されてしまいます。
カズオの妹・小春はジャーナリスト。施設で3姉妹のように仲良くしていたゆうりと薫が殺害された事件を、小春は何としても解明しようと奔放するのですが、遂には小春の身にも危険が迫るのでした…。

伝説の元スタントマン・高橋昌志主演作。
お金をかけない、いわゆる"B級映画"(質が悪いという意味ではないので、誤解なく)。
悪と巨悪に小さな正義が立ち向かう物語。いい意味での手作り感があります。
見処はベテラン・アクション俳優の強靭な肉体による演技ということになりますか。
50歳のストイックさに、敬意を表して。★3つ。
『最後のミッション』公式サイト


『ただ、やるべきことを』は、韓国の社会派ドラマ。

2016年の韓国。
造船業の漢陽重工業に勤めて4年目になるジュニは、異動で人事部に配属されます。
造船不況の風が一段と強まる中、転任直後のジュニに命じられたのが、リストラ対象者の名簿作りでした。
解雇基準を点数で定め、人員整理をする。ジュニにとって、やりたい仕事であるはずがありません。しかし、社命ゆえ、人事チームで進めていかなくてはならなかったのです。
すると、お世話になった先輩上司か、友人かのどちらかをリストラ対象者に選ばなくてはいけなくなります。
ジュニは頭を抱えるのでした…。

2016年の韓国は、パク・クネ元大統領の退陣要求に揺れていた時代。
造船不況を受け、リストラにおける会社と社員の間の軋轢や、人間ドラマを描いた作品です。
実際に悩み苦しむのは、クビを告げられる社員と人事部の社員たち。どちらも社員で、命じる社のトップはそのまま生き残るわけで。
そのあたりに一石を投じている作品だと思います。
仕事って、お金を稼ぐためだけのものじゃなく、自分の存在意義の証しだったりもしますよね。
自国の人には、よりリアリティを持って響くんだと思います。
タイトルにはアイロニーがたっぷりだと思います。★2つ。
『ただ、やるべきことを』公式サイト


『旅の終わりのたからもの』は、父と娘が探す家族のアイデンティの物語。

NYに生まれ育ち、ジャーナリストとして活躍しているルーシーは、1991年、父エデクと共に父の故郷であるポーランドを初めて訪れます。
エデクは第2次世界対戦中のホロコーストを生き抜いた人物。エデクはあれから一度も祖国の地を踏んではいなかったのです。
父にとっては、約50年振りに訪れたポーランド。
ルーシーが綿密に立てた計画を、おちゃらけながら、ことごとく崩していくエデク。
不満が募り、爆発寸前のルーシーでしたが、父の心の奥底に今も在るものに、ルーシーは気づいていなかったのです…。

父と娘の旅を通じて、戦争が残した爪痕を描いた作品。
ルーシーはジャーナリストですから、家族のルーツが知りたくて仕方ない。
自由に明るく人生を謳歌しているように見える父エデクでしたが、壮絶な経験をした故郷には戻りたいけど、戻りたくもない。
そんな互いの複雑な心情の違いが、ポーランドの地で、戦争の残酷さを浮き彫りにしていきます。
1991年、ポーランドという国がどんな状況にあったのかは、公式サイトに解説が載っています。読んでから観ると時代背景がわかって、より理解が深まるかもしれません。
エデクのユーモアと、弱さも持つルーシーの人間性、脇を固める登場人物たちのユニークなキャラクターが、重いテーマを少し軽く感じさせてくれるはずです。★3つ。
『旅の終わりのたからもの』公式サイト


『チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・マン』は、音楽ドキュメンタリー。

1926年10月18日、アメリカのミズーリ州セントルイスに生まれたチャック・ベリー(本名チャールズ・エドワード・アンダーソン・ベリー)。
20代半ばから本格的にギターを始め、1955年にレコードデビュー。"ダックウォーク"という独特のギター奏法で話題になると、その人気は人種の壁を越え、国境をも越えていきました。
この映画は、"ロックの父"と呼ばれたチャック・ベリーの伝記映画というよりは、彼に影響を受けた人気アーティストたちのライヴ映像集。ビートルズ、ローリングストーンズ、ジミ・ヘンドリックスらが、チャック・ベリーの曲をカバー。もちろん、ブルース・スプリングスティーンとの共演のように、チャック・ベリー本人が参加したステージの映像もあります。
55分というコンパクトな映画です。往年のロックファンは是非。若い人にも、新たな発見があるかもしれませんョ。★3つ。
『チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・マン』公式サイト


『長安のライチ』は、中国の史実に基づいた時代劇。

中国、唐の時代。
算術担当の下級官吏の李善徳には、愛する妻と娘がいて、唐の都・長安に、ローンを組んで家を買ったばかり。
そんな李善徳に、ある命令が下されます。
皇帝が嶺南のライチを欲していると。それを長安まで新鮮な状態で届けよというのです。
成功すればローンも一発で返済できるほどの恩恵を受けられますが、失敗すれば死罪が待っています。
ライチは1日で色が変わり、2日で香りが消え、3日で腐る果物。数千キロ離れた場所から、輸送など出来るはずがありません。
どうやら皇帝は楊貴妃の誕生日に、美味と評判のライチを贈りたいと考えているよう。
李善徳は、嶺南の地へ。
最短距離を計算しては試し、しくじっては案を練り直し。出会った多くの仲間たちと不可能を可能にするため、頑張ってはみても、希望の光はほとんど見えませんでした…。

ライチ使というのが、唐の天宝年間に実在したと解説にありました。
李善徳に白羽の矢が立ったのも、"生け贄"のようなもの。騙されて誓約書に署名をしてしまったのですから。
それでも李善徳はその人柄もあって、出会った人たちの力を借り、得意の算術も使って打開策を考えます。しかし、無理なものは無理。それでも彼は諦めませんでした。
物語は人間関係も含め、いろんな展開を見せていきます。結末も意外といえば意外です。
コミカルに描かれてはいますが、中国の良心を見ると言うんですかね。現代にも通じる寓話じゃないかなと。
李善徳の正義を、今の中国政府のお偉いさんに観てもらいたいと感じました。★4つ。
『長安なライチ』公式サイト


『万事快調 オール・グリーンズ』は、破天荒な女子高生の青春物語。

茨城県の東海村にある、とある工業高校。
2年生の朴秀実は、いわゆる"クラスカースト"下位の女子。仲良しの岩隈真子も漫画オタクで、クラスでは浮いた存在でした。
対照的だったのが矢口美流紅で、見た目も可愛く、足も早い。男子が多い工業高校で、いつも輪の中心にいたのです。
ところが、矢口が実習であやまって右手の小指を切り落としてしまうんですね。
陸上部も辞め、ブラブラしていた矢口が、公園で仲間とラップのフリースタイルに興じる朴を見かけます。
話しかけ、距離が縮まるふたり。共通していたのは、クソみたいな家庭環境と、この町から抜け出したいという思いでした。
しかし、先立つものがない。
すると朴が、以前トラブルに巻き込まれた際に手に入れた大麻の種を見せるんですね。
園芸部を復活させ、屋上のビニールハウスで大麻を栽培しようと。岩隈も巻き込んで、高2女子の危ない金稼ぎが始まるのでした…。

松本清張賞を現役大学生の21歳の時に受賞した、波木銅の青春小説の映画化。そんな若さが溢れんばかりの映画になっています。
設定は無茶苦茶です(笑)。
リアリティを求めたら、目を覆うような。でも、細部に関しては、無くはない。それどころか、日本のあちらこちらにある閉塞感なんじゃないかなと。
朴にとって、ラップは自己表現の大切なツール。でも、大人たちはそこにもつけ込んできます。
みんな、夢だって無いわけじゃないけど、今を生きることに精一杯。振り返れば、ボクらも若い頃はそんなだったし、それが青春だったんじゃないかなと。まぁ、この主人公たちは、はみ出し方が半端ないだけで(笑)。
女子のほうが胆が座ってますね。これも時代ですかね。
"禁断の課外活動"。へ理屈抜きに楽しんでみて下さい。★4つ。
『万事快調 オール・グリーンズ』公式サイト


『モディリアーニ!』は、ジョニー・デップ監督作品。

1916年のパリ。第一次世界対戦が大きな影を落とす街に、イタリア人の芸術家が暮らしていました。彼の名はモディリアーニ。
才能は豊かでしたが、未だ世の中には認められず。個性的な芸術仲間と、酒を飲んではうさを晴らす毎日を送っていたのです。
モディリアーニには、執筆家で才色兼備の恋人ベアトリスがいて、彼女はモディリアーニの才能を高く買っています。
知的なふたりゆえ、意見の衝突はたくさんありましたが、ベアトリスの存在がモディリアーニを支えになっていたのは間違いありません。
そんなモディリアーニに、千載一遇のチャンスが訪れます。大金持ちの芸術品コレクターのモーリスが、とても興味を持っているというのです…。

ジョニー・デップにとっては、30年ぶりの映画監督作品。
戦火で先が見えない街と同様に、自分の人生の先が見通せないモディリアーニ。ましてやイタリア人ですから、パリジャンからは蔑まれる。カフェで金持ち相手に似顔絵を描くなどして、その日暮らしをしていましたが、ベアトリスや行きつけの酒場の女主人など、わかる人にはわかる。それがベアトリスの作品であり、人柄だったのです。
魑魅魍魎のアートの世界。紆余曲折あってモーリスと直接話した席での会話が、彼を変えていきます。
モーリスにはアル・パチーノ。その存在感に鳥肌が立ちました。
この数分間のやり取りを観るためだけに、この映画を観てもいいぐらい。ちょっと言い過ぎかな。
ジョニー・デップならではのユーモアと、退廃の中に見える希望と。音楽もいい味付けになっています。
新年最初の満点作品です。★5つ!
『モディリアーニ!』公式サイト
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2026.1.8
『おくびょう鳥が歌うほうへ』★★★
『架空の犬と嘘をつく猫』★★★
『喝采』★★★★
『五十年目の俺たちの旅』★★★
『ぼくの名前はラワン』★★★
(満点は★★★★★)

あけましておめでとうございます!
今年最初のコラムです。
2025年は139本の新作映画を観させてもらいました。
メジャーなものではない作品が多い中、素晴らしい映画との出会いも多数ありました。
そんな映画を1本でも多く紹介できればと思っています。
今年もよろしくお付き合い下さい。
さぁ、今週は5本です!


『おくびょう鳥が歌うほうへ』は、ひとりの女性の再生の物語。

ロナはロンドンの大学院で生物学を学んでいた29歳の女性。
そんなロナが、生まれ故郷である、スコットランドのオークニー諸島に帰ってきます。
実は彼女、ロンドンでの生活でアルコール依存に陥り、断酒のリハビリプログラムを終えての帰郷だったのです。
恋人とも別れ、この地で一からやり直したい。
しかし、過去のトラウマが、突如としてフラッシュバックしてきます。
それでもロナは前を向こうと努めるのでした…。

タイトルと作品のビジュアルイメージからは、こういう内容の映画だとは想像がつきませんでした。
主演で、プロデューサーも務めたシアーシャ・ローナン自身が、アルコールの依存症に悩まされていたと告白。リアルな演技は内面から湧き出ているのかもしれません。
この映画の魅力のひとつは、オークニー諸島の荒々しい自然だと思います。
映画は島々に伝わる伝説から始まりますが、ゴツゴツとした岩肌に叩きつける白波、広大な大地に吹きすさぶ風。
優しく洗い流すのではなく、まるで痛みを伴ってでも“剥ぎ取って”いくかのよう。
ロナがヘッドホンで音楽を聴いている時、もしかしたら心は都会にあっても、外した時には厳しい現実が目の前にある。そんな状況を表現しているかのようで。
様々な依存症の克服は1日、1日の積み重ねだと言います。長い歳月、禁を破らなかったとしても、目の前のその日が勝負らしいですからね。
タイトルにある“おくびょう鳥”とは、ロナが島で生態を調べることになった、ウズラクイナという鳥の別名だそうです。★3つ。
『おくびょう鳥が歌うほうへ』公式サイト


『架空の犬と嘘をつく猫』は、寺地はるなの人気小説の映画化。

1988年。3世代の家族が同居する羽猫家は、父母と姉弟、そして祖父母との6人暮らし。
当たり前のような家族の風景に見えますが、実は家族の誰もが“嘘”を抱えていたのです。
小学生だった長男の山吹は、弟・青磁の死を受け入れられない母・雪乃のために、青磁になりすまして手紙を書いています。
腫れ物に触るよう、雪乃に気を遣う家族たち。
そんな家の空気が大嫌いな2つ年上の姉・紅は、早くここを出て行こうと、こっそりお金を貯めています。
父・淳吾はといえば、雪乃から逃げるように愛人の家に入り浸るようになっていました。
祖母の澄江は骨董品を扱っていますが、価値のない物も口八丁で売っていて、祖父の正吾が語るのは夢ばかり。今は遊園地を作るんだと山吹に話しています。
数年後、正吾が亡くなり、中学生になった山吹はひとつ年上のかな子に初めての恋をします。
高校生になった紅は家を出ていきますが、雪乃の心の中には今も青磁が生きています。
こうして、羽猫家の人々にも時は流れていくのでした…。

家族の30年間の物語。
ボクが嘘を“嘘”と書いたのは、羽猫家の誰もが、悪意を持って人を騙す人たちではないことを伝えたかったから。
高校を卒業した山吹は専門学校に進み、アルバイト先の飲食店で、小学生の時に引っ越してしまった佐藤頼と再会します。彼女との出会いが山吹には大きかった…。
あ、あんまり書くとネタバレになっちゃうかな。
って、まだ何も伝えられていない気もしますが(笑)。
優しい映画です。
いい嘘には、嘘ではなく、別の言葉があればいいのにと思いました。
ちなみに主演は高杉真宙。ドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』で演じたのとは、当然ですが、まったくの別キャラ。ただ、奥底にある優しさは滲み出ていた気がします。★3つ。
『架空の犬と嘘をつく猫』公式サイト


『喝采』は、ブロードウェイの伝説的女優をモデルに描いた作品。

49年で206本もの舞台に出演してきた、ブロードウェイの大女優、リリアン・ホール。
若き舞台監督のデヴィッドが、彼女しかいないと主演を依頼したチェーホフの戯曲「桜の園」でしたが、リリアンの様子がどこかおかしい。何度も台詞を忘れてしまうのです。
勧められて訪ねた医師から告げられたのは、認知症との診断でした。
まさかの告知に言葉を失うリリアンでしたが、その事実を認めたくはありません。リリアンは病状を誰にも話さず、稽古に臨みます。
しかし、周りの目もさすがに冷ややかになっていき、代役を立てることも検討される中、リリアンはそれでも舞台を務め上げる決意をするのですが…。

実在したブロードウェイの名優、マリアン・セルデスをモデルにした映画。身につまされるというか、どうなってしまうのだろうと、ハラハラしながら観てました。
リリアンには娘がいます。一見、仲のいい母娘ですが、リリアンが舞台のために犠牲にしてきたものはあまりに大きく。
そんなリリアンにとって、突きつけられた現実をどう受け入れ、引き際の美学をどう演じ、キャリアに幕を引いていくのか。
リリアンには身の回りの世話をしてくれる、イーディスという付き人がいます。この人の存在が実に大きく。また、たまにベランダ越しに世間話をする、ダンディなタイという男性も大切な隣人で。
人に恵まれるということが、本当に大きな財産なんだということを感じるはずです。
リリアンにジェシカ・ラング、イーディスにキャシー・ベイツ、タイにピアース・ブロスナン。豪華ベテラン俳優陣の名演技をご堪能あれ。★4つ。
『喝采』公式サイト


『五十年目の俺たちの旅』は、昭和を代表する青春ドラマ『俺たちの旅』の50年後を映画化したもの。

カースケとオメダは三流大学の同級生。そこに、オメダの同郷の先輩で、早稲田大学OBのグズ六が加わり、青春時代を謳歌していました。
三人三様の生い立ちと性格でしたが、共通していたのは、社会に縛られたくないこと。大学を卒業後、皆一度は就職しますが、退職。自分たちの会社を立ち上げたこともありました。
あれから50年。全員が70代になりました。
カースケは小さな町工場を経営。オメダは米子市長に。グズ六は介護施設の理事長を務めています。
ある日のこと、カースケの工場をオメダが訪ねます。思い詰めているような様子に、カースケが問いただそうとするのですが、オメダは口を開きません。
カースケはグズ六に声を掛け、久しぶりに3人で集まったのですが…。

1975年10月に放送がスタートした、ドラマ『俺たちの旅』。
自由な生き方を求める主人公たちの生きざまが、若者のバイブルのように愛され、その後も10年、20年、30年と、折々でスペシャルドラマが作られてきました。
50年目は初の映画化となり、監督はカースケ役の中村雅俊。キャリア初の映画監督です。
昔の映像をふんだんに盛り込んでいるので、ドラマのファンには懐かしく楽しめると思います。
逆に言うと、初めての人には簡単な予習が必要かなとも感じました。
ただ、ターゲットがはっきりしている映画も、ありはありですからね。あの頃、青春を過ごした皆さんには、3人の元気な姿がパワーになるはずです。生涯青春!★3つ。
『五十年目の俺たちの旅』公式サイト


『ぼくの名前はラワン』は、ドキュメンタリー。

イギリス人の映画監督エドワード・ラブレースが、イラクに暮らすクルド人の少年ラワンと出会ったのは、2019年のこと。
ラワンは生まれつき耳が不自由な“ろう”の男の子。十分な教育も受けられず、差別もある国で生きていくことに不安を感じた両親は、兄とラワンを連れて、イギリスへの亡命を決めるんですね。
しかし、その道は過酷なものでした。
1年に渡る難民キャンプでの生活を経て、周囲の支援を受け、イギリスに入国できた一家は、ラワンを王立ダービーろう学校に入学させます。
そこでラワンは、初めてイギリス手話を学ぶことに。
なかなか心を開くことができないラワンでしたが、手話という言葉を手にしたラワンが変わっていくのは、誰の目にも明らかでした。
ところが、イギリス政府が一家の国外退去を命じるんですね。なんとかイギリスに留まりたいと願うラワンたちは、いったいどうなってしまうのでしょうかというお話。
監督は4年間、ラワンたちを追い続けたと言います。
映画を観終えた時は、耳が不自由な少年を主役にしたフィクションだと思ってました。ドキュメンタリーだと知って、ビックリ。それほど、物語が物語として存在していましたから。
家族の葛藤、周囲の温かさ。立ちはだかるハードルが、越えても越えても次々と現れるのは、ボクたちの生活においてもよくあること。そんな中で、ラワンの姿が希望を持って日常に溶け込んでいく様に、光を見るとでも言うのでしょうか。
自己表現は、生きるための大切な栄養素だなと改めて。
手話って、国際共通ではないんですね。まだまだ学ばないといけないことがたくさんあります。★3つ。
『ぼくの名前はラワン』公式サイト